※09※

 レベルアップ後の変化は、中に入る前から分かった。

 俺が昨夜設定したとおりにレンガのアーチから木の柵に変わっていたのだ。高さも1メートルほどに高くなっていて、境界をぐるりと囲ってあると安心感が増している。

「今、設定を変えるから」

 いや、そういや…まだゲスト指定ってのを試してなかったな。どうやるんだ?


「みんな、ちょっと待ってくれ」

 じっとコルサを見てゲストにしたいと念じると【ゲスト指定しますか?】の問いかけが来た。


 よしっ!


【タイプを指定できます】

 タイプってなんだ? と思った時、なんとなく理解した。

S、つまりスペシャルランクは自販機以外がすべて無料。

Aランクは施設利用料が無料(つまり入場料と自販機は有料)

Bランクは入場料のみ無料。(つまり自販機やトイレ利用などは有料)


 それなら…と全員をS指定にしておいた。

【有効時間の設定ができます。設定しますか?】

「ケンゴ? どうしたんだ?」

「お待たせ。全員、自販機以外を無料にした。入ってくれ」

 みんなに応えて入場を促した。


「テント広場も柵で囲われてる!」

「屋外かまども増えているぜ」

 倍の2か所に増えていた。

「水汲み場の方は変わらないか。…いや、木桶が4つ置いてあるぞ」

 みんなで間違い探しゲームをしているみたいだ。

「ねぇねぇ、あれ! あれ!」

「あれは…なかったな」


 ひとめで違いが分かる。

 屋外に食事や休憩ができるスペースが出来ていたのだ。長テーブルが2、スツールタイプの椅子が6つずつで合計12脚ある。つまり、立ち食いをしなくてもよくなったということだ。

 そしてトイレの建物も大きくなっていた。おそらく、 男性用3個室に女性用3個室ぐらいになっているのだろう。後で確認してみれば分かる。


「増えてるー!」

 トイレよりもみんなが熱い視線を注いでいるのは、自販機だ。離れたところからでも、自販機の数が増えているのが一目瞭然だ。


 俺もウキウキしながら近づき、ラインナップを確認した。


 …おぉ、スープが自販機に加わったぞ。しかも、味噌汁!  コーンスープ! ポタージュスープ! 俺の好きなベストスリーだ。

 飲料の紙パックに変化がある。 イチゴミルク、青汁が追加されてみかんとレモン水が消えた。無糖の紅茶はペットボトル入りで麦茶が消えた。


「ケンゴ、ケンゴ! このおにぎりは何?」

 パン2種類、おにぎり2種類は毎日ランダムなのか、それともレベルupによる変更なのか、中身が変わっていた。

「これは角煮といって、肉を柔らかく似た肉が入っている」

「その隣は?」

「高菜といって、葉物野菜を塩でつけこみ、刻んだものが入っている」

「なんだ、野菜なのか」

「でも、お肉の方はおいしそうだわ。その隣のパンも気になるけど…いつもの丸パンとは違うわね」


「これはメロンパンといって、外側が甘くておいしいパンだ。外と中のパン生地の違いも魅力で…このパンもかなり人気が出ると思うな」

「つまり、うまいってことだな。で、隣の横長のは?」

「コッペパンだ。このまま食べてももちろん美味しいけど、中央に切れ込みを入れて焼いた肉やソーセージを入れるのがおススメだ」


「こっちの丸い入れ物は?」

「スープだ。これはおそらく、みんな飲んだことがないと思う。豆を発酵させた調味料が入っているから、もしかしたら好き嫌いが分かれるかもしれない。で、その隣はコーンという野菜のスープだ。甘くてこれもかなり人気が出ると思う。その隣のはジャガイモのスープだ」

