※14※

 自分で言いだしたことだから文句を言ってはいけないのだろうが…思えば遠くへ来たものだ。

 ギルドでのパン販売を終えてから木工屋が並ぶエリアへ。そして今は鍛冶屋が立ち並ぶ一角に来ていた。

 メンツは俺とコルサとツーリ爺さんとその息子のツーツーおっさん。俺より15以上年上なんだしおっさん扱いでも文句は出ないだろう。多分。


「カージュ、入るぞー」

 勝手知ったるなんとやら。ツーリ爺さんが一軒の店に入っていく。どんどん入っていく。

 売り場を抜けて奥の作業場へ。売り場にいたのは息子の奥さんだろうか、それとも単なる従業員だろうか。とにかくまだ若い女性がひとりいたが、会釈のみでお互いのあいさつを終えた。


「どうした、ツーツ。とうとうツーリが店を焼いたか?」

「バカもん、うちは木工屋だ。火は厳禁だ。燃えとるのはお前んとこだけだ」

 火を使わず金物は作れないものな。ここが燃えているのは間違いじゃない。


「うちのは神聖な火だ。…で? 知らん新顔もいるな」

 カージュと呼ばれた爺さんは椅子に座って磨き作業をしていた。俺が驚いたのはその爺さんのこわもてぶりじゃなく、片足がなかったことだ。


「お久しぶりです、カージュさん。いきなりすみません」

 ツーツさんのあいさつに軽く手を上げて応じた後、俺の視線に気が付いたかこわもて爺さんは側に置いてあった義足を指さした。

「普段はそれで不自由なく歩ける。問題はない」

「そうでしたか。…俺はケンゴといいます。初めまして」

「俺はコルサです。冒険者ですが、ケンゴの友人です」


「で、ツーリ。何の用だ?」

「ワシの用事でもあるんだが、まずはケンゴの話を聞いてくれ」

 って、俺に丸投げかよ。

「分かった。場所を変えなくてもいいか? 動くのが面倒でな」

 不自由ないと言いながらも、やはり身軽に移動はできないのだろう。義足はかなり簡単なもので、見た感じ使いにくそうだった。

 義足の知識があればいいのだが、さすがによく知らないからいいアドバイスなんて言えない。


「では、失礼して…」

 俺は背負子から箱を下ろした。まだ丁番がないため二つ折れのフタはできない。仕方なく箱に合わせてカットしてもらった板だけをもらってきて使っている。箱本体とフタの板は紐で括ることで、固定していた。

「なんだそれは」

 顔面にも傷のあるこわもて爺さんは驚いた顔で背負子を指さした。


「背負子だ。ケンゴのアイデアでうちが作って売り出すことにした」

「荷物運びに良さそうだな」

「ああ、これはいいぞ。後でおまえにも作ってやる」

「そりゃ助かる…で、それも見たことがないな」

「ウチのA号箱の改良版だ。が、これもさらに改良されることになっとる」


「そうです。その改良に、カージュさんの金属部品が必要なんです」

 箱の中に入れていた木の板を取り出して渡した。

「まずは、こちらの絵を見てください」

 ツーリ爺さんたちにしたのと同じ説明をしてから、今度は丁番のみを拡大して書きながら説明する。


「これは2枚の板を繋ぎ、動かすために必要となる部品です」

「なんだこれは! どうなっとる!」

 カージュさんは驚き、食い入るように絵を見た。


「ここだ。ここのふたつが接地しているところはどういう仕組みになっている!」

 出来るだけシンプルな形のものを頼もうと思う。丁番にもいろいろなタイプがあるが、改良版が出るのは後でいい。まずは簡単なところから量産してもらいたい。


「片方はこういう感じに端を曲げます。そしてもう片方に芯となる棒を…そして組み合わせて、こうやるとここを中心に動きます。このパーツがあることで…こんなふうに開いたり閉じたり…」

