第8話 峠の惨劇

 北の峠は、冷たい風が吹き荒れていた。

 『首狩り族』の伏兵が潜む岩場。アルトは指示通り、たった一人で開けた道の中央を歩いていた。

 ――シュッ。

 風を切る音と共に、毒を塗られた投げナイフがアルトの太ももに突き刺さる。

 普通なら激痛で膝をつく場面だが、アルトは歩みを止めない。刺さったナイフを無造作に引き抜き、捨てる。その動作には一抹の迷いもなかった。

「いたぞ! 化け物だ!」

 岩陰から亜人たちが飛び出し、槍でアルトの腹を貫く。

 だが、アルトは貫かれたまま前進し、驚愕に目を見開く亜人の喉元を掴み潰した。

「カイル、今のうちに右の岩場を!」

「……ああ、分かっている」

 後方からカイルが冷徹に突っ込み、アルトを「肉の壁」にして残りの亜人を斬り伏せていく。リアの魔法が炸裂し、アルトの衣服は焦げ、皮膚は裂け、血が雪を赤く染めていく。

 それはもはや戦いではなく、一方的な解体作業だった。

 だが、その様子を岩の隙間から見ていたルカは異様なほどの興奮と感動に包まれていた。

(すごい……! あんなに刺されても、アルトさんは笑ってる。やっぱり、痛みなんて『気の持ちよう』なんだ!)

 ルカは確信してしまった。

 自分もアルトのように、痛みを無視して突っ込めばあの領域に辿り着けるのだと。

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