「なんだ。ジャガイモのスープなら普段よく飲んでるな」

 多分、みんなが思っているスープとは違うと思うけど…


「ジュースと書いてあるこの自販機のこれ。かわいいピンク色なんだけど、なに?」

「紙パック入りのイチゴミルクだ。フルーツのイチゴ果汁がミルクに加わったもので…甘くて、特に女性や子供に人気の商品だな」

 本物のイチゴ果汁が使われているかどうか分からないが、説明としては無難なところだろう。


「甘くて美味しいのね!」

「その隣の緑色は?」

「健康を気にする人に人気の野菜ジュースだ。甘くはないが、これ一つで一日分の半分の野菜を食べたのと同じになる」

「えっ、それって2本飲めば他に野菜を食べなくていいってことか?」

「まあ、ずっとそれだと飽きるだろうけど…それぐらい野菜がたっぷり含まれているということだ」


「こっちのペットボトルは? 麦茶みたいな色をしているけど…違うよね?」

「それは紅茶だな」

「紅茶っ? って、あの?」

「あの、って?」

「貴族が好んで飲んでいるやつだよ。貴族はお茶会をして、紅茶を飲みながら甘いお菓子を食べるんだって」

「ああ、それだな」

「えぇえー!」

「すごく高いって聞いたぞ。2メレルで売ってていいのか?」

「……いいと思うよ」

 別に俺は損はしない。


 しかし、今回も…おにぎりもドリンクもスープもすべて2メレルだ。それぞれ容量などが異なっているから、それで調整してあるのだろう。


「リーダー誰からにする?」

「んー若い順にするか」

「じゃあ、ワウンね。次が私」

「チャチャムの後ね」

「で、俺のあと最後がリーダーだな」

 何の順番だろうと思っていたら、ワウンに「はい」とお金を渡された。


「ケンゴさんお願いします。おにぎりの肉を2つ、野菜を1つ。丸いパンを1つ、リンゴジュースを1つ、イチゴミルクを1つ、コーンスープを1つ。とりあえず以上です」

 14メレル、ありがとう。


「私はおにぎりの肉を1つ、丸いパンを2つ、横長パンも1つ、リンゴジュース、イチゴミルクをそれぞれ2つずつ。コーンスープを1つ」

 18メレル、ありがとう。10メレル銅貨を2枚受け取っていたから、おつりを2メレル返しておいた。


「チャチャム、それ全部食べれるのか?」

「違うわ。食べきれないのは持ち帰るに決まっているじゃない。そのためにいつものリュックを背負ってきたのよ」

 なるほど…。ちなみに、リュックを背負っているのはチャチャムだけではない。全員だ。大事なことだから2度言うが、全員がリュックを背負ってきていた。みんな、しっかりしているよ。


「ケンゴさん、私もチャチャムと似ているけど…おにぎりは味見したいから1つずつ。メロンパンを2つ。ジュースは全部2つずつ持ち帰りで、スープは…どうしようかな。やっぱりコーンスープでお願いします」

 レアニはイチゴミルクだけじゃなく青汁にもチャレンジするのか。10メレル銅貨を3枚受け取りおつりを8メレル返す。


「次は俺だな。とりあえず新商品は全部。そして俺も持ち帰り用追加でジュースを1つずつ全部」

 チャウチは、新商品は全て制覇するというタイプか。新商品というとおにぎり2種とパン2種、紙パック2種類にペットボトル1本。で、さらに持ち帰り追加のジュースが1つずつ3種類。

 10メレル銅貨を2枚受け取る。…合ってるよな?


「最後に俺だな。おにぎりは肉を2つ。メロンパンとコッペパン2つずつ。ジュースはリンゴ、イチゴミルク、青汁を2つずつ。紅茶1つにスープは味噌汁というのにチャレンジしてみる」

