第15話 リアの限界と泥濘の治癒

その夜、宿営地の焚き火を囲む三人の間に会話はなかった。アルトは自分の傷口を無造作に針と糸で縫い合わせていたが、その様子を眺めていた魔導師リアが、突如として激しく嘔吐した。

「もう……限界……」

 彼女が差し出した手のひらは治癒魔法の酷使によって赤黒く変色し、常に小刻みに震えていた。彼女が毎日アルトに施す魔法はもはや「癒やし」ではなく、壊れた人形の継ぎ目を無理やり接着する作業に成り果てていた。アルトがどれほど凄惨な傷を負っても、彼自身は何も感じない。しかし、その傷を直視し魔力で繋ぎ合わせるリアの精神は、彼が流すべきだった「痛み」を肩代わりするように摩耗していた。

「リア、次の戦地でもアルトを即座に治せ。それがお前の役割だ」

 カイルの声には、かつての快活さは微塵もない。彼はアルトという「無敵の盾」を手に入れたことで、戦術のすべてを「犠牲」の上に構築するようになっていた。

「……カイル。アルトはもう、中身が空っぽなのよ。彼を治すたびに、私の魔力が『虚無』に吸い込まれていく。彼はもう、人間じゃない……ただの、血を流す機械よ」

 リアの言葉を聞きながら、アルトは首を傾げた。

「機械じゃないよ。ちゃんと動くし、みんなを守れる」

 その無垢な言葉が、リアにとってはどんな呪詛よりも残酷に響いた。彼女は耳を塞ぎ、夜の森へと逃げるように去っていった。アルトはただ、縫いかけの傷口を見つめ、なぜ仲間が泣いているのかを理解できないまま冷えたスープを口にした。

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