※15※
早寝早起きした俺はいそいそと自販機チェックに向かった。
「おー。こうきたか」
おにぎりのピラフとシラスが消え、ワカメおにぎりと唐揚げ入りおにぎりに変わっていた。
「どっちも俺の好きなやつじゃないか」
自然と笑顔になる。
フォカッチャとあんパンはバターロールとジャムパンに変わった。バターロールは朝食の定番だが、この世界だとジャムパンの方が人気に火が付きそうだな。
甘いものが少ない世界だ。甘いパンは取り合い必死の人気商品になるだろう。
ありがたいことに味噌汁は健在で、具材がキャベツ、人参、玉ねぎに変わっていた。カップに野菜のイラストが入っているから見ただけで分かる。親切だ。
あとのスープはミネストローネ、ベーコンとキャベツのコンソメスープだった。
「ベーコンとキャベツのコンソメスープも捨てがたくて迷うが…やっぱり味噌汁かな」
さすがにスープ容器はポケットに入れる気がしない。手提げつきの籠に3つ入れて明日までキープすることしかできない。
「せめて、冷蔵庫があればな」
鍋があるから温めなおせるのに。
紙パックジュースの方はとうとうイチゴミルクが消えた。しかし、フルーツミックスジュースがあった。
リンゴとみかんとバナナが入ったフルーツミックス。これも人気モノになりそうだ。あとはアセロラ…
「おや? フルーツミックスとフルーツ・オレはどう違うんだったっけ?」
紙パックの原材料を確認して理解した。
「フルーツ・オレはミックスフルーツジュースにミルクが入っているのか」
これもおいしいやつだ。間違いなく人気商品になる。
ちなみに本日のフルーツ・オーレはイチゴとアボカドとミルクだった。
「これは飲んだことのない組み合わせだな」
ずっと…これまでは俺の好みが反映されていた。だが、馴染みがないものが登場したことで、これからは未知なる味も楽しめるということだ。
「食べたことのないものが出るかも…それはそれで楽しみだ」
さてと、俺の朝食をもらっていこう。
「やっぱりおにぎりと味噌汁だな」
ワカメが1つに唐揚げ入りを2つ、デザート代わりにあんパンも食べよう。あんパンといえば牛乳が最高の組み合わせなのだが…そのうち入荷するのだろうか。
*
町まで歩いて移動する。町の中を地点登録しておけばよかったと気が付いても後の祭りだった。いや、登録できたのかどうか試してなかったので後悔した、が正しい。
石畳みやレンガを埋め込んだ道はアスファルトに比べて足首に負担が来る気がする。もちろん、気のせいかもしれない。背負子を使っているといっても、背中に四箱を担ぐというのは多かったか。だんだん重くなって気がするのは、疲れてきたせいかもしれない。
途中で足を止め、道を逸れる。管理人事務所を出してトイレ休憩。そのあと、ソファで一休み。
いつでも休憩できて、寝泊まりできる家を好きな場所に出せるんだから、チートだよな。しかも隠しモードなので誰かに見つかる心配もなし。
「あ、俺バカだ」
馬鹿正直に箱四つを背負子に括りつけて歩いていたよ。
町の中に入るまで管理人事務所に置いておき、町の中に入ってから管理人事務所に移動して箱を持ち出せばよかった。そうすれば身軽に移動出来たじゃないか。
「あー、余計に疲れてきた」
人間、頭を使わないと駄目だねぇ。馬鹿正直も時と場合によりけりだ。
ジュースで糖分補給して、気を取り直して出発。もちろん、背負子は管理人事務所に置いてきたよ。
代わりに布カバンを肩から下げた。買い物したものをこれに入れる予定だ。
ハンガーが欲しいのだが、まだ雑貨店で見たことがない。ない時のお助け所、ツーリ爺さんのとこに行こう。何のかんので毎日のように行っているな。
「いいところに来た!」
木工屋に顔を出したら、カージュ爺さんにものすごい勢いで捕まった。あれ? なにかこれデジャヴ。昨日ここでツーツさんに捕まった時のことを思い出したぞ。
「こんなもんしかできなかった! どこをどうすりゃいい?」
ちいさなパーツを受け取り、なるほどと気が付いた。接続が甘い。ゆえにスムーズに動かないのだ。
「さすがですね。一日…いえ、半日でもうここまで出来ましたか」
「嫌味か!」
「まさか。ここまでできていればあと一息ですよ。やり方は間違ってないです。…なので次はこれの5倍。いえ10倍の大きさでもいいです。大きな丁番を作ってみてください」
「10倍の大きさだと?」
「はい。それでどこが不味くて、どこをどうすればいいのか分かります」
「おまえ…」
ものすごい形相で睨み付けられる。
「どうして、はじめから言わない!」
カージュ爺さんにも分かったのだ。
「だって、俺が欲しいのはこの大きさなんです」