 180度や360度開閉と言って伝わるかどうか分からないため、動きを手で再現するだけにした。


「お前が考えたのか?」

「違います」

 俺の返事にツーリ爺さんたちは「えっ」と驚いていた。


「俺は知っていただけです」

「知っていただけ、ということはこの現物が作られているところが他にあるわけだな」

「…あるかもしれませんし、ないかもしれません」

 こわもて爺さんに睨まれると怖いな。だが、知らないものは知らないんだ。

 いや、スキルさんが今教えてくれた。丁番を作り、使っていた時代はあるそうだ。時代というのは、今はもうない国の話らしいから。一度途絶えた技術らしい。


「妙な男だな。ツーリ、こいつはなんなんだ? 変な服を着ているが、どこから来た?」

「知らん」

「お前が連れてきたんだろうが」

「知らなくてもかまわん。何者でもかまわん。ケンゴのアイデアでワシは新しいものを作る楽しみが増えた。未完成の自由を知った。それで充分だ」

「未完成の自由だと?」

「その部品作りが落ち着いたら話してやる。まずはそいつを急いでモノにしてもらいたい。おぬしにとっても、これまで見たことがないものを新たに作るのは楽しいはずだ」


 カージュ爺さんはじっとツーリ爺さんを見て、そして俺に視線を戻してなおもじっと見てきた。

 目力の強い人だ。意志の強さがうかがえる。片足がなくても毎日のように金物を作っているのか、腕や肩の筋肉がパンパンに鍛えられている。なぐられたらかなり遠くまで吹っ飛ぶな…という大きな手が動き、爺さんは自分の頭の裏を掻いた。


「まあ、な。…分かったよ。そいつが何者でもいい。作ってやる」

「それでいい。ケンゴとおると退屈せんで済むぞ。おぬしも楽しめばいい」

 いや、勝手に新商品開発の勧めをここでも始めないで欲しい。


「そうか。話は戻るが…こいつはおもしろい」とカージュ爺さんは俺が描いた絵を指さした。

「二つを組み合わせ、二つで一つの動きをする。やってみなけりゃ分からないが、何となく理解した」

 そうだ。後は実際に作ってもらって試行錯誤することでモノにしてもらうしかない。幾ら口で言ったってダメだ。見たこともないものを作るのは、本人の創意工夫が必要になる。


「カージュさん、出来ればこの部品。ウチからの正式発注品として納めてもらいたいんです」

 ツーツさんが一歩前へ出た。

「………まだ出来るとも言ってないが…本気なんだな」

「お願いします。うちの新商品が生まれるかどうかの大切な分岐路なんです」

 ツーツさんはしっかりと頭を下げた。俺も一緒に頭を並べておく。

「こんな見たこともないもの、わしに作れるか分かんねぇぞ」

「カージュさんにしか出来ないと思っています」


 こんな細かな部品を作れる職人がその辺にごろごろいたら、とっくにこの商品は生まれていただろう。住む世界が分かっても、人が似たような営みを続けている限り、似たような製品が生まれていくものだ。


「ケンゴといったか、この板はもらっておくぞ」

「分かりました。どうぞお願いします」

 かたどり、鋳造、そして組み立て。小さな小さな部品だが、手間がかかる。試行錯誤して、試作品ができ、満足のいく出来になれば…あとは大量生産だ。試作までが長いと思うが…やり遂げてもらいたい。



   *


 カージュ爺さんの店を後にしてから、ツーリ爺さんが教えてくれた。カージュさんの足は従軍鍛冶屋として戦地に帯同していた時、当時争っていた敵の兵に切り落とされたのだという。

 従軍しているとはいえ、鍛冶屋や医師は一般人扱いで戦闘に巻き込まないよう配慮するのが暗黙の了解らしい。だが当時は泥沼の戦況で、どさくさ紛れに狙われたのかもしれないそうだ。

 鍛冶屋がいなくなれば武器を直すことができなくなり、早く戦いが終わるとでも…思った者がいたのだろう。


「足をなくす前のあいつはそれはもう腕のいい刀鍛冶で、立派な剣を作っていたが…片足ではそれも出来なくなってな。熱した鉄を流した小さなものしか作れなくなった」

「そうだったんですね」

 この世界に魔法はあっても、身体欠損を治す便利魔法はない。改めて現実を思い知った。


「ほかのやつらと同じことをしていても負ける。そんな、あいつらしい言い草で…あんな大きな身体をしていて、細かいものばかり作るようになった」

「おかげで、いい人と出会えたと思っています。ご紹介、ありがとうございました」

「もし、あいつにもいいアイデアがあったら教えてやってくれ。ワシと同じで、何かを作ることが好きで好きで、やめられないんだ」

「おふたりともモノづくりがお好きな感じは分かりますが…当分、カージュさんには丁番に専念してもらいたいですね。多分、ツーリさんも同じことを思うはずですよ。カージュさんの丁番がなければ作れないものはいっぱいありますから」


