※11※

 買い物を終えた俺たちは、ツーツーリ木工屋へ向かった。

「来たか」

 爺さんは俺の顔を見ると破顔し、次いでコルサの方を見ると「出来とるぞ」と言った。ホントにこの短時間で作ったのか。すげぇ爺さんだな。


「初めまして、私冒険者ギルド職員のマレサと申します」

 おや?

「どうも。ワシはツーリだ」

「こちらの商品が素晴らしいという話を伺いました。ぜひわがギルドにも卸していただけないかとお邪魔させていただいています」

 えっ? そうなの? マレサさんが俺たちと一緒に行動していたのは、そのためだったのか?


「もう嗅ぎつけたか。…というか、そっちの冒険者リーダー繋がりか」

「えぇ、まあ…そうです。ですが、素晴らしい商品はすぐに多くの者の目に留まります。ここまでこの姿で歩いてきた道中、ケンゴの姿を見ていた者も多くいます」

 確かに、ジロジロ見られていたことには気がついていた。だがそれは見慣れない制服のせいだけかと思ってた。背負子にも注目が集まっていたのか。


「まあな。使っている者がいれば、そいつの便利さは一目瞭然だ」

 爺さんは俺の方を見ると聞いてきた。

「それだけかさばる荷物を背負っていても、重くないんだろ?」

「見た目はこれですけど、軽いものばかりなので…」

「はたで見ている者には分からねぇな。大きな荷物をひょいひょい運んでいるように見える」

 なるほど。俺はいい宣伝をした、ということだ。


「マレサといったな。うちの担当者を呼ぶから、そっちで話をしてくれ。ワシは作りたいものを作っているだけの隠居じじいだ。商売なんぞ知らん」

「ありがとうございます」


「あ…どうするんだ? コルサ」

 マレサさんと爺さんは店の奥へ入って行った。

「マレサの話は長くなるだろうから、あとで合流だな」

「ギルドで販売したいって、聞いていたのか?」

 今日は彼女の仕事はお休みで、デートじゃなかったのか?


「いつも予定は予定であって変わることもある、ってやつだ。昨夜帰ってからマレサに背負子の話をしたら…俺たちだけじゃない。冒険者たちみんなにとって有益な情報だって燃えてしまってな」

「いい人なんだな」

「ああ。特に、安い獲物で…数をこなさなきゃ大した稼ぎにならない若い冒険者に装備させたいと目を輝かせてな。俺たちも常にリュックの大きさを考えている。狩っても捨てるしかなかった素材が持ち帰れるようになれば、ランクが低い冒険者たちの生活にも…もちろん俺たちにも余裕が生まれる」