あ、青筋立ってら。
「大きなものを作って満足されたのでは困りますから」
がはははは! バンバンバンと壁を叩いてツーリ爺さんが大爆笑している。
「ケンゴの奴いい性格してやがる。カージュの野郎が失敗すると分かってて…はぁ、はぁ…愉快だ。失敗して泣きついて、ケンゴ探してオロオロしてたあの顔…思い出しちまった」
ひぃひぃ言いながら笑っているツーリ爺さんに素早く近づいたと思ったら、ガツンと頭にげんこつを落とした。ツーリ爺さん、べっしゃんこだ。
「………」
おっと…俺は口チャック。ギロリと睨み付けられたが、俺は笑ってません。
「夕方までにうちに顔を出せ。いいな!」
「はい! 分かりました」
冒険者ギルドでパン販売をしたあとは特に予定がない。買い物散策でもしてるかな。
「そのバカは連れてこなくていいぞ」
義足なのに結構早く歩いて、カージュ爺さんは店を出ていった。やる気に満ちているな。
「あぁ、痛てぇ。あんのバカ力が。ちっとは加減しろって」
頭を擦り擦り、ぼやいているツーリ爺さんに「また作って欲しいものが出来ました」と俺はにこにこ笑って言った。
「おまえ…ホントいい根性しているよな」
そう言いながらも、ほれと木の板を渡してくれる。
「今回のは簡単ですよ。石筆入れが欲しいんです」
「石筆入れ? そんなもの、その辺の適当な箱に入れときゃいいじゃないか」
「それでは味気ないし、不便なので…フタがスライドする箱が欲しいんです」
「すらいど…? って、なんだ?」
「フタが横滑りする箱です」
「なんだそりゃ! 意味が分からんが、楽しそうだな!」
俺はわくわくしているツーリ爺さんに絵を書きながら説明した。
「要は、箱の内側にコの字に…フタになる木の厚みと同じ窪みを彫るだけなんです」
簡単な仕組みなので爺さんはすぐに理解した。
「なるほどな! 今すぐ作ってやる。待ってろ」
材料をかき集め、すぐにいつもの定位置にどっかと腰を下ろす。ツーリ爺さん本当に楽しそうだ。モノ作りが好きなんだなぁと分かる。
「おやじが騒がしいから、すぐにケンゴが来たと分かるな。で、今度は何を?」
ツーツさんがやってきて、俺が書いた木の板を手に取った。
「ケンゴ…これのサイズは?」
「石筆を入れたいので、小さなものを頼んでます。でも、このぐらいの大きさにすると道具箱にもちょうどいい大きさになるかもしれませんね」
このぐらいといいながら両手を30センチほど広げてみせる。
「…道具入れか」
ノミだけでもここの木工屋では多くの種類を使っている。足元にごろごろ転がしている人もいて、見ていてちょっと怖いなと思うこともあった。使っている本人は気にも留めていないだろうけど。
「フタを滑らせ開けてさっと中のものを取り出すことができるので、他にもサイズを変えてみると中に入れたいものがいろいろ思いつくかもしれませんね」
ツーツさんがにんまり笑った。これもまた、商品化採用かな。
「出来たぞ!」
話している間にもう出来たみたいだ。
「これでいいんだろ?」
渡された石筆入れの箱に昨日買ってきた石筆を並べ、フタをスライドして閉める。閉めた状態で指先だけを使い、フタを軽く滑らせて開けてみる。…うん、完璧だ。
「完璧ですよ、さすが匠ですね!」
「こんな簡単なこと、誰だって出来るぞ!」と言いつつ、得意そうだ。
「次はですね…」
「おい、まだあるのか」
ツーツさんが警戒した。
「なんじゃ、こんなのは数に入らないぞ。ケンゴ、遠慮せんでええぞ」
ツーリ爺さんは作るだけ、遊んでいる感覚なのかもしれないがツーツさんはこれからどうやって商品化して販売していくかを考えなければならないのだ。反応も違って当然だ。
「大丈夫です。次も簡単なものですから」
にっこり笑った俺の笑顔はもしかしたらツーツさんには悪魔の笑みのように見えたかもしれない。
俺はハンガーの簡単な絵をかき、ツーリ爺さんに作って欲しい本数を10本と伝えた。
「10本? 多いな!」
「保管用だけでなく、外に干すときにもあると便利なので、そのくらいの数は欲しいんです」
「外に干す? 服をハンガーにかけたまま干すのか? ケンゴは面白いことを言うな」
ツーリ爺さんは面白がっていたが、ツーツさんは考え込んでいた。
「ちなみに…ツーツさん、こんなものを使ってロープに留めると風に煽られても飛んでいかないと思います」
昨日雑貨店で買ったピンチを見せる。
「カージュんとこのだな」
ピンチを一目見て、ツーリ爺さんが呟いた。これもそうだったのか。あの爺さんもなかなかアイデアマンだな。
「ちなみにロープ干しとの違いというかメリットは?」
ツーツさんの頭の中で商品化の計算が始まったか?
