LOGS:早すぎたエピローグ

─LOGS_DATA─


Time:西暦2209年9月5日

Recorder:キリアン・グラムス

Place:小惑星帯/ストーンマイナー駐屯地


─LOGS─

 

『司令部より連絡!周囲に敵影確認できず、戦闘終了が宣言されました!これよりイカロスはオートパイロットによる生存者の回収作業に移行します。お疲れ様ですキリアン中尉。万が一の戦闘に備えて今はゆっくり休息を取ってくださいね!』


(ウィンドウに表示された名前をキリアンの口はわずかに開き、呆然と正面を見据えるがその焦点は合っていない)


《彼は現在を見ていない》

《失われた過去を見ている》

 

【ERROR:異常な論理飛躍を検出しました】

【例外処理シュレディンガーを実行します】

【論理エンジンの監視をスキップします】

 

『……中尉!キリアン中尉!』

『!その声は』

『よかった、間に合』


(爆発・閃光)


「ありえない」


 俺は即座に断言する。


 そりゃそうだ。


 目の前で爆散したのを見たんだぞ?


「却下だ……生きてる仲間の救出ならまだ分かる。だが死んだ仲間の遺体回収は処理班の仕事だ」


 考える前に飛び出す言い訳の言葉。


 視界がぼやける。焦点が合わない。

 

『?救命規定では生存確率にかかわらず救難信号の発信源を確認することが義務付けられています』

「死亡が明らかな隊員の安否確認にまで適用される規定じゃない。そもそも救護班が動けない場合の例外規定だ。せいぜい対応がちょっと遅れるだけ……」

『しかし』

「だから!嫌だっつってんだよ!!!」


 俺は、とうとう絶叫した。


 十年の時を超え、心の奥底にしまい込んでいた感情をありのままコックピットにぶちまける。拳がひじ掛けに叩きつけられる。整いかけていた呼吸が再び乱れるのを感じる。


……なんなんだ?なんなんだこのファッキンクソAIは?そんなに、そんなに俺を苦しめたいってのか?戦友が死んだ事実をそんなに見せつけたいっていうのか?


 やめろやめろやめろやめろ。


『中尉!キリアン中尉!』


 LABは少女のような可愛らしい電子音声で語りかけてくる……その一瞬で、俺はあまりの馬鹿馬鹿しさに怒る気持ちが完全に吹き飛び、椅子の上で体勢を直す。


『疲れたなら休むべきです。嫌ならやめるべきです。忘れないで、私はどんなときでもあなたの味方ですよ、キリアン中尉』


(LABは、イカロスは動き始めた)

(その両腕で、コックピットを抱きしめるように包み込む)


 それはあまりにも薄っぺらくて、クソッタレな慰めの言葉だった。だからこそ俺は思い出した。本当に自分を肯定してくれたのが誰だったのかを。

 

『いえ、キリアン中尉にそう言っていただけるだけでうれしいです!俺、着任したときめちゃくちゃお世話になったんで!』

『キリアン中尉の機体が出撃できるようになるまでまだ時間があります。それまで誰かが時間を稼がないと』

『俺は信じてますよ、キリアン中尉。お先に戦場で、待ってます!』


『ルートを再設定、駐屯地の第一格納庫に目標を……』

「ま、待て!取り消し、取り消しだ!」


 我ながら情けない話だと思う。


 だがLABは、何一つ不平を言うことなく了承するとふたたびルートは再設定され、俺を信号の発信源へ連れて行く。


──


「はは……ははは……」


 俺達に、死体を残す権利などない。


 棺桶の中で眠る権利などない。


 宇宙空間の戦闘では、爆発、衝突、プラズマ、あらゆる要素が宇宙服に包まれた脆い肉塊など容易に消し去る威力を持っている。


 脱出すらできず、機体の爆発に巻き込まれたパイロットに生きた証を残す権利などない。


『発信源を特定しました』


 そういってLABは、イカロスの目の前に漂っている何かを拡大する。それは特殊な合金で作られたドッグタグだった。高熱にも耐えられるように設計されたドッグタグは黒焦げになりながらも原型を保ち、救難信号と赤い光を発しながら宇宙空間を漂っていた。


 信号機能が起動したのは何かの偶然か。あるいは死の直前に自らドックタグについた信号ボタンを押したのか。


 ログすら残さず消えてしまった今となっては、確実なことは誰にもわからない。


「……ハッチは開けられるか」


 俺はヘルメットを付けると、空調設備がコックピットの空気を吸い込み機内は真空へと近づいていく。


 周囲から音が消えたとき、ようやくハッチが開く。


 俺はイカロスのアームで回収された黒焦げのドッグタグを手袋で掴み、指でドッグタグを拭いてやると、プラスチックの板切れが一緒になっていることに気が付いた。


『検索中……終了。そのキーホルダーは21世紀初頭のアニメグッズみたいですね!復刻版だとは思いますが、経年劣化の程度からして数十年前の物だと思われます!無事に残っているのは奇跡です!』


 AIらしいLABの長々とした解説を軽く聞き流す。俺はキーホルダーを手に取り、握りしめる。分厚いプラスチック製のキーホルダーは経年劣化にも高熱による変質にもへこたれることなく力強い感触を返してきた。


 チリ一つ残らない大爆発の中、なんでこいつが残ったのか、はっきりしたことは分からない。


 だがこのキーホルダーを見ると、あいつが最後に思ったことだけは分かる気がした。


 お前は最後に掴んだんだな。


 自分の一番好きなものを。




─LOGS_DATA─

 

Time:西暦2209年9月5日

Recorder:会議室/ログシステム

Place:小惑星帯/ストーンマイナー駐屯地

 

─LOGS─


(会議室の周囲から慌ただしい音が聞こえるようになった頃、男は再び動き始める)


「司令官」

「なんだ?」

「彼と……キリアン中尉と、一度話してみたいです」


—META_DATA—

 

Logs:Mech Battler Crisis

Title:早すぎたエピローグ

  

——

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