第8話
九十九は薄暗いコンビニ内から、外の様子を窺う。
死体がゴロゴロと転がる凄惨な光景が広がっているが、残党はいない。さっきのネメアとの戦闘で、大方が逃げたのだろう。
菓子パンが並ぶ商品棚に背を預け、九十九は大きく息を吐いた。
そんな安全と安心を噛みしめていた彼に、水が投げ渡される。
「褒美よ。飲みなさい」
相変わらずな黒月の態度に、九十九は「どうも」と苦笑しながら喉を鳴らした。
彼は全員の容態を確認しながら、人数を把握する。
……皆若いな。全員僕と同い年くらいじゃないか? とりあえず、僕と黒月さんを含めて、生存者は十人。大怪我で動けない者を除けば、戦力は八人ってとこか。……少ないな。
思い思いの休憩を取りながら、他のプレイヤーは九十九と黒月の言葉を待っていた。示し合わさずとも、この場の誰もが無意識に理解していたのだ。群のボスが誰なのかを。
思考を整理した九十九は、全員が見える位置に座って手を上げた。
「一応聞きたいんですけど、協力してくれるってことで良いんですよね?」
「ああ」「いーよー」「こっちとしてもありがてぇしな」
元気な者が同意する中、片足に包帯を巻いた女性がおずおずと手を上げる。
包帯は真っ赤に染まり、その傷が浅くないことが一目で分かった。
「あ、あの……私、もう歩けなくて、だから、ぁ、でもっ」
「大丈夫ですよ。ここに置いていったりはしませんから」
「……え?」
その女性だけではなく、他の重症者も、無傷の者も、全員が顔を上げて驚いた。
九十九とて理解している。戦場に於いて、負傷者がどれだけ足手纏いになるかなど。そんなこと百も承知の上で、彼は全員でのクリアを目指しているのだ。
「これから頑丈な建物を選んで、一旦拠点を作ります。動ける人は、数人でチームを組んで情報収集と人員集めを。動けない人は、拠点内にバリケードを作ってもらいます。出口を見つけ次第、全員でクリアしましょう。そのためにまず、皆さんの異能を教えてほしいのですが、」
作戦を話す九十九を嘲笑うかのように、レジに座っていた黒月が足を組み直す。
「とんだお人好しね。自殺願望でもあるの?」
「僕は僕の命が一番大事だよ。でも全員でクリアできるなら、それに越したことはないでしょ」
「メリットがなさすぎる。長期的な籠城戦ならまだしも、私達がやるのは脱出戦よ? 足手纏いが増えれば増えるほど、行動も遅くなる。
そもそも今回が協力ゲーだっただけで、デスゲームって個人戦でしょ? 死ぬのも生きるのも自己責任な世界で、怪我したから助けてくださいって、ふふっ、虫がよすぎるでしょう?」
「だからと言って、助けられるかもしれない命を、何の目処も立っていない段階で見捨てるのは鬼畜の所業だろ。僕達は異能のおかげで、従来の人間とは違う動きができる。その分作戦の幅も広がるし、助けられる人数も増えるってことだろ?」
「助けるって、怪我人だけじゃないわよ? ここの全員、あんな雑魚共相手に遅れを取っていた奴らよ? 全員の面倒を私達二人で見るの? 偵察もして、救助もして、逃走経路も確保して、敵も排除するの? それ何ていう奴隷?」
「違うよ、違う。
今ここにいるのは、あの混戦の中で生き残れる人達だよ。それに僕達二人で、この敷地全域を隅々まで探すのは無理だ。それは黒月さんも分かっているでしょ? なら排他的になるよりもまず、最善の道を模索するべきだと思う」
「その最善が、最悪に変わるかもしれないのよ?」
「そのかもしれないで、人が助かるかもしれないんだよ。
それに言ったろ、僕だってただのお人好しじゃない。彼らを使える戦力として見ているし、必要なら切り捨てる。僕は僕が生き残る道中で、拾える命を拾いたいだけだよ」
「……ふんっ。切り捨てる覚悟はあるのね」
「当然」
「なら良いわ。引き続き私の肉壁として精進なさい」
「はいはい」
レジから飛び降りてお菓子棚を物色しだす黒月に、九十九は苦笑しながら返事を返す。そして口を挟めないでいた彼らに、軽く頭を下げた。
「すみません、お見苦しいところを。何か質問はありますか?」
「い、いや、何もねぇ」「……すげぇなあんた」「ヒグッ、フグっ、感動したよぉ」
「あはは、……では、もう少し休んだら移動しましょう。そこで異能に合わせてチームを組みます。怪我人の皆さんは僕が運びますので、護衛をしてくれると嬉しいです」
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