第16話 狂った羅針盤と古龍の影

ギルドから下された指令は、北の最高峰に棲まう「古龍」の幼体の討伐だった。幼体とはいえ、龍は龍だ。一国を滅ぼしかねないその存在に対し、カイルは異常なまでの執着を見せた。

「これに勝てば、俺たちは伝説になる。アルト、お前が龍のブレスを正面から受け止めろ」

「わかった。でも、骨が溶けたら歩けないかもしれない。その時はカイルが僕を運んで」

 アルトは事務的に答える。彼にとって、自分の命はもはや「使い捨てのポーション」と同義だった。カイルはアルトの肩を強く叩いた。その目は血走っており、名声への渇望という名の狂気に支配されていた。

 出発の朝、リアは一度もアルトと目を合わせなかった。彼女の瞳からは感情が消え、ただ人形のように杖を握りしめていた。一行が歩む道筋には、アルトの傷口から滴り落ちる血が点々と続いていた。アルトはそれが自分の命の残量であることにすら気づかず、ただ「痛みがない」という万能感の檻の中で、破滅へと向かって歩みを進めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る