「俺がここであれこれ言うより、まずは試作を作っておかみさんに使ってもらってみてはいかがでしょう? 男よりも女性の方が気が付きやすい気がします」
洗濯をするのも女性なら、洋服選びに時間がかかるのも女性だ。
「分かった。…ところで、そろそろアドバイス料について一度話し合った方がいいかもしれない」
「いりませんよ」
俺は手を振った。
「自分が欲しいものをタダで作ってもらっているだけですから」
「しかし…利益が出るものをそう簡単に手放すものじゃないぞ」
「アイデアがあっても、俺には作れませんから。それに…この店だけが儲かるような商売をされるわけじゃないですよね?」
「まずはうちが優先だ」
「当然です」
「……他の木工屋にも声を掛け、若い弟子もとることにした」
ツーツさんなら、きっとそうするだろうと思っていた。
「まだなんの下積みもないような子供でも、できる仕事が増えた。感謝する」
「こちらこそ、ありがとうございます」
仕事がある、ということはいい。働きたくても働けないというのは……うん。よくないよな。
ということで、俺も自分の仕事に行くとしよう。
ツーツーリ木工屋を後にして、俺はギルドへ向かった。
ハンガー? 数が数だから、後で取りに来ますと言っておいたよ。
次に行った時には完成していると思う。そこは心配していない。
*
「こんにちはー」
ギルドの裏口ドアをノックし、そのまま待ったが反応がない。何度か声を掛けてから、ドアをそっと開けてみた。奥の方で誰かが働いている気配や物音がしている。
「こんにちはー、パンの移動販売に来ました!」
やや大きめの声で叫んでみる。すると誰かが気が付いてくれたみたいだ。
「あっ!」
顔を出したのはマレサさんではなかった。でも、昨日パンを買いに来てくれていたギルド職員だ。見覚えがある。
「いまお時間いいですか? それとも出直しましょうか?」
彼女は俺の顔を見るなり叫んだ。
「おいしいパン屋さん!」
えーと、パン屋ではないが…否定せずににっこり微笑む。
「待って、今すぐギルマスに確認とってきます!」
パタパタ軽快な足音が遠ざかっていく。しばらくして、ギルド長ではなく購買部のおばちゃん…じゃなくお姉さまのメローサさんが来てくれた。
「ありがとね。待っていたよ。今日は2階の会議室を開けたから、来てもらおうか」
「はい」
案内された部屋は昨日の部屋よりも広かった。テーブルも広く、椅子の数ももちろん多い。
「昨日は買えない者もいたから、文句が出て大変だったよ」
「すみませんでした。今日は多めに持ってきました」
背負子から4つの箱を下ろす。
「それで、予約を頼んでいたと思うが…それは後にして、昨日いなかったり予約受付を知らなかった者からここに呼んできたいと思うのだが、いいかい?」
「はい。予約分を先に分けておきますね。しばらく時間をください」
「仕分けとそのあとの販売を私も手伝うよ」
「助かります」
という感じで、マレサさんにもらったメモ書きを読み上げ、2人で間違いがないようにひとり分ずつテーブルの上へ並べていく。そして残った箱の中のパンやジュースを予約なし販売用に、入り口近くに場所を作って並べた。箱に立てかけた値段表も早速役に立ってくれるハズ。
「見たことがないパンやジュースがあるねぇ」
「はい。本日の新商品になります。先にご紹介しますと、こちらはジャムパンといいましてイチゴというフルーツを砂糖で甘く煮たものが中に入っているパンです」
「甘いパンだね? 美味しそうだ」
「はい。そしてこちらのジュースが…」と2種類ともフルーツ入りの甘くておいしいジュースだと説明した。違いはフルーツに加えてミルクがあるかないか。
「先に一つずつ、私の予約にさせてもらいたい」
「分かりました」
メローサさんの予約品を並べたところにパン1つとジュースを2つ追加する。
「さて、それじゃあ店開きをしよう。職員たちに声を掛けてくるよ」
メローサさんが一度部屋を出行く。ひとりきりになったタイミングで、こっそりフタをしていた箱の中にパンやジュースを追加補充しておく。もちろん出どころは俺の制服のポケットだ。
メローサさんの目の光り方から言って、ジャムパンとフルーツミックス、フルーツオレは争奪戦になりそうな気がする。
