LOGS:イカロス3
─LOGS_DATA─
Time:西暦2209年9月5日
Recorder:会議室/ログシステム
Place:小惑星帯/ストーンマイナー駐屯地
─LOGS─
「キリアン……キリアン・グラムス……」
(ルーカス少佐はウィンドウ上でキリアンのプロフィールを素早く検索しその経歴に目を通す)
「……そうか……あの人なら、あるいは……」
(一瞬の間を置いたあと、ルーカス・ハルトマン少佐は行動を開始する)
─LOGS_DATA─
Time:西暦2209年9月5日
Recorder:キリアン・グラムス
Place:小惑星帯/ストーンマイナー駐屯地
─LOGS─
プラスプラズマを使って一気に距離を引き離した俺は小惑星帯を駆け抜けていく。
(後方でほとばしる閃光)
(レーダー上で急加速を始める敵機)
「ファック……あいつら、プラズマ投射器まで装備してやがるのか」
『敵機急加速!接近されます!』
《戦術推論開始》
《推論時間およそ1.56秒》
《部分的にアグレッサー部隊の平均スコアを上回る数値》
「ミサイル!前方小惑星!」
『了解!』
唐突な俺の指示出しにもLABは一切疑問を挟むことなく実行に移す。
(イカロスの肩部にプラズマ投射器とともに装備されたミサイルポッドからミサイルが発射される。目の前に存在している、おおよそ10~20mの岩石の塊が次々と粉砕されていく)
(破壊された小惑星の残骸は後方のメックワーカーの進路をふさぐ)
(それを見た敵部隊はマイナスプラズマで自機を急減速。遠回りして回避する)
《宇宙空間を超高速航行している機体にとっては、単なる小石の破片ですら衝突すれば圧倒的な運動エネルギーで装甲を損傷させる凶器となりえる》
とりあえずこれで急場はしのいだか……敵が慎重すぎる。この攻撃で敵のスラスターの一つでも持っていけたらよかったんだが、速度を殺してでも回避することを選びやがった。最初の一撃でいきなり2機持っていったことが良くも悪くも尾を引いているらしい。
その時だった。通信ウィンドウ上で突然声が聞こえてきたのは。
その声は例のあの少佐……ルーカス・ハルトマンのものだった。
『司令。敵戦力およびAIの性能が互角かそれに近い場合、通常戦闘で決着をつけることは困難です。AIは常にお互いの最適解を読み合うことで互いの攻撃を回避、防御、あるいは無効化し続けます。敵を完膚なきまでに叩き潰すなら、敵の情報認識を根底から覆す“メタ攻撃”が必要です』
『わかっている。では貴官ならどうする』
『古典的な手ではありますが、基地に設置されている固定式のプラズマ投射器から発生器を射出し、マイナスプラズマで敵の動きを止めましょう。彼に所定の位置まで誘導するよう命令してください』
「……!!!」
『いい案だ。採用しよう……こちら司令部、キリアン中尉、話は聞いたな。今から座標を送る。そこまで敵を誘導しろ、どうぞ』
停滞する戦況。少しずつ失っていく手札。依然として数でこちらを上回る敵機。
一歩間違えれば容易に詰む状況。
その一言がすべてを変えた。
【ERROR:異常な論理飛躍を検出しました】
【例外処理シュレディンガーを実行します】
【論理エンジンの監視をスキップします】
「……こちらキリアン中尉、了解した、速やかに座標を送信……訂正、送られた座標をもとに誘導を行う。どうぞ」
『こちら司令部、健闘を祈る。オーバー』
だが、俺とイカロスはスラスターを最大出力で吹かしながら「基地とは逆方向に」加速を始めた。
(通信ウィンドウから聞こえてくる、基地司令の息を飲む音)
『キリアン!?何をしているんだ……!』
『基地司令。もう少し様子を見守りましょう』
当然だ。普通はそうなる。だからこそ俺は自分の選択により強い確信を持った。
(イカロスがどんどん基地から離れていくと、それを追撃する3機のメックワーカーは足を止める)
