スクリーンからの「ありがとう」
七乃はふと
最期のサプライズ
映画好きの
私は大の映画好きで、家で見るのは勿論、映画館にも足繁く通い、気になる物があれば試写会にも足を運びます。
そんな私には大好きな俳優
二十代から二枚目俳優として活躍していて、還暦を迎えても枯れぬ色気と渋味を兼ね備えファンを大切にしている方なんです。
その方の新作の噂を前々からキャッチしていた私は試写会が行われる事を知り、いの一番に応募しました。
倍率は高かったんですが無事に当選。当日は有給を取っておめかしをして、まるで初デートのような面持ちで映画館に向かいました。
客席は満員。甘いマスクが印象的な方なので女性客が多数を占めていましたが男性客の姿もチラホラ見えます。始まる前は期待と興奮で騒がしかった客席も、照明が消えスクリーンが輝いた途端、みんな貝の様に口を噤みました。
もちろん私も黙っていましたが、本編が始まるまでの数秒間は、自分の心臓の鼓動がうるさくて仕方なかったです。
映画が始まりました。
内容は、ジョウさん演じる定年間近の刑事が、若い頃に解決できなかった事件の新たな手掛かりを見つけ、同僚達が乗り気でない中、唯一の味方の元警察犬と病に冒された体を押して捜査に当たるというもの。
最初は追い払われるも黙々とついていく警察犬の後ろ姿。
二人の執念で、次々と見つかる新たな手掛かりと犯人の影。
次第に強くなっていく二人の絆に、私は必死に嗚咽を堪えながら物語を追っていました。
遂に物語も終盤。血の滲むような努力で追い詰めた犯人に手錠をかけた時には、心の中で拍手喝采を贈りました。
限界を迎え、座り込んだまま動けなくなった刑事に静かに寄り添う相棒。その二人を見て涙腺が決壊しそうになり、ハンカチで目頭を抑えながら観ていると……。
刑事が最後の力を振り絞り、相棒の頭に手を乗せゆっくりと口を開いていくんです。
感謝の言葉か別れの挨拶か想像して目頭を押さえていると、刑事の、大好きなジョウさんの顔がスクリーンいっぱいに映って私と目が合ったんです。
「エイコさん。ありがとう」
そのままエンドロールが流れる中、私は呆然としてしまいました。
自分の名前を呼ばれたなんて、なんておこがましいと思いましたが、一緒に見ていたお客さんの反応から聞き間違いではないことが分かったんです。
みんな自分の名前を呼ばれたと周りの人に確認していて、ざわめきはエンドロールの曲を終始掻き消すほどでした。
後に聞いた話ですが、最後の感謝のセリフは相棒の警察犬の名前だったそうです。
では何故試写会にいた私達の名前が呼ばれたかというと、実はサプライズで試写会に来られる予定で、一人一人の名前を覚えてくれていたとか。
ところが……来る直前に事故に遭い、そのまま帰らぬ人となってしまいました。
スクリーンからの「ありがとう」 七乃はふと @hahuto
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