深呼吸して心の戦闘準備を整えていると、真っ先にやってきたのはギルド長のハーヴァ。あれ? と思ったけど、確かに予約票には彼の名前がなかった。
「よぉ、今日も世話になる」
「ありがとうございます」
「お、昨日はなかった新商品があるな」
「はい。いずれも甘いのですが…」
「ああ、いいんだ。甘いのも辛いのもいける。それに、嫁にも買ってやらんと…叱られた」
この顔で嫁がいるのか。いや、いてもいいんだけどな。
「この2セットずつもらおうか」
「はい。16メレルになります」
「ホントは4セットでもいいが、みんなの数が足りなくなると叱られるからな」
そう苦笑いしながら素早く買い物を終えたギルド長が部屋を出る前に、次の男性客が現れた。
「よかった。今日は買える!」
飛びつく勢いでテーブルの上を見ている男性職員にパンとジュースの説明をしていく。その間にも次々客がやってくる。もたもたしていると商品がなくなると思っているのか、すばやく選んでいく客を3人捌いたところでメローサさんが戻ってきてくれた。
2人体制になると、販売対応も楽になってくる。
「あーもう売り切れか」
残念そうにメローサさんが呟いた。
「いえ、もうひと箱ありますから大丈夫です」
「あれ? そうだったかい?」
「箱を大きくして数も増やしていたので…。はじめからフタをしたままのをひとつよけて置いていたんです」
「そうか。そりゃよかった」
多分…同じ手は2度と使えないと思うが、今日は誤魔化されてくれた。
昨日、イチゴミルクが買えなかったと騒いでいた彼女も、今日は無事にイチゴミルクを買っていった。ジャムパンは売り切れていたがフルーツミックスとフルーツオレは1つずつ無事に買えたようだ。
マレサさんがフルーツオレを買えずに残念そうにしていたので、後でコルサに会えたら渡しておこうと思う。
「ありがとうございました」
パンもジュースも無事に完売して、本日の目の保養も終わった。
「明日も良かったら来てもらえるかい?」
「今のところは予定が入っていないので、来れます」
「そうかい、よかったよ。みんな楽しみにしていてねぇ。…ところで、明日も新商品があるかな?」
「あると思います。基本日替わりになりますが、俺には前もって分からなくて…先にお知らせできずにすみません」
「そうなんだね。分かった。明日からは当日のお楽しみということにして、購入の順番だけ決めておくよ」
「分かりました」
買う方は確実に買える予約はありがたいかもしれないが、用意するこちらにしたら…やはりめんどくさいから助かる。
「希望者が日に日に増えていくから、多めにくじを作らなきゃいけないねぇ」
「あはは…ありがたいことです」
メローサさんは出口まで見送ってくれるみたいだ。一緒に階段下まで降りた。
「ありがとうございました」
ギルドの裏口から出ようとしたところで「待ってぇ」の声がかかった。
マレサさんだ。
「ケンゴさん、10分ほど待っててもらえないかしら。半休だから、今日はこれで終わりなの。今すぐ着替えてくるので一緒にお昼にしましょう?」
「分かりました。裏口出たところで待ってます」
マレサさんと一緒に行動するなら、空のパン箱を管理人事務所に片づけることができないが…仕方がない。
裏口はあまり人が通らないのか、人目が切れる瞬間がある。俺は素早く管理人事務所に入り、トイレだけを済ませてすぐに戻った。
「お待たせ」
マレサさんが私服で現れた。
私服も綺麗だなぁ。友達の彼女だけど、目の保養になる。
「いえいえ。お昼ですが、どうしますか?」
ギルドでパン販売をさせてもらったから、どこかの食堂で食事ができるお金はある。というか、まだこの世界の食堂で食事をしていないから興味がある。
「ケンゴさんは何か食べたいものがありますか?」
「マレサさんは?」
「私はケンゴさんのパンが食べたいです」
あははは…
「そういえば、今日の分もお買い上げいただいてましたね」
彼女が持っているカバンの中に入っていることだろう。
「どこか外で食べられる場所ありますか? ベンチみたいな座れる場所があると助かりますが…」
「あります。領主館前に見晴らしのいい場所があり、市民の憩いの場になっているんです」