「そうだな。…そうなるといいな」


「ケンゴの考えたことはすごいこと」

「そうだな、ホントすごいヤツだ」

「ケンゴ、ありがとう」

 みんなの感謝が温かい。

「みんな…こちらこそ、ありがとう」

 この世界に来て、すぐに出会ったのが彼らでよかった。


 爺さんはすぐに戻ってきた。マレサさんはまだ奥で担当者と打ち合わせをしているのだろう。


「ツーリ爺さんこの背負子、本当に全部もらっていってもいいのか?」

「かまわん、試作品だ。持ってけ。……気が向いたら感想を聞かせてくれりゃいい。あと、使っていて改善して欲しいことや不具合があったらすぐに知らせろ」

 テスト試験とか、モニターってことかな。

「感謝する」

「「ありがとう」」

「大切に使わせてもらいます」

 みんな丁寧にお礼を言って、背負い子を受け取った。


「確か、ケンゴと言ったな」

「はい」

「試作品に問題がなかったら販売を始めるのが、いつもの流れだ。うちの店だけでなく、他の木工屋にも…作らせていいか?」

「もちろんです!」

「そうか、そりゃ助かる。なんせ、あの嬢ちゃんの勢いだ。背負子だけを作ることなんてできないのに、かなりの無理難題を吹っ掛けられそうだからな」

 コルサが少し遠い目をして「すみません」と謝った。


「その箱売りの道具もぽつぽつ売れるだろう。昨日来た若い坊主がさっき院の女性職員と来ていてな、孤児院でも使いたいんだと注文していった」

 ワウン君、この店に来たのか。

「坊主の分も作ってやるぞと約束しただろうが、と言ったんじゃが、1つや2つじゃなく10個まとめて欲しいから買わせてもらうと大口注文が来た」

 そうか。10個まとめてというと孤児院の他の子と商売をすることを考えたのかな。保護者も一緒だったというから、大人の意見も聞いて相談したうえで決めたのだろう。


「お前さんのおかげでうちの店も忙しくなりそうだ。ありがとうよ」

「いえ…こちらこそ。素晴らしいものを作っていただき、ありがとうございました」

「いつでも、いいアイデアがあったらもらうぞ」

 あははは。

「何か欲しいものがあったら持って行っていいぞ。安いものに限るがな」

 アハハ


「それじゃあ、遠慮なく…早速ですが…」

「お、おう、なんだ?」

 社交辞令だったのか、ビビり始めたぞ。

「このぐらいの長さで、密度があってしなやかで折れにくい木の棒はありませんか?」

「木の棒?」

 意外だったのか、俺以外の全員が首を傾げた。


「ケンゴさん、そんな短い棒、何に使うの?」

 箸といっても分からないだろうな。

「料理に使うんだ」

「焼き肉用の串か?」

 あぁ、太めの串なら代用できるか。でも串は先が尖っているからちょっと危ないな。うん、口の中を突き刺しそうで怖い。

「違うようだな。待ってろ」


 爺さんはどこに何があるのか分かっているのだろう。すぐに行ってまたすぐに戻ってきた。

「料理用の棒といったらこんなところだ」

 この世界でもクッキー生地を伸ばして作っているのか、それともすりこぎにしているのか握るのにちょうどいい太さの棒を差し出された。


「小さなものを挟むのに使うので…細くて…大体このぐらいの長さのものが欲しいんです」

「そんな小さく細いのでいいんか。というか、それなら捨て場から拾ってきた方がよさそうだな」

「捨て場なんてところがあるんですか?」

「いや、作業場の隅っこのことだ。捨てる前のを集めて置いている」

「一緒について行ってもいいですか?」

「あーまぁ、いいだろう。ついてきな」


 俺だけかと思ったら、3人も興味津々でついてくる。君たち、何がそんなに楽しいの?

「ケンゴさんといると楽しい」

「うん、不思議なことをするから見ていたい」

「俺も同じく」

 いったい何が楽しくて不思議なんだか。俺はいつでも大まじめだぞ。きりり。


「木くずがその辺にも落ちているが、気にせんでくれ」

 作業場というだけあって職人たちが忙しそうに働いていた。見知らぬ俺たちが突然来たものだから驚いていたが、ツーリ爺さんが軽く手を振るとぺこりと会釈しただけでそれぞれの作業に戻っていった。

 花の形に両サイドの板をくり抜きデザインしたおしゃれな3段ボックス。背もたれ部分に透かしが入った椅子。流線形が美しいテーブル。それぞれ腕のある職人たちが専門的に作品を作っている。年若い、まだ見習い風の子供が部屋の隅で細い棒を切ったり磨いたりしていた。もしかしたら彼らが作っているのは背負子のパーツかもしれない。


「ここにあるのもならいただいてもいいんですか?」

「かまわねぇ。そのうち捨てるようなものだ」

 おや? ニュアンスが少し変わったぞ。


 俺が引っ掛かったことに気が付いたのか、本当のことを教えてくれた。

「金属部品をくれる馴染みの爺がいると言っていたろ? そいつに切れ端を焚きつけ材としてやっている」

 なるほど。火を使う職人には、炭に火を点けるのに木の端材はちょうどいいのかもしれない。炭が十分熱するまでに木を燃やすのかもしれないし…全然別のことに使っているのかもしれない。例えば、家庭用の調理の火の燃焼材にしている可能性だってある。


 木は木製品として使ってよし、燃やしてよし、燃え残った灰でさえ使い道がある。まったく無駄なところがない。


 …あ!