 10メレル銅貨を3枚受け取って2メレルのおつりをコルサに返す。


「じゃあ…先に食べててくれ。俺は先に荷物を事務所に置いてくる」

 パン売り用の箱と背負い子を事務所に置いてトイレを済ませる。そして急いで手を洗って、ひき返した。


「食べていてくれてもいいのに…」

 みんな、待っててくれた。

 食べる順番を決めていたのか、近くから遠くへそれぞれの目の前にスタンバイしている様子がおかしい。

「いいから、一緒に食おうぜ」

 みんなの目がない時なら大量買いをするのだが、今は一度に食べきれる分だけにしよう。


「お、ケンゴもスープは味噌汁か」

「もちろん。一番好きだし、おにぎりにすごく合うんだ」

「「えっ」」

「おにぎりに合うの?」

「あーそこは人それぞれだけど、俺はベストな組み合わせだと思ってる」


「おにぃ、私にも飲ませて、それ」

 チャチャムのおねだりに、チャウチは素直に味噌汁のカップを渡してやっていた。

「あったかい!」

「スープは冷めにくいから、一気に飲まないよう、気をつけろよ」

 カップが保温用になっているので舌を火傷するといけないと思い、急いで注意した。ちなみに、フタの上には小さなフォークかスプーンがついている。コーンスープはスプーンでかき混ぜ、みそ汁はフォークで具材が突き刺せるという具合に至れり尽くせりだ。


「なにこれ! 変わっているけど美味しい!」

「え、そうなの? そっちにすればよかったかな」

「でも、レアニが食べているメロンパンにはコーンスープが合うと思うよ」

「…そうなのね、じゃあ、今回はいいかな。紙パック入りと違ってスープは持ち帰りしにくいもの」

 レアニは気を取り直したようにメロンパンを食べ、幸せそうな顔をしている。


 あー味噌汁、最高! おにぎり最高っ!

 心の中で絶叫した。


 みんなと美味しいを連発したりしながら、ワイワイ食事をしていると…冒険者風の来客が現れた。

 コルサとは知り合いだったらしく、食べているところを取り囲まれ…気が付けばまたしてもみんなのセールストークが始まっていた。


「これ、これおススメ!」

「めちゃ美味いから。食べてみろよ」

「柔らかいパンなんて食べたことないでしょ」

「感動します…」


「そんなに言うなら、試してみてやるよ」

「ホントに甘いんでしょうね?」

「ジュース…しばりたてが紙箱の中に…不思議」

「見たことないものばかりだぜ」


 おぉ…ガンガン自販機から商品が売れていく。ありがたや。

 彼らも隣のテーブルで食事を始めた。テーブルが埋まっても新たな冒険者たちはやってくる。仲間の姿が遠くに見えるということで、安心して奥までやってくるみたいだ。

 後からやってきた彼らは、立ち食いしたり思い思いの場所に座り込んだりしている。


「消えた!」

「俺のも食べ終わったら消えたぞ、どうなっているんだ?」

 おにぎりの包みやスープの容器などが消えていく。相変わらず、ゴミ箱要らずで助かる。


「ここでは、そういうもんだ」

 落ち着いた声でコルサが言い切る。

「えっ、そうなのか? おかしくないか?」

「ここではおかしくない」

「へー」

「私たちはもう慣れたわ」

「へー、そうなの?」

「すぐに慣れる」

「へー」


 へーへーボタンがあれば連打の嵐だな。



「こんにちは」

 おや、商人風の人たちも入ってきたぞ。初めて馬車が入ってきた。

 こちらは俺が対応するべきだろう。

 ささっと完食すると席を立つ。


「こんにちは、使い方など分からないことがあれば聞いてくださいね」

 代表っぽい商人に俺は話しかけた。

「いつのまに…ご領主様がこんなに立派なものをお造りになったのでしょう?」

 あー。領主が作ったと思われるのか。

「いえ、ここを作ったのは領主ではないです」

「は? では、代官様ですか?」

「いえ…女神さまです、と言ったら信じますか?」


 こいつ、何を言っているんだという顔をされたぞ。商人ってのはもっと顔色を読ませないものじゃないのか? 三流か? いや、俺が突拍子もないことを言ったせいか。

「俺はここの管理人を任されていますが、すべてを理解しているわけではないので…説明が下手ですみません」


「管理人…? …そう、です、か……」

 わけわからないものを必死に飲み下した顔をしたな。


「こんな不思議なところに来たのは初めてで、いろいろ驚きました」

 ぎょろりとした目が特徴的な人だな。


「ところで、どうしてここは水が流れっぱなしなんでしょう?」

 お、愛想笑いを浮かべられるほどには復活したか。

「止まっていた方がいいですか?」

「いや、そういうわけじゃないんですが、無駄じゃないかと…」


「水は流れていた方が新鮮なので、馬に与えるのにはいいと思いますが?」

「おっしゃる通りです。いや…変なことを言いましたな」

 変でも何でもない。近くに川があるわけでもなく、井戸を掘ったとしてもこんなふうに流しっぱなしにはしないから不思議に思えるのだ。水道のない世界に住んでいたら、確かに不思議すぎる現象だろう。