「へぇ、そうなんですね」
マップスキルでこっそり確認してみる。と、あった…。少し遠いが丘の上にある。
移動途中にテイクアウトできる串焼きとガレットがあったので買ってみる。そば粉はこの世界でも食べられているらしい。
「ここです」
坂道を上った先。案内された広場は確かに見晴らしがいい。ベンチもそこここに置いてあり、市民たちの憩いの場になっているみたいだ。赤ちゃんを抱いた若い女性や老夫婦、カップルも日向ぼっこをしている。
「素晴らしい景色ですね。でもお腹が空いたので先に食べてしまいませんか?」
「私も同じことを考えてました」
笑いあって、急いで空腹を満たした。
「いいお天気ですね」
食べ終わると、青い空の下でのんびりしているのが不思議な気がしてきた。
「本当にいいお天気ですねぇ」とマレサさんも返して、微笑みかけてくれたが…すっと真顔になった。
「ケンゴさん、スキルの話を後でしましょうと言ってたのを覚えてますか?」
「あぁ、はい」
その話がしようと、ひょっとして半休をとってくれたのだろうか。
「子供が生まれて…赤ん坊の間は確かにスキルのない子がほとんどです」
ほとんどということは生まれながらにスキル持ちもいるということか。
「ケンゴさんは記憶をなくした時にスキルもなくした…そういうことではないかとコルサから聞きました」
そういう風に説明して誤魔化すことしか出来なかったのだ。本当のことが言えないから。
「分かりません。それが本当のことかそうでないのかも…俺には分からないんです」
俺は不思議な力を持った人間。そのことは彼女にも分かっているだろう。
「赤ん坊から成長していくにつれ、自然とスキルが身についてきます。それは人それぞれであり、同じスキルを得たとしても獲得する時期が違うこともありますし、レベルが違っていることもあります」
「レベル…レベルが違う」
「そうです。スキルにはレベルと呼ばれる階級があります」
俺のユニークスキルとレアスキルにもレベルはある。実際にレベルアップもしているから理解できる話だ。
「例えば、生まれてから5歳になって着火のスキルを得た子供がいたとします。得た時点でスキルが2以上になっていたとします。その子供には母親がいて、彼女の着火のスキルは1のまま。そういうこともあります」
親子で同じスキルを持っていても、5歳の子供方がレベルが上、か…。
「例えば、15歳になって得たスキルのレベルが生きているあいだに少しずつ伸び続けて…やがて国で一番レベルが上になったという人がいたこともあります。早くにスキルを得ることがいいとは言えませんし、遅く得たことで必ずレベルが伸びるとも言えません」
「不思議ですね」
人それぞれ。スキルのあるなしで人は一喜一憂することだろう。
「スキルはある日突然身につくのですか?」
「そういうこともありますが、教会で儀式を受けることで身につくこともあります」
「教会で……」
そうか…儀式か。
「どういったことをするんです? 具体的には?」
「呼吸を整え瞑想するのです。特別な部屋で」
「特別な部屋」
神の力でも宿っている部屋なんだろうか…
「それだけで、誰にでもスキルが得られますか?」
「絶対ではないかもしれませんが、可能性はあります」
俺にはないノーマルスキル。それを得られる可能性がある。
「教会に行けば、誰もが儀式を受けることができますか?」
「儀式のための部屋が使われていなければ、いつでもすぐに利用させていただけると思います」
「そのための料金…というか、儀式料は?」
「寄付金になりますので、その人の裁量で決めていいのです。お金がない人は自分で作っている野菜を寄付したという話も聞きましたし、余裕のある貴族は金貨を納めたと聞いたこともあります」
高額な寄付金を要求されないのなら、試しに行くのもいい。
「ケンゴさん、行ってみますか?」
「いいですか?」
「もちろんです。この広場を抜けた先に教会があります」
うん、立派な建物だから見えていたよ。観光名所の一つとして案内してくれるのかと思っていたのだが、違ったね。
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