LOGS:イカロス2

─LOGS_DATA─

 

Time:西暦2209年9月5日

Recorder:キリアン・グラムス

Place:小惑星帯/ストーンマイナー駐屯地

 

─LOGS─

 

「あ……」


 俺は口をパクパクさせたまま、操縦桿を無意識に握りしめる。紡ぐ言葉が見つからない。


『前進!前進!前進!ウィングスラスター、出力120%オーバードライブ!』


 代わりにコックピットにキャピキャピとしたLABの声が響き渡り、機体が超高速で加速を始める。プラズマ技術を応用した慣性制御技術ですら中和しきれないほどのGで俺はシートに叩きつけられた。


「ぐっ……なんだ!?」


 俺とイカロスは目の前に立ちふさがる5機のメックワーカー、その弾幕をすり抜けてその向こう側に向かって吹っ飛んでいく。


 いや違う。イカロスをフルコントロールしているLABはすり抜けざまにイカロスの腕部についたエネルギーブレードユニットで敵のメックワーカー2機を切り裂いた。


 一瞬遅れて燃料……核融合炉の水素に引火した敵機は激しく爆発。爆炎をかき分け残り3機となった敵メックワーカーは散開しながらイカロスへの追撃を開始する。


『博士、今の動きは……?』

『あ〜、おそらくパイロットの思考と感情をLABが読み取りすぎた結果かと。イカロスの制御には各種生体シグナルをLABが解析することによる間接思考制御システムを採用してるのですが、その感度調整が課題の一つでしてな』

『……なるほど、とんだじゃじゃ馬だな』


 クソ、呑気に解説してるんじゃねぇよ。


「移動移動移動……操縦システムを移譲しろ!」

『了解、ユーハブコントロール!』


 俺は弾幕を避けるため小惑星帯の影まで一気に駆け抜け、適当な岩陰を見つけるとそこに機体を隠す。コックピットの中で各種ウィンドウを開き、素早く情報を整理していく。


「敵は……敵はどうなってる」

『イカロスが小惑星帯の陰に隠れたタイミングで散開を開始しました!このまま包囲するものと推測』

「包囲だと?先に出たA班はどうなった!」

『約1分前に最後の一機が撃墜され全滅しました』


 最後の一機。A班。1分前。


【ERROR:異常な論理飛躍を検出しました】

【例外処理シュレディンガーを実行します】

【論理エンジンの監視をスキップします】

 

『よかった、間に合』


 ニコラ中尉。最後の機体。


 次々と僚機が落とされていく中最後まで戦場に残り、戦い続けた後輩。


 あいつは、最後に何を思ったのだろう。


「クソが」

 

《異常な殲滅速度》

《単なるハードウェアの改造では説明不能》

 

「操縦システム移譲!ユーハブコントロール!速度ではこっちが勝ってる、引き撃ちしながら包囲を逃れるぞ」

『了解!アイハブコントロール!射撃システム正常、戦術推論に基づいた攻撃行動を開始します!』


(イカロスは脚部を使って小惑星を足場に跳躍し、助走をつけながら再び宇宙空間を飛行し始める)

(LABは全自動で最適行動を決断。最も効果的に攻撃を加えられると判断した近くの敵機に狙いを定め全自動で射撃する)

 

 俺は何一つ見逃すことのないように、イカロスの射撃に対して敵がどうアクションを取るのか注視していた。


 その動きは人間の直感に反していた。イカロスが照準を定めると敵はごくわずかな時間硬直する。次の瞬間敵機は突然機体を傾け機動をずらし、一瞬前まで機体が存在していた空間を綺麗に弾丸がすり抜けていく。


【ERROR:異常な論理飛躍を検出しました】

【例外処理シュレディンガーを実行します】

【論理エンジンの監視をスキップします】


「そういうことかっ」


 サポートAI。


 こいつらはミリタリーグレードか、それに準ずるレベルのサポートAIを搭載している。メックワーカー5機でA・C班を一方的に叩きのめしたカラクリはこれか。


《Q:もしも高度に発達した、能力の近しいAI同士が対戦するとどうなる?》

《A:高度に発達したAIはお互いに周囲の状況から相手の導き出す推論までを計算し、その攻撃を無効化し続ける》

 

