第9話

 十分後。

 街へ繰り出した九十九達は、戦いたい黒月を囮に戦闘を避けながら、良さげなマンションへと避難した。

 チーム編成は、建設その他諸々部隊が二人、拠点防衛部隊が三人、実働部隊が三人、そして僕と黒月さんのリベロ部隊で組んだ。


「どうぞ、どうぞ。緊急事態には、そのライターで何かを燃やして狼煙を上げてください。僕と黒月さんが向かいます」


「は? 何で私が? 狼煙を上げた奴から殺すわよ」


「はい、気にせず上げていきましょう。では作戦開始」


 九十九と黒月は、施設の端からローラー作戦で出口を探すことにした。

 行き詰まっていたのは皆同じらしく、仲間もどんどん増えていった。

 運が良かったのは、重症者がほぼいなかったこと。まぁ動けなくなった人は軒並み食われたのだろうが、結果的に探索速度が上がったのは僥倖だった。


 ……ただ、ここまでやっても、出口らしき物は一向に見つからなかった。ドアっぽい場所を手当たり次第に開けてみるも、魔獣が中から飛び出してくるだけ。

 加えて僕は今、実にデスゲームらしい面倒ごとに直面していた。


「おいおい、んなゴミ背負ってどうすんだ? 魔獣の餌にでもすんのか?」


 一旦拠点に戻る途中。怪我人を背負った九十九は、別のパーティに遭遇していた。

 鉢合わせたのは怖そうな男女五人組。そう、派閥争いってやつだ。


「テメェらの強さ見たぜ? どうだ? あんな足手纏い共捨てて俺らと行かねぇか?」


「お誘いは嬉しいですが、お断りします。お互いクリア頑張りましょう」


「時間もあと半分くらいしかねぇ。賢くなろうぜ? それに、どっちか一つのパーティしかクリアできねぇかもしれねぇぜ?」


「それはないですね。クリアに条件がある可能性は考慮していますが、人数や団体の制限はない筈です。あるなら対人戦闘をルールに組み込んだ方が合理的ですし、きっとこれを見ている客も盛り上がりますから」


「「「「「……」」」」」


 何も言い返せない彼らを鼻で笑い、黒月はスタスタと先に行ってしまう。

「肉壁が私の後ろを歩いてどうするの? 早く来なさい」


「はいはい。では、お互い頑張りましょう」


 去っていく九十九の背中を、彼らは恨みがましく見つめていた。


 ……しかしそれから二時間。

 これと言った収穫も得られないまま、遂にタイムリミットまで残り一時間五分となった。


 拠点のソファに一人座る九十九は、テーブルに広げた自作の地図を難しい顔で睨みつけていた。

 三角測量を用いて計算した結果、この敷地面積はおおよそ0.4㎢。あの有名な鼠のテーマパークとほぼ同じ広さだった。建物は殆ど探索したが、それでも出口は見つからない。

 残り一時間。闇雲に探したところで、タイムアップが関の山だ。

 ……それに。


 九十九は拠点内を見回し、仲間達の状態を観察する。

 そろそろ皆の体力も精神力も、目に見えて削れてきている。現状の仲間は十七人。内動ける者十三人。

 これをどう使うか……。


 屋外から魔獣の悲鳴が聞こえてくる。

 黒月さんが苛立ちを発散しているのだろう。体力は温存してほしいが、まぁ牽制になるから放っておこう。

 と九十九が再び地図に目を落とした。その時だった。


「あ、あの、九十九さんっ」


 突然の声に「ん?」と振り返ると、あの片足に包帯を巻いた女性が立っていた。


 名前は確か、ふくろうさん。珍しい名前だったから覚えている。戦線を離脱した彼女には、屋上からの監視を任せていた筈だが。


「えっと、その、ちょっと気づいたことがあって、でも間違っているかもしれな」


「いや、今は一つでも情報が欲しい。何でも言って?」


 縋るように立ち上がった九十九に、彼女は驚きつつも頷く。


「屋上から魔獣を見てたんだけど、一匹だけ変な動きをしている鳥がいたの」


「鳥?」


「うん。人を襲わないでずっと空を飛んでて、一時間に一回、必ず同じ場所に降りるの」


「っ、教えて!」


「ひぁっ⁉︎」


 アイギスに彼女を乗せた九十九は、一直線で階段を駆け上がる。

 それを見た仲間達も、何だ何だと彼の後を追った。屋上に出た九十九は、彼女の指差す先に目を向ける。


 上空を羽ばたく、一匹の……烏か? あれは。頭が三つある烏だ。あんな魔獣、デバイスには載っていなかった筈。それに、飛行経路に規則性もないように見えるが……。


「……あと一分。見てて」


 全員が固唾を飲んで見守る先、三秒――二秒――一秒――……残り一時間ちょうど。降下した烏が、マンションの影に消えた。


「ッ皆すぐに出られるようにしておいて! 大志さん、それとアレンさん、ついてきて! 安全を確認してから……あっ、絶対に戻ってくるから、心配しないで」


「ハハッ、もうお前を疑っている奴なんていねぇよ。ほら行くぞ」


 立ち止まった九十九は、頷く全員の顔を見て妙な気持ちになる。

 心が持ち上がるような、フワッと浮くような。しかし今はそれどころではない。


「っ梟さん! ありがとう! 本当に!」


 その言葉に、梟は両手を握り締める。ようやく役に立てた。走り去る九十九を見送る彼女の目には、喜びの涙が浮かんでいた。


 一気に階段を駆け降りた三人は、バリケードを飛び越え玄関を飛び出す。彼らを待っていたかのように、そこで黒月が合流。


「ねぇ、何私抜きで盛り上がっているわけ? 何で呼ばないわけ?」


「っ黒月さん、この場所に向かって! 頭が三つある烏がいる筈だから! そこが」


 走りながら九十九の広げた地図を確認した黒月が、言い終わる前に加速する。

 一瞬で突き放された九十九は、「やっぱバケモンだな」という大志の言葉を笑って肯定した。


 数分後。

 黒月の姿を見つけた三人は、急いで駆け寄る。

 辺りを見回しても烏はいない。流石に飛び立った後か。……でも。

 九十九は彼女の視線を追い、アスファルトに嵌るそれを見下ろした。


「はぁ、はぁ、……マンホールって」


「確かに出口というだけで、ドアや扉とは書かれていないものね」


 誰が分かるか。クリアさせる気あるのかこれ? いや、ヒントがあった以上、これは言い訳か。デバイスに記載のない、ポイントにならない魔獣。そこに疑問を感じていれば、もう少し早く気づけたのかもしれない。


 九十九はアイギスでマンホールの蓋を開け、中を覗いてみた。

 薄暗い先に続く、一本道。


 ……間違いない。ここだ。

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