「何か思いついたの?」

「いや…」


 SAエリア内のマキを毎日コツコツ、使わなかったものを回収しておけばよかった。もったいないことをしてしまったと後悔したとは言えない。

「なによぉ、気になる」

 チャチャムが口元を尖らせた。

「そうじゃ、ほれ。何かいいアイデアが湧いたのなら教えろ」

 爺さんにもせかされる。みんなの、期待したような視線が痛い…


「しかたない。それじゃあ、言います」

 ふうっとため息をつき、もったいをつけたように見せかけ…俺は素早く木の端材の山を見て考えを巡らせた。


「これとこれとこれなんかいいかな」

 何かを作った残りや切り落とされた小さな端材などをかき集める。

「これを使って組み立てると、何に見える?」

「家かな…」

「じゃあ、これは?」

「三角が横並び…山とか?」

「そう。チャチャムすごい」

「えへへ」

「で、ケンゴ。これが何なの?」

「子供のおもちゃだ」

「おもちゃ? これが?」

 がっかりしたような顔をされたが、これがそうバカにしたものでないことは前世の記憶で分かっている。


「こういう四角や丸、三角に長方形。数も20くらいセットにしたものを箱に詰めて売り出すんだ。積み木という遊び道具は子供の自由な発想で、単なる丸が太陽にもなれば、人の顔にもなる」

 俺の言葉をじっくり考えつつ、彼らはその場に転がった木片を見た。


「あ、これならどう? 馬に見えない?」

「見えるな。レアニもセンスあるな」

 細くて指ほどの長さしかない木の端っこが、自由に遊べるパーツになる。

「へぇ、なるほどなー。子供のおもちゃか」

 コルサも無造作に積まれていた木片をあれこれ取り出して、色々組み立て始めた。

「あ、これなんかちょうどいいかも…」

「分かった。一角ウサギだ!」

 角があるウサギの顔か。

「正解」

 3人が遊び始めたのを、ツーリ爺さんは静かに見ている。新たに作るもののアイデアを期待していたのかもしれない。期待を裏切って悪かったかな。


「新商品のアイデアでなくて悪かったですね」

 爺さんは俺をじっと見て、静かに首を振った。


「いや…そんなことはない。これも素晴らしいアイデアだ」

 それにしては意気消沈しているように見えるが。


「ワシは10かそこらから親のやっていることを見て、見よう見まねで箱を作った」

 10歳かそこらからモノづくりを始めたのか。早いな。

「すぐに椅子を作り、テーブルを作り、家具を作り…店も大きくして弟子も増え、子供もできた。その子供も独り立ちしたり跡を継がせたりして、ワシは隠居することにした」

 なんだか人生を語り始めたぞ。

「ワシはな、これまで作るばかりだった。いいもの、素晴らしいものを作っていれば満足していた」


 気が付けば、工房内にいる職人たちも、コルサ達3人も、じっとツーリ爺さんを見ていた。その一言一言を聞き洩らさないようにしている。


「だがワシはこの年になって初めて教えられた。気付かされた。未完成であることの可能性を。職人が作るものは、完成品ばかりでなくてもいいということを」


 あ、そういうことか。


 完成したものはそれ以上形を変えることはない。それはそれで素晴らしい。そのために作り出されたものであるからだ。

 一方、積み木のような…購入者が自由に形を作り替えるものは、職人の手を離れた後に完成する。


「ケンゴ、ワシは言いたい。お前さんに会えてよかった。いろいろなことを教えてもらい、また気づかせてくれてありがとう、と」

 この世界でもお辞儀はあるのか。深い感謝を示されて、俺もジンと来た。

「こちらこそ、素晴らしい仕事をしてくださってありがとうございます、匠。その腕が、その魂が作り出すものに我々は感謝の念でいっぱいです」

 感動のシーンで、ドラマなら最高潮のBGMが鳴り渡っているだろう。


「…突然割り込んで悪いな。何があった、おやじ?」

 やや困惑したような表情の60代くらいの男性とマレサさんが作業場入り口に立っていた。


 *



 積み木のアイデアはまた後日聞かせて欲しいと、突然現れたツーリ爺さんの子供であり、現在の木工屋店主のツーツさんから頼まれた。変わった名前の木工屋だと思ったら、ツーツさんとツーリさんの名前を足したものだったらしい。