「つまり、ワシは新商品をいっぱい作れるということだな。ケンゴがこれから新しいアイデアをいっぱいくれるということだ」

 しまった。

「…………」


「ふはははは、そりゃ楽しみだ。カージュの奴が泣きを入れてもワシは新商品を作ってやろう」

 いや…それはさすがに無理じゃないかな。試作が終わればカージュさんの作業は大量生産へ移行する。丁番を一つ作る方がはるかに速いよ。泣くのはどっちだろうな。

「おやじ、ケンゴの顔を見てみなよ。カージュさんを泣かせるのは無理みたいだ」

 ツーツさんは笑っている。仲の良い爺さん同士の喧嘩はいい生きがいになっているのだろう。


「とりあえず、丁番とやらは手に入るとして…ケンゴには丁番を使った新商品のアイデアを早く形にしてもらわないとな」

 ツーツさんに軽く睨まれた。笑いながらだから怖くはないけど…俺、自分で自分の首を絞めた?


「お、そうとも。帰ったらアイデアを出していけ。こっちはこっちで準備できるところから作業を進めておく。丁番が手に入ったらすぐに使ってやらんとな。ハハハハハ」


「ケンゴ、また木材屋に出戻りか?」

 コルサに聞かれた。

「そう…かも、な」

「マレサが予約票を用意して待っているだろうから、代わりに取りに行ってくるよ」

 あ、そうだった。ギルドに戻るって約束していたんだった。

「すまん、コルサ。…助かる」

「いいって…俺もそろそろ明日の仕事を予約しておかないといけないしな。行って戻ってくるだけだから…まだ一時間ほどいるだろう?」

「多分な」

 一時間じゃ開放してもらえない気がする。


 俺はコルサに手を振りそこで分かれ、木工屋に連行された。



   * 


 俺は一人でツーリ爺さんとツーツおっさんの相手をした。俺の悪い癖で一つを思いつくと、芋づる式に別のモノも思いつく。

 観音開きの3段棚、5段棚。片扉付きのチェスト。さらにそれが二つ三つ連結したもの。5連パーテーションといった大物から宝石箱という小物まで。ノリノリで書く俺の絵を見て説明を熱心に聞いていた職人たちも、だんだん顔色を悪くしていった。特にパーティションは背の高さを変えたものや連数も3連、5連、7連と3タイプを提案したし、ただの一枚板から彫刻入り、スリット入り、透かし彫り入りとバリュエーションを増やしたから作る方は大変だろう。


「す、ストップ! さすがに手が回らない。というか、とっくにオーバーだ。職人が足りない」

 慌てたようにツーツさんに声を掛けられた。だが、声を掛けてもらえてよかった。ツーリ爺さんったらどんどん俺に板を押し付けてくるんだものな。

 ほれ書け、もっと書けと言わんばかりに無言で板を押し付けてくるのだ。炭筆の炭が切れたし、俺ももう今日は終わりにしたい。


 そんなタイミングでコルサが帰ってきた。マレサさんは俺がもっと早く戻ってくると思っていたらしく、もうギルドに寄らないと聞いてがっかりしたそうな。次に会ったら謝っておこう。忘れなければ。


「預かった予約票をちらっと見たが、結構な量だな」

「そうだな。でも箱の数も増えたし、深い箱になったから大丈夫だろ」

 B箱でジュースの積み方を変えることができるから、対応できるはずだ。

「そうか。で、今夜はどうする?」

 今夜町中に留まるにしても、朝には町の外へ出てSAを出さないと新商品の追加ができない。それなら初めから…夜暗くなるまでに町の外へ出ておく方が、俺としては落ち着く。


「外へ戻るよ」

「なら、明日は運が良ければ会えるパターンだな」

「昼前にはギルドへ行くよ。納品の後は…多分どこか近くの町の外にいると思う」

 町に近い方が人が多く訪れてくれるから、スキルのレベルアップにはいいんだよな。近すぎたらなかなか客が途切れないという側面もあるが…。


 コルサたちがいてくれるならともかく、俺一人で何十人もの客の対応をするのはちょっと大変だ。そのうち客の方が慣れてきて説明が要らなくなったら、俺一人でも大丈夫だろうけど。