「早速、我々の馬もお世話になります」

「どうぞどうぞ。幸い、他に馬車で来られていらっしゃる方もいらっしゃらないようですし…ごゆっくりどうぞ」

 幌馬車の中は見えないから、何を取り扱っている商人なのか分からない。

「助かります」

 御者らしき男に合図をして、馬に水を飲ませ始めた。


「ところで、マキが無料と入口に書いてありましたが本当ですかな? かまどは誰が使ってもいいのでしょうか」

「ええ。書いてある通りです。ですが、その日その日の使用可能な量は決まっています。追加補充はありませんから、利用者同士でトラブルのないように分け合ってください」

「いや、その通りですな。トラブルはいけません。共同の野営地では助け合うものです」


 幌馬車の側にとどまったままの男たちは用心棒というか、警護の人間なのかもしれない。物珍しそうにしながらも警戒している様子がうかがえた。

「ところで…」

 男は言いよどんだ。なにか言いにくいことなんだろうか。

「…ところで…お聞きしたいのですが」

「はい?」

「なんでこんな場所に野営地ができたのですか?」


「野営地というより休憩所といった方が近いかもしれません」

「休憩所?」

「サービスエリアといいまして、街道を往来する人々や馬などのための…休憩したり食事をしたりする場所になっています」

「休憩と食事…」

 商人の男の視線は冒険者たちがいるテーブルに向かった。彼らは実に賑やかに飲み食いしている。スープやジュースの回し飲みをしたり、おにぎりを分け合っていたりもする。


「ですが、なぜ? ここなんです?」

「え? …あぁ」

 そういうことか。

「町に、近すぎるでしょう?」

「そうですね」


 町から出て、遠くまで行く必要はなかったのだ。はっきりぶっちゃければ、お腹が空いていたから早く昼食にしたかった。だから町に近い場所でも良かったのだ。


「たまたま、だと思います」

「たまたま…ですか?」

「ええ。多分、明日にはここには何もなくなっていると思います」

「……それはどういう…?」


「移動してしまうんですよ」

 怪奇現象のようだな。自分で言っていても可笑しくなってくる。


「移動する。ですって?」

「そうです。俺から言えることはそれだけです。移動してしまうので、一期一会のこのチャンスをどうぞお見逃しなく」

 男は俺の言っていることが本当のことなのか嘘なのか分からなくて困っているように、辺りをきょろきょろと見回しはじめた。いまにもここが幻のように消えてしまうのではないかと、恐れているようでもあった。


「おじさん」

 近くまで来ていたことでこちらの声が聞こえたのか、レアニが俺たちの間に入ってきた。

「すごくおいしいパンや飲み物が、向こうに売っているわよ。買わないと損するかも」

「美味しいパン? 損する?」

「紅茶って飲んだことある?」

「紅茶だと? 庶民の飲み物じゃないだろ」

「そうなのよね。でも、ここにはあるの。しかもびっくりするぐらい安いわよ。さっき飲んでみたけど、美味しかったわ」

 商人の男はかっと目を見開くと、ものも言わず、冒険者たちが群がる自販機に突進していった。護衛の男のひとりが慌てたように追いかけていったが…ま、すぐに分かるだろ。ここで悪さするような人はいないって。


「レアニ、上手いな」

 煽るのが。

「冒険者引退したら、ここで働こうかな」

「バイト代がおにぎりやジュースだけでは困るだろう?」

「あ、ほんとだ。それは困る」

 2人して笑いあい、商人が驚き、飛び跳ねている光景を見て…さらに笑った。


 *


「みんな、そろそろ帰らなくていいのか?」

 町に近いと客が途切れにくい。

 『白星の矢』のみんなは今日も多くの客にセールストークをして、売り上げに貢献してくれた。さりげなく誘導して俺が商品を取り出し、売上金を回収してくれるという流れまで協力してくれた。ありがたや。