(数秒ほどの沈黙の後、彼らは基地に向けて反転を始めた)
『まさか……』
『ええ、そのまさかです』
今頃奴らはこう思っていることだろう。
「お前の手になんかのってやるか!基地から遠ざけようとするのなら、こっちは逆にそれを叩く!」と。
「……そう思うよな、普通はな。LAB、射撃管制システムを移譲しろ」
『了解、ユーハブコントロール!』
俺は操縦制御をLABに任せながら、ハンドライフルを直接制御して敵に向かって射撃する。直撃ではなくあえてその周囲にばらまくように撃ってから本命の一発。教本通りの対AI攪乱メタ戦術だ。もちろん敵も馬鹿じゃない。この程度の攻撃のほとんどは容易に回避されていく。何発かは当たったようだが、敵メックワーカーにこれと言った異常は見られない。
だが奴らは気づかない。
移動経路を誘導するようにばらまかれた周囲の無駄弾のほうが本命であることに。
その攻撃が実際には攻撃ではなく、誘導のための布石であることに。
『撃て!!』
小惑星内部に設置された基地から光が瞬き、複数のポッドが飛んでくる。敵はそれを回避しようとするが、基地方向に向けて最大出力で加速していたため回避が間に合わない。
《戦術推論開始》
《推論時間およそ0.99秒》
《トップクラスのエースパイロットに部分的に匹敵する数値》
「取った!!LAB!射撃管制再移譲!ユーハブコントロール!!」
『了解、アイハブコントロール!』
両手に持ったハンドライフルが2機のアスカを確実に捕らえ、撃墜する。
刹那巻き起こる激しい爆炎。最新鋭センサーに、射撃管制システムですら爆炎によって最後の一機を見失う。
「チッ……」
爆炎をかき分け飛び出してくる最後の一機。
マイナスプラズマ影響下で満足な軌道が取れない中、ぎこちない動きで背後に背負っていたランチャーを取り出す。
【ERROR:異常な論理飛躍を検出しました】
【例外処理シュレディンガーを実行します】
【論理エンジンの監視をスキップします】
『ファック……』
(ロケットランチャーが発射される)
(轟音・爆発)
(バックブラストで後方の有象無象を吹き飛ばしながら発射されたロケットは、噴煙をまき散らしながら真っ直ぐこちらへ近づいてくる)
『ブレイブ3、避け』
『ブレイブ3、避け』
『ブレイブ3、避け……』
【俺とお前で、何が違う?】
【STACK_OVERFLOW】
『俺は信じてますよ、キリアン中尉』
《戦術推論開始》
《推論時間およそ-5秒》
【ERROR:異常な論理飛躍を検出しました】
【例外処理シュレディンガーを実行します】
【論理エンジンの監視をスキップします】
そのロケットは、数秒前まで俺がいた場所を通り抜けていく。
自分でも何が起きたのかよくわかっていなかった。
脊髄反射的に操縦桿を動かした結果、イカロスは奇跡的に敵ロケットを回避することに成功した。
数瞬遅れて自分の認識が追いついた。
怒りに任せ、とっさに出た言葉がこれだった。
「……独身中年、なめんじゃねえええええ!!」
『前進!前進!前進!ウィングスラスター、出力120%オーバードライブ!』
イカロスはロケットランチャーを構えたまま微動だにできない敵のメックワーカーに肉薄し、エネルギーブレードを振り下ろし、その胴体を勢いよく両断する。
『見事です。中尉』
ルーカス少佐の簡潔な賛辞が宙を舞い、最後のメックワーカーはその機能を停止する。
──
全てが終わったあと、俺は宇宙空間をイカロスと共に漂っていた。手袋を握りしめると汗とスーツの空調で冷たくなった合成繊維の感触が返ってくる。
沈黙を、アラートが貫く。
(表示される一枚のウィンドウ)
(救難信号)
(発信者:ニコラ・ヴァーリ中尉)
—META_DATA—
Logs:Mech Battler Crisis
Title:イカロス3
——
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