 夕飯でも食べていくかとツーリ爺さんに誘われたけど、うっかりご相伴に預かったら食事中も仕事ネタを披露する羽目になりそうだ。きっぱり断って帰らせてもらう。


 木工屋を後にし、夕暮れの町を2人で歩く。途中でコルサと分かれ、俺は1人で買い物をした。日没近い時間でもまだ営業している露店や店舗があったのだ。


 俺が以前、古着の値段を確認した露天商もまだ営業していたので欲しかった着替えを買う。

 半袖シャツ、長袖シャツ、ズボン。上着はジャケットとコート両方とも買う。コートは冬用で季節が違ったが、デザインが気に入ったから買っておくことにした。ミリタリーコートに似たデザインのかっこいい奴だった。それに雨合羽代わりのマントも買っておいた。防水加工ありのマントは種類が少ないと言っていたように3枚しかなかったが、一番マシなのを買った。おやじさんも俺を覚えていてくれたらしく、好きな半袖シャツをもう一枚くれるというサービスをしてくれた。


 超便利なポケットが付いている制服を着るのが基本だが、時々は普通の服も着たい。制服だと変な格好だと注目を集めるが、古着を着ていれば変な注目はなくなる。…ハズ。



 運よく荒物屋を見つけたため、木桶より大きな洗い桶と洗濯板、石鹼代わりにしているらしいムクロジの実を購入。今は汚れは気にならないが、そのうち洗濯することも考えないと…というか、さしあたって下着ぐらい洗わないといつまでも木桶に突っ込んで放置はまずい。

 洗濯物を干す場所もないから、ロープも2本買う。シーツも干せそうな洗濯干し場も欲しいが、これは持ち帰りできるようなものではない。さすがにポケットに入るか実験する気にもなれない。


「あとは…」

 洗濯バサミ代わりのクリップを見つけたので買ってみることにする。前の世界になかったものだが、なかなかうまく考えてある。


 フェイスタオルは支給してもらえるが、バスタオルはない。しかしこの世界のタオルは俺が知っているタオルではない。どちらかというと大きな手拭い。あるいはシーツを小さく切ったもの。買わずに立ち去る。

 …つもりだったが引き返した。

 大きな白い布ということで別の使い道があるかもしれない。

 切り裂いて包帯代わりにしてもいい。あまりそういう使い道はしたくないが、いざというときにないと困るものの一つでもある。

「念のため、買っておこう」

 高いものではないし。


 ギルドでパンやジュースを販売した分があるから、お金にはまだ余裕がある。やっぱり現金があると心にも余裕が生まれるなぁ。


 植物のツルで編んだバスケットも一つ買う。持ち手が付いているタイプだから持ち運びしやすいし少なくとも木桶よりもおしゃれだ。果物屋で買ったフルーツなどを入れてみたい。


 炭壺と筆もあったから、これも買っておく。ノートでもあれば嬉しいが、そんなものはなかった。


 スキルさん、この世界に紙とペンはある?

 

 製紙技術もありますが価格がどうしても高くなるため、平民が一般的な筆記用具として用いているのは石筆と書板、あるいは炭筆と木板です。


 やっぱりそうなのか。冒険者ギルドでは使っているみたいだけど……。

 ギルドには紙や羊皮紙を再生するアーティファクトがあります。

 えっ、そんなものがあるんだ? そりゃすごい。前世でもそんなのなかったよ。いや、工場で再生紙にする技術はあったけど…すごいな異世界。というか、アーティファクト。


「すみません、石筆と書板ってありますか?」

 店員に声を掛ける。

「どうぞ、こちらです」

 置いてある場所が違うらしい。筆記用具というくくりで近くに置いておいて欲しかったな。

「ありがとう」

 石筆は5本セットで1メレル。安い。細い紐で括ってあるだけだ。ツーリ爺さんに石筆入れの箱を作ってもらおうかな。

 簡単なものなら、頼んだその場で作ってくれるから便利なんだよなあの爺さん。簡単なものでなくてもこれまで作ったことのないものなら喜んで、ホイホイ作ってくれる気がする。