《ソフト・ハードともにその能力が互角に近いケースでは、極めて高い確率で決着のつかない膠着状態に陥る》

《逆にソフト・ハードどちらかに問題があった場合、それは戦いではなく一方的蹂躙となり得る》


 こちらの射撃は尽く躱される。まるで未来でも予知しているかのような奇妙な回避軌道によってこちらの弾は一発もかすめることなく宇宙の彼方へ消えていく。


 一方メックワーカーはこちらに干渉することなくただ黙々と機動し続け、こちらを完全に包囲しつつあった。


《対AI戦術:多重軸飽和攻撃》

《敵を包囲し、複数の異なる軸から同時に攻撃することで回避する余地を排除する》

《数的優位とチームワークを最大限有効化する戦術》


 AIコントロールでは避けきれない。


 俺は即座にそう判断した。

 

「チッ!!」


《キリアン・グラムス、敵行動意図を認知》

《戦術推論開始》

《推論時間およそ2秒》

《平均的なパイロットを上回る優秀な数値》


「操縦システムを移譲しろ!」

『了解、ユーハブコントロール!』


 俺はマニュアル操作を開始する。機体バランスを崩すほどの強引な急旋回で、俺はイカロスを「近くの小惑星に激突」させた。


 一瞬遅れてイカロスがいた空間を無数の銃撃と砲撃が薙ぎ払い、イカロスの高機動に追いつくため最大出力で加速していた敵機はオーバーシュートする。


 あと少し判断が遅れていたら、俺は蜂の巣にされていた。


《データベースに類似する戦術を確認できません》

《情報の追加収集を要請》

《検索範囲をノーマルネットワークにまで拡大》

《最も近い戦術:ミニ四駆走法》

《加速ではなく減速のための衝突であることに注意が必要》


 機体システムに異常がないのを確認すると、再び小惑星を足場にして跳躍。そのままLABに指示を飛ばす。

 

「進行方向にプラスプラズマ三連射出、一気に引き離すぞ!」

『了解!射出!』


(イカロスの肩部側面についたポットから球体状のポットが勢いよく飛び出していく)

 

《プラズマ投射器》

《一定の範囲内に特殊なプラズマを展開するポッドを射出する投射器》

《その範囲内に存在する物質はプラズマの極性に応じて無条件で加速・減速する》

《プラスであれば加速、マイナスであれば減速》

《ただそれだけの兵器》


《しかし、プラズマ投射器の登場は宇宙戦闘に大きな変革をもたらした》

 

 イカロスの前方に展開される3つの稲妻。


 ほとばしる閃光の中にイカロスは真っ直ぐ突っ込んでいき、スラスターの炎が爆発したかのように出力を上げる。そしてイカロスは物理法則を無視するような猛烈な勢いで加速を始めた。


─LOGS_DATA─

 

Time:西暦2209年9月5日

Recorder:会議室/ログシステム

Place:小惑星帯/ストーンマイナー駐屯地

 

─LOGS─


「……あの男正気か!?自分が何をしているのか分かっているのか?」


(基地司令の横に立っている副官は顔を激しく歪め、吐き捨てるようにそう言った)

(基地司令は戦闘が始まった後わずかに目を細めて沈黙し、無言を貫いている)

(副官の言葉を最後に会議室には再び沈黙が流れ始めた)

(一方ウィンドウ上では基地で働く兵士達の多種多様な連絡がテキスト・ボイスメッセージで飛び交っている)

(だが一部の書き込みには明らかに兵士個人の私語が混じっていた)

(そのほとんどは今まさに命がけで戦っているキリアンの正気を疑うものだった)


『イカれてる』

『あいつはなんでプラズマを使わなかった?』

『あの速度域で小惑星に突っ込むなんて信じられない』


「……」


(基地司令は依然として何も言わない)

(すでに彼が行うべき仕事はすべて終わっている)

(あとは状況がどう推移するか。それだけが問題だった)


《現状結果は出している》

《だから言わない・指摘しない》

《しかしそれは理解を意味しない》

《基地司令が求めているのは理屈ではない。結果である》

《彼は裁定者として会議室に立っていた》




《キリアン・グラムスに理解者はいなかった》

《ただ一人を除いては》


「まさか、見えているのか……いや、感じている?」


(会議室の隅で状況の推移を見守っていたルーカス・ハルトマン少佐は、誰にも聞こえないほど小さな声でそうつぶやいた)


《夢破れたパイロット》

《抜け殻と化したおっさん》

《彼の認識していない場所で》

《一つの歯車が回り始めた》


—META_DATA—

 

Logs:Mech Battler Crisis

Title:イカロス2

  

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