「そうだな…ケンゴは今夜どうするんだ?」

「俺は、町の外にいるよ。寝るところには困らないし」

「そうか…」

 コルサは何かを迷うようにしていた。


「明日には一度、町中でパン売りをしてみようかと思っている。みんなのおかげで商売の準備もできたし」

「それなんだがな…マレサが来てみたいと言っていたから…ここで合流できないかな」

 そういえば、彼女。明日は仕事が休みなんだったな。


「分かった。それは構わないけど…西門の方じゃなく、正門を出た先の方がギルドからは近いんじゃないのか?」

「その通りだが…どうして分かった? ケンゴはまだ冒険者ギルドに行ってないだろう?」

「それは簡単な推測…というより単なるあてずっぽうだ。コルサ達と出会ったのが正門だったから、そっちの方がギルドに近いのかな? と思っただけだ」

「そうか…。なら、残念だが外れだ。正門がギルドに近いのは正解だが、俺たちがあの日あの道を通ったのは単に依頼を受けた村がその先にあったからだ」

「あ、はは。なるほど」


「ということで、出来れば正門の先の方がいいが……あまり町に近いと今日みたいなことになるし…どうしたもんか」

「人が少ない方がいいのか?」

「ケンゴの売り上げ的には良くないのだろうが…出来ればマレサには落ち着いて過ごしてもらいたい」

 ふむ…そういうことなら。

「人の往来が少ない街道ってあるのか?」

「東門から出た先は禿山の森に続いているだけだから、通る人も少ないと思う」

「分かった。じゃあ、明日はそっちにSAを出してるよ。マレサさん、それで大丈夫か?」

「ああ。問題ない。助かる」


「…そうだ、忘れるところだった」

 コルサに先払いという名目で借りていたお金を返すのを忘れていた。これ、返しておかないと借金もちになってしまう。


「ああ、俺も忘れてた。ってか、背負子だっけ。今後荷物運びが楽になる新しい道具のこととかいろいろケンゴには世話になっているから、かまわなかったのに」

「世話になっているのはこっちだよ。毎回のセールストーク助かってる」

「そか…そう言ってもらえるとこちらも嬉しいな。何のかんの言って、みんなも楽しんでいるし…いい気分転換になっているよ」

 ということで借りていたお金も無事返すことができたし、手元に残るお金も得た。


「おーい、リーダー」

 あ、つい話が長くなっていたな。

「俺らもそろそろ帰ろうぜ」

 手を振るチャウチたちのもとへ移動する。


「みんな、今日もありがとう」

「いいんだって。俺たちも楽しんでいるし…」

「荷物になるけど、お土産もっていくか?」

「いいのっ?」

「チャチャム…嘘でも少しぐらい遠慮してみせろよ」

「おにぃと違って、私は嘘が苦手なの」

「おいおい、それじゃ俺が嘘をつくのが得意みたいじゃないか」

 きゃははと笑って済ませられるのがチャチャムだよな。


 日持ちがするジュースを5個ずつお土産に渡し、彼らとは一度分かれた。


 サービスエリア内をぐるりと回り、誰もいなくなっていることを確認する。町に近いということでテントを出す者もいなかった。

 日が暮れて、夜間照明に照らされているSAを撤収。する前に食べ物と飲み物を大量買いする。おにぎりは各10個。明日あるかどうか分からないメロンパンの残りは全部買い占めた。相当買ったと思うのに、制服のポケットに入るよあら不思議。


