第39話 花は散っても己が命は散りきれない
ー十三年前ー
「逃げろ!!」「キャー!」「急げ!」
四方八方から聞こえてくる怒鳴るように避難を促す声、今日に怯え苦しむ声。
「お父さん、お母さん……どこにいるの……?」
後の南の勇者ナミ・アイビー。当時四歳。
イーストによる大虐殺。サウス第三避難所襲撃事件。襲撃時の指揮官、二十四代目東の勇者。
この時よりナミ・アイビーの心には消火しきれない程の憎しみの炎が燃え続けていた。
「クソッ。結構離れたはずだけど、ここにも魔素ないのかよっ…。」
俺は剣を受けつつ呟いた。
「僕が使えるだけ使いきりましたから。」
「お前の絶加ならそれは不利益なんじゃないか?」
俺は疑問をナミに問いかけた。するとナミが何かを隠してるかのような笑みを浮かべた。
「魔法を使うのって僕しかいないんですよ。それに魔力だけなら別のことに使用が可能です。」
ナミのスピード、パワーが急激に上がった。
何でいきなり?!ん?でも、これってもしかしてシオンさんが言っていた…。
「魔力強化…?」
ナミの動きが止まった。
「何故それを知っているんですか?」
「秘密だ。」
「まぁ、そうですよね。いつか誰かが辿り着く。それを知っているということは貴方もできるんですよね。なら、ここからが本番みたいなものですよね?」
ナミが俺を挑発するかのような構えをとる。
「やってやるよ。」
無論、東(あずま)は魔力強化をすることは出来ない。だがコピーにより常人の魔力強化以上のものを使用できる。
一度の使用につき二の十乗。使用回数が増えるたびに負担が増加していく。一気に倍にして畳み掛ける!
「三連雅(さんれんが)、破(は)。」「四象景律(ししょうけいりつ)、節(せつ)。」
俺は三連雅、ナミは四象景律を使おうとする。
出来ればこれで決めて話し合いに持っていきたいが…。
「妙技(みょうぎ)。」「秋晴(あきばれ)。」
俺の横腹は斬られ、そこは裂いていた。そしてナミは体のいたる所に傷ができ血を噴き出していた。
「魔力で防御力も上がるのかよ!!まだまだこれからじゃねぇか!」
「無理する必要なんてありませんよ。僕が貴方を倒して終いです。」
一度沈黙が訪れ、花びらが舞った。その刹那、俺とナミは地面を蹴り、剣同士をぶつけた。
お互いに限界が近づいているだろうに攻撃の手は止まない。
この時、東は倍を使用し続け自身を強化していた。ナミは無限の魔力により強化を続け、両者の実力は拮抗していたと言える。
最強格の絶加を持つナミ・アイビーは心の底のどこかで自分自身と渡り合えるような者いわば好敵手を欲していた。そして今、その好敵手が目の前にいた。それは亡き者である二十四代目東の勇者の後継。復讐相手だがそんな事を忘れるほどに……
「「楽しい!!」」
とナミだけでなく、東も思っていた。
探査魔法が使えない対処として、ナミは魔力を体外に放出し続けその揺らぎで敵の接近を探知していた。
だが、"没頭"と魔素枯渇により
俺がナミと剣を交えていると、ぴゅぅんと何か速いものが通ったような音がした。直後俺は目の前の光景に目を疑った。
「は……?」
その時、花が散っていくと共にナミが何者かに刺されていた。ソイツはナミに何度も剣を突き刺した。そしてナミはその場に倒れ込んでしまう。
「いやぁ、南の勇者を追い詰める実力者がいるなんて思わなかった。でもおかげで、南の勇者をこうやって殺せたわけだ。感謝しとく。」
再びとてつもなく速いものが通ったような音がする。
「次は君だけどね。」
俺はかろうじて攻撃を受け止めた。
「お前は…誰なんだ……!!」
俺は滲み出る怒りを抑えながら言った。
「俺は北の勇者だよ。そういう君はもしかしてさ、東の勇者かな?南の勇者と殺りあえるのはワルパフ・カイゴウとかユイガ・ソンとかでしょ?でも君どっちにも当てはまらない。つまりそういう事だ。まぁ、今回はそれだけ分かればいいか。見逃してあげるよ。次は戦地で会おう。」
北の勇者は喋るだけ喋って、消えてしまった。俺は唖然としてしまっていたが急いでナミのもとに向かった。
「おい!ナミ、大丈夫か?!今、何とかして手当を……。」
「そんな…ことっ。アズマにできるの…?」
ナミは苦しいはずなのに笑顔で言った。
「できる!俺を舐めすぎ……って、そういえば…!」
「いやぁ~、自分で自分の首を絞めるなんて思わなかったよ。」
回復でも魔素を使う。ここからの移動でも俺もこの傷じゃあいけない……。
「どうしたらいいんだよっ!!!」
俺は地面を強く叩いた。
「アズマ……君も傷が深いっ…だろ…。だからじっとしてて、そんで僕の話を…聞いてほしい。」
「ナミ……お前…。」
ナミはもう諦めた……?でもお前がそう言うならっ……。
「君の絶加は……コピー何じゃ…ない?」
「あぁ、でもなんで分かったんだ?」
「君は…あの言い方から、魔力強化はできない。でも途中から身体能力が上がっていった。その割合は一定だったんだ。つまり、君はウエストの……最高位騎士の絶加を所持している。それならばコピーが妥当かなと、思って……。」
ナミの息遣いは段々と荒くなっていく。そして声も弱々しくなっていく。
「ナミ。俺はどうすればいい?」
「僕の絶加を…コピーして欲しい…!これから君の力にっ……なれるかもしれないしね……。そして、必ず……五カ国の共生を平和をもたらして…!」
「あぁ!勿論だ!」
俺はナミの手を強く握る。その手はどんどん冷たくなっていくのが分かった。
「僕さ、正直……サウスへの想い入りとか、特にないからさ……。どうしたって構わないよ。」
ナミは俺の手を握り返し、笑顔で言った。
「それって冗談とかじゃなくて?」
「ははは……僕は正気だよ。今はもう、いいんだ。僕はイーストの勝利に賭ける……!」
ナミは片方の手で握り拳を作り空に掲げた。少しずつ、握る手の力が弱くなっていた。
「でも、やっぱりさ……死にたくないなぁー。」
「そりゃそうだよな。」
ほんの少しの間沈黙が流れる。そこでナミは口を開いた。
「アズマ……最後にね。酷いことして、酷いこと言って……ごめん……。そんでさ、ありがとう!」
「こちらこそ、ありがとな。親友。」
ナミは満面の笑みを見せた。俺が見てきた笑顔の中で一番の笑顔だと思った。
「うわぁぁぁぁ!!」
涙を流した。そして俺は最後までナミの手を握り続けた。握り返されなくなった手をただ強く、握り続けた。
〈南の勇者〉ナミ・アイビー。享年十七歳。彼は歴史書にて歴代最強にして最後の南の勇者と記される。
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