「こちらの板、まとめ買いの割引ってありますか?」

「割引ですか…。そうですね、これだけというのはやっていないのでお支払いの際に窺いますよ」

 なるほど。トータルで勉強しますから1品でも多く買ってねということか。


「こっちの縦長のが便利かな」

 値段を書いて箱に立てかけておきたい。ずっと商品の値段を連呼するのは疲れる。それとややこしい買い物をした人がいた時のために、計算用の板も欲しいかも。

 大小2枚ずつ…いや、予備を含めて3枚ずつ買うことにした。石筆も10本にした。

「以上でいいです。計算お願いします」

「ありがとうございます」

 買い物かごがあれば便利なのに、この世界にはないんだよな。


「それはどこで買えるんですか?」

 買ったものを買ったばかりのロープを使い背負子に括り付けていたら、店員に聞かれたよ。

 もちろん、代金を払ってから荷造りしたんだからね。


「あ、これは…試作品なんです。売り出せるようになったらツーツーリ木工屋の店頭に並ぶと思います」

 今は作っても作っても冒険者ギルドの方に納品されているだろうから、生産が追い付いていないだろう。俺があれこれアイデアを出したことでも、職人の手が回らなくなっているはず。申し訳ないが、いつ売りに出されるか予測できない。


「そうですか。教えてくれてありがとう」

「いえいえ、では失礼します」


 店を出てしばらく歩く。だんだん通りを歩いている人の姿も少なくなってきた。


「この辺で…いいか」

 俺は前と同じで人の気配がないことを確認し、その辺の商店の壁に管理人事務所のドアを出した。隠しモードのまま中に入り、転移にチャレンジする。今夜はもう、町中に戻る必要はないからいい機会だ。


 転移先を選び、転移。無事に移動できたかを確認するため外に出てみる。


「…………」

 さっきまで町中にいたはずなのに、広々とした郊外に景色が変わっていた。マップでも確認する。間違いない。転移実験は成功だ。


「すげぇな、ホントに出来たよ」

 生身で転移することはできない。管理人事務所に入ってからというワンクッションが必要だが、転移ができるというのはかなりのチートだ。ありがたい。


 管理人事務所を一度撤収。SAを街道沿いに設置して中に入り、携帯端末で入場ゲートをロックした。念のため、不意の来客がないようにしてから管理人事務所に買ってきたものを置きに行く。


「あ…早速、足りないものに気が付いたぞ」

 服を買ったのにハンガーがない。コートやマントは出来ればロッカーの中に掛けておきたい。

「ま、買ってきたものを整理するのは後でいいか」


 身軽になって、自販機前へ移動する。

「えーと、イチゴミルクが…」

 明日の販売準備を先にする。夜だが夜間照明があるし、自販機自体がライトに照らされているから買い物には困らない。

「予約以外にも日持ちもするし、在庫として持っていたいから買い占めておくか。一度入れ替わった商品が次に現れるのがいつになるか分からないからな。…それに、ここで買い占めても明日には差し支えないし」

 6時を過ぎたら新商品とともに補充されるのだ。


 かなりの量のジュースとパンを買い、在庫切れの赤ランプを多く灯した。ざっくりとした感じでパンは50、ジュースは100くらいで完売した。しかしこれも、もしかしたらレベルが上がると増えていく可能性もある。

「とにかく…外見からは想像できないほど自販機に入っているのは確かだ」

 そして、それは不思議なポケットにも言える。自販機から買ったものがすべて入ったので手ぶらになった。


 マキを入れた木桶を手に管理人事務所に戻る。スペースに余裕がある事務所の壁際に木の桶は置いておく。

「さて、と…」

 床に直に座って販売準備だ。


「B号にしたから、紙パックが横3段に積めるな」

 ポケットから取り出したパンやジュースを、予約票を見ながら箱に隙間なく並べていく。2回数えたが、数え間違いが怖いので1つずつ余分も足して…


「終わった。箱に余裕があってよかった」

 明日にはまた商品の入れ替えがあるはずだから、ここに新商品を入れよう。


「次に何が来るか分からないが、このぐらいの余裕はすぐに埋まるだろうな」

 そんな気がした。


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