 紙パックのイチゴミルクも入れ替わっていたら困る商品だから、買い占めておいた。青汁も健康のために大量買い。これで当分の間は野菜不足を気にしなくてもいい。


 木桶をバケツ代わりにして、味噌汁のカップも入るだけ入れて持ち帰ることにする。そのうち、フリーズドライも出てくれないかな。

 木桶は下着などの洗濯に使いたいから、ふたつを両手に下げ持った。事務所に置いておけば多分、明日には4つの木桶が定位置にある…と予測中。


「今夜はこの辺でいいか」

 両手にバケツを下げたままSAから出て撤収。街道から少し外れた草原に管理人事務所だけを出した。もちろん隠しモードにしたままだ。


「ただいまー」

 誰もいない室内に戻る。なのに自然と言葉が出ていた。

 シンとした静かな室内だが、やはり安心する。最高の隠れ家だと思う。


 残念ながらテーブルはないので、ソファ横の小さな台がテーブル代わりだ。

「いただきます」

 今夜のメニューはおにぎり3種。昨日の鮭と焼き肉、そして今日の高菜だ。バランスがいい。

 味噌汁はお替りし放題。常温保存で事務所に置きっぱなしにして…3日大丈夫かな? いや、心配しなくても2日で飲んでしまうと思う。


「スープに近いから仕方がないけど、具が少ないんだよな」

 具たくさんの味噌汁、好きなんだが…


「あ、木工屋で箸を作ってもらえばよかった」

 いや、不審がられるか…? どうだろ。

「木の切れ端とナイフを手に入れて…自分で削って作るか?」


 木工屋の買い物はアイデア料と相殺ということでタダになった。だから今日の買い物は紐代だけで済んだ。町中をうろうろしたおかげで、なんとなくの物価も分かってきた。

「木の切れ端はタダでもらえそうだけど…ナイフが高そうだな」

 しかし護身用にも使えるし、ナイフの一本ぐらい持ち歩くべきだろう。


「だけどなぁ」

 なんとなく、使いこなせる気がしない。冒険者や護衛の人以外は武器を携帯していないから、俺だけが丸腰だというわけでもない。


「護身用はダメでも、果物ナイフぐらいは欲しいな」

 果物屋には見たこともないフルーツが並んでいて、美味しそうだった。

「明日は荒物屋へ行ってみるか」

 料理をする必要はないだろうが、鍋があるのだからスープなどの温め直しができる。その時にお玉やスプーンがあると助かる。


 今夜も湯を沸かして身体拭きを済ませ、歯磨きをして、ベッドに入る。相変わらず最高な寝心地だった。


「今日のペースだとあと3日ほどで次のレベルにアップできるかも…?」

 上手くいけば…の話だが。


 ベッドに横になったまま携帯端末をいじる。どこかに見落としがないかと隅から隅まで読んでいく。


「あ…」

 追加情報を見つけた。


◆管理人への支給品 という項目だ。


◇ロッカー/制服(上下)、肌着、下着、靴下。フェイスタオル。(レベルアップ毎)


 靴下? 靴下なんてどこにあったんだ?

 慌てて隣の部屋に戻り、明かりをつけてロッカーの扉を開けた。 下の棚、上の棚…いや、下の棚の奥にあった。あったよ! 色が黒で分かりにくかった。 しかし前の分も回収されていないよ、合計3足になった。明日から履き替えよう。


「制服もこれで3着か…このままロッカーにどんどん増えていくのか? そういや、微妙にロッカーの横幅が広くなってる」


 再びベッドに戻って横になる。


 ◇洗面台/コップ、歯ブラシ、櫛、髭剃り、石鹸。(レベルアップ毎)

 これもレベルアップ毎なのか。石鹸はもうちょっとこまめに欲しかったな。


 ◇ベッドサイド/救急箱(5日毎 中身ランダム)

 傷薬はまだ救急箱がなかった時だったから、5日毎のカウントから外れているのか? 場所もソファ横の台の上に置いてあったしな。


 ◇5日毎 ランダム/靴 パジャマ コート  スリッパ カバン ハンドクリーム 他、お楽しみ♪

 他、お楽しみってなんだよ! 音符が付いているぜ! ♪って…


「いや、楽しみに待ちますよ。ええ。こういう要素があってもいいよ、うん」

 ちょっとしたお楽しみというか、張り合いというか…先の分からないワクワクもいいよな。


「しかし…時々新情報をぶっ込んでくるな、このマニュアル。やっぱり毎日チェックしなきゃ」


 さて、おやすみ。

 そろそろ寝よう。10時に寝る俺は健康優良児…?


 明日のおにぎりの具材は何かなぁと思いながら、瞼を閉じた。

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