 マレサさん勝利で商談を終えたばかりらしいツーツさんは、さらに新しい新商品の話など聞きたくないという心境だったらしい。

 また今度、ということでマレサさん含めた5人で木工屋を後にした。


 あ、俺が欲しかった箸はちゃんともらってきたよ。はじめは端材を持っていけって話だったけど、短い棒でいいと分かったら爺さんがちょちょいのちょいと削ってくれて、見てる間に箸ができた。感激して喜んでいたら調子に乗ったのか、追加で木を削りだしてもう一組、箸を作ってくれた。慌てて長めの菜箸も頼んだ。我ながらちゃっかりしているとは思うけど、やはりプロの作るものの方ができがいいんだよ。きちんとやすり掛けもしてくれたし箸先はつまみやすいように角を残してくれってお願いしたらそれもきちんとしてもらえたし…マイ箸ゲットで気分が上がった。


「また、ケンゴさんが素晴らしいアイデアを提供されたんですってね」

「うん。やっぱりケンゴはすごかった」

「木の切れ端がおもちゃになるなんて思わなかった」

「あの発想はケンゴじゃなきゃ出てこなかったよ」

 すみません、勘弁してください。前世の積み木のパクリです。俺はただ、知っていただけです。


「ギルドで採用できるものでなくて残念だったわ」

「だけど、子供のおもちゃなら…パパとママになったら必要になるかもよ」

 ふふふ、とレアニがアツアツ同棲中の2人を冷かしている。

 パパとママになったところを想像したのか、コルサとマレサが赤い顔をしている。


「ところで、2人とも午後からの予定はないのか?」

 急に話を変えたコルサに確認され、2人とも残念そうな顔をした。

「ないわ、と言いたいところだけど…」

「アルルたちと約束してしまったのよね」

 残念そうにため息をつく。


「チャチャムが自慢するから…」

「だって…だって、美味しいものを見つけたら教えあうって約束していたんだもの」

「ん? ケンゴのSAに連れて行けばいい話じゃないのか?」

「ダメなの」

「んダメなの。アルル、この前の仕事でケガしたらしくて、家から出られないって」

 冒険者仲間の女の子の話か?


「そうか、それなら2人の方から会いに行ってやらないとな」

「何人? イチゴミルク余分に持ってきているけど、持ってく?」

「ケンゴ…!」

「いま譲ってもらえるなら2つお願いしたいかも。うっかりしてたけど、アルルんちに来るメンバーが増える可能性があるの」


 俺は背負っていた箱の中からイチゴミルクの紙パックを4つ取り出して持たせてやった。

「ありがとう。4メレルずつ払う」

「いいのに…」

「「ダメっ」」

 彼女たちから強烈なダメ出しを食らって、俺は2人からジュース代を受け取った。


「じゃあ、また明日…」

「明日は仕事行くぞ。ギルド集合だ」

 そう言ったリーダーを黙って見つめ返すチャチャムとレアニ。それをさらに黙って見守る俺とマレサさん。

「…………」

「仕事だ。…いい依頼がなかったら、半日で終わる常設を受けてもいい」

「分かった」

「リーダー、ありがとう」

 彼女たちとはまた明後日…とはっきりとした予定はたてないまま再会を約束して別れる。


「懐かれたわね、ケンゴさん」

「俺もみんなのことは言えないけどな」

 コルサがちらっと俺を見て、苦笑した。


「ケンゴと会ってから毎日が楽しい。美味しいものを食べたり飲んだりできるし…次は何があるのかってわくわくがある」

 少し気恥ずかしくなってしまった。俺も彼らと出会ってからの毎日が楽しい。いろいろなことがあって、いろんなことが起きて、スキルの成長とともにこの世界を楽しんでいる。


「いい出会いをしたわね」

 俺とコルサは同時に頷いた。

「ところでコルサ、ケンゴさん。そろそろお昼近いけど、食事はどうするの?」

 昼か…


「ギルドの狭い部屋なら自由に使えるから、もしパン屋さんに出張販売をお願いできるなら今日から利用したいのだけれど…」

「あ…そうか」

 つまり、稼ぎ時だということだ。


 コルサが目で「どうする?」と問いかけてくる。

「行こう」

 マレサさんがお膳立てしてくれたのだ。初日の販売は冒険者ギルドにお世話になろう。


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