LOGS:アンタイオスとヘラクレス

─LOGS_DATA─


Time:西暦2209年9月5日

Recorder:キリアン・グラムス

Place:小惑星帯/ストーンマイナー駐屯地


─LOGS─


……帰還してすぐ基地司令に呼び出された俺は、どういうわけか休憩室であの若い少佐、ルーカスと対面していた。

 

『……我々はアンタイオス、我々は、今日ここに宣言する。我々は人類の調停者にして地球の守護者である。我々は人類の秩序と平和を破壊するあらゆる試みに反対し』


 ルーカス少佐は拡張現実に表示されたウィンドウを閉じ、俺に対して向き直る。


……一体これはどういうことだ?なんで俺はこいつに呼び出された?皆目見当がつかなかった。 


「……これは?」

「ニュースはちゃんと見たほうがいいですよ。すでにこの映像は太陽系全体に拡散されている。明日、明後日には冥王星まで届くことになるでしょう」

「……アンタイオス……それが、今回の襲撃事件の首謀者であると?」

「彼らの犯行声明を信じるなら、ですが」


 ルーカスは椅子から立ち上がる。説明を始める。


「犯行声明ではうまく取り繕っていますが、早い話が地球出身の地球至上主義者のテロリストです。この基地の襲撃も奴らのテロの一環に過ぎない。確認されただけでも奴らはすでに3つの治安維持軍基地を攻撃し、民間船、コロニー、惑星、あらゆる場所で、ぴったり同じタイミングで攻撃を始めた。統制されている、それも高度に」

「……」

「しかしもっと難しいのが、現在の情勢では治安維持軍が動くことは困難だということです。特にノンジアデモ事件以降治安維持軍の大規模な出動に世論はシビア……」


 ノンジアデモでは、確かに治安維持軍は現地部隊を生贄に捧げることで存続を許された。組織存続についてのみ絞るなら、あの時の上層部の行動は正しい。


 だが世論の対立という意味では最悪だった。治安維持軍部隊が虐殺同然に蹂躙される様を見た地球では宇宙移民に対する恐怖が蔓延し、地球至上主義の過激派が勢力を伸ばし始めた。


 その過激派の急先鋒がアンタイオスということなのだろう。


「よって正規艦隊は動かせませんし、そもそも対テロ戦争に正規艦隊の編成は不向きです。治安維持軍上層部は急遽対アンタイオスを専門とした独立艦隊を組織し対応する予定です」

「独立艦隊……」


 治安維持軍は太陽系連合によって統制された人類社会唯一の統一軍であり、太陽系全体を活動領域とする宇宙軍だ。その実働部隊は大きく正規艦隊、独立艦隊に大別される。


 正規艦隊は最低准将以上の将官を指揮官とし、フリゲート艦以上の主力艦複数隻によって編成される艦隊決戦を想定した主戦力だ。


 しかし太陽系すべてをこのような大規模艦隊だけで防御することは難しい。陸戦隊や特殊部隊などの兼ね合いもある。そこで治安維持軍は正規艦隊とは別に少佐以上の佐官を指揮官とし、主力艦一隻に補助艦艇をつけた小艦隊として独立艦隊を設置したのだ。


「……なぜ少佐は私にその話を?」

「私が新設される艦隊の一つ、その指揮官に任命されることが決まったからです。それもただの独立艦隊じゃない。バトルメックの運用を専門とした機動艦隊……あなたにも、その艦隊に来てほしい」

「俺が?」


 俺は突然の勧誘に敬語も忘れてそう口走る。


 何だ?どういう意図だ?


 理屈としては……まぁ分かる。新しい艦隊を編成するために少しでもパイロットが欲しいのは。しかし直感として理解できない。この若造が一体どうして年の離れた俺みたいな人間を勧誘するのか。


 いつもの勘も今回ばかりは味方をしてくれなかった。


 正直断ってもよかった。この基地だって決して小さい方ではない。基地司令の階級は大佐で、それに見合った部隊規模と設備がある。一隻だけとは言え戦艦だって配備されている。一方で少佐クラスの指揮できる新設された独立艦隊の規模などたかが知れている。


 そしてやることといえば、あの得体のしれないクソテロリストとのイタチごっこ。冷静に考えれば、それは明らかに割に合わない仕事だった。


 だが……言葉が喉まで出かかったとき、俺は何か忘れていたことがあるような気がした。

  

 一瞬息を深く吸い込み、そのままゆっくり吐き出した。何かが、何かが思い出せそうな気がする。


……あぁ、そうだ。


「ルーカス少佐。質問を一つよろしいでしょうか?」

「?大丈夫ですが」

「私はこう見えて、ロボットが好きです」

「フフッ……ロボットが好き、ですか。空間機動ユニットのパイロットはみんなそう言いますよ」


 俺の唐突な告白にもこの少佐は当然のように応対する。一体何を考えているのかその顔色から伺い知ることはできない。だが俺は躊躇わなかった。

 

「殺し合いをしたあとにこんな事を言うのもなんですが、私は今、それをようやく思い出しました。だからルーカス少佐に一つだけお聞きしたい……その艦隊の名前は何ですか?」


 死ぬほどくだらない質問だった。


 しかし、今の俺にとってそれは何より重要な事だった。


 ロボットに乗るパイロットには、かっこいい名前の部隊が必要だろう?

 

「……なるほど、わかりました中尉。名前なら私がピッタリのものを考えています。新しい艦隊の名前は……ヘラクレスです」


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Logs:Mech Battler Crisis

Title:アンタイオスとヘラクレス

  

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