LOGS:抜け殻のおっさん3
─LOGS_DATA─
Time:西暦2209年9月3日
Recorder:キリアン・グラムス
Place:小惑星帯/ストーンマイナー駐屯地
─LOGS─
【ERROR:異常な論理飛躍を検出しました】
【例外処理シュレディンガーを実行します】
【論理エンジンの監視をスキップします】
『こちらゲート1!確認した、おそらくジョイントワーカー……いや違う、メックワーカーです!』
「っ……!!!?」
聞こえた。はっきりと。聞こえるはずのないものが、地獄の底で死んでいった仲間の声が。
……落ち着け分かってる。メックワーカーなんて今時珍しくもない。この基地だってもう作業用はジョイントワーカーじゃなくてメックワーカーがずっと前から主力になっていたじゃないか。
……だがおかしい。確かに整備員の奴はこういった、“バトルメック”と。俺は思わず考え込んでしまうとそれに気が付いた整備員のほうから声をかけてきた。
「……あ、キリアン中尉。中尉も気になりますか?例の新型」
「……まあな」
「今我々整備班も仕様を読んでるんですが……どうも初めて本格的な戦闘用として設計されたメックっていう触れ込みらしくて、なんとパーツがほぼ全部新造。アプデが必要な箇所だけ交換できるのがメックの強みだっていうのに……自分達がいじってきたものと違いすぎてちょっとコメントに困りますね」
「その新型がなんで俺達の基地に?」
「どうもこいつ、まだ正式採用されるかどうかもわからない実証試験機らしいんです。その試験をうちでやりたいと」
「資料は見せてくれないのか?」
「よしてください。どうせ後でパイロット用のやつが配信されますよ……ああでもそうだな、そういえばこの試験官の少佐、なんでも28歳の天才って触れ込みらしいですよ」
「はあああああ!?」
俺は思わず目を見開き声を出す。28歳で少佐!?あり得るのかそんなこと……?
【ERROR:異常な論理飛躍を検出しました】
【例外処理シュレディンガーを実行します】
【論理エンジンの監視をスキップします】
『なぜだ、なぜ撃てない!』
『司令部、安全装置解除を!司令部!』
「くっ……!?」
「中尉……?」
俺は再び聞こえてくる死者の声に思わず耳に手を当てる。
なんなんだ……?こんなこと今まで一度も……そうかわかったぞ。
気に入らないんだ、こいつのことが。
俺はまだ会ったこともないその少佐に、かつて現地部隊を切り捨てて保身を図ったクソ司令部と同じ何かを感じていた。
なんの根拠もない妄想なのは分かってる……
でももしそいつが、俺の予想通りの男なら……
その顔面に、一発入れてしまうかもしれないな……。
—NOTE—
そいつの面を拝む機会は意外なほど早く訪れた。
新型機が到着するや否や基地司令から呼び出しがかかり俺達パイロットは哨戒任務中のものを除き臨時のミーティングを受けることになった。
─LOGS_DATA─
Time:西暦2209年9月5日
Recorder:キリアン・グラムス
Place:小惑星帯/ストーンマイナー駐屯地
─LOGS─
俺は基地内に存在する、そこそこ広くて椅子やテーブルが並んだだけの会議室に仲間達とともに着席し、目の前にいる基地司令の大佐の説明を黙って聞いていた。
「さて……事前連絡があった通り、今日からこの基地で新型兵器の実証試験が行われる。こちらが実証試験官のルーカス・ハルトマン少佐、そしてもう一人がメック開発の第一人者、ヤマノシロウ博士だ」
「……ルーカス・ハルトマン少佐です!よろしくお願いします!」
「ははっ……まぁその、ヤマノシロウ博士だ。いやはや、恐れ入るね……」
噂のルーカス少佐はその信じがたい経歴に反してエリート特有の厭味ったらしさを一切感じさせない明るい好青年といった印象だ。
対するヤマノシロウ博士はその真逆。丸メガネをかけたひょろ長の男で、おそらく定期的に抗老化処置を受けているのだろうが、見た目は俺と同じ30代程度、しかし事前に提示されたプロフィールによれば御年80歳、俺の人生2回合わせてもまだ余るほどの時を生きている。
その証拠に、抗老化処置でもどうにもならない頭髪だけは、わずかに黒髪の交じったほぼ完全な白髪だった。
……気に入らない。
特に殴る気も起きないような野郎なのが逆に気に入らない。
心の中でむかむかしたもののやり場を失った俺はわずかに眉間に皺を寄せながら話を聞いていた。
「実証試験については後半の演習でこの基地の空間機動ユニットのパイロットも参加することになっている。今日の会議ではその演習が主な会議内容になるが……その前に例の兵器、バトルメックについてヤマノシロウ博士から簡単な説明をする時間をとった」
大丈夫ですか博士。そう基地司令は声をかけると件の博士は博士は実に怠慢な歩き方で壇上へ上がる。身体機能の問題というより、いかついパイロット大勢を前に話すのが嫌だといった印象だ。
「あぁ、あぁ。ではこれからバトルメックについて簡単に説明しよう……」
《追加情報を要請》
《該当するメタデータをロードします》
─META_DATA─
Id:MECH_Standard
Name:MECH
Data:22世紀中頃から終わりにかけて普及したジョイントワーカー設計規格の通称。シンギュラリティによって急速に進歩を続ける技術進化に対してジョイントワーカーが対応するため作られた。ブロック構造によってあらゆるパーツの柔軟な組み換えを目標にしている。
《あらゆる技術が急速に進化を続ける世界》
《どんなロボットも完成する頃にはその技術は陳腐化する》
《必要なのは“変化に耐えられるロボット”だった》
《その理想を実現するためヤマノ博士が開発したのがブロック構造を採用した新型規格MECHだった》
─META_DATA─
Id:MechWorker
Name:メックワーカー
Data:MECHを採用したジョイントワーカーの通称。一部機能が技術進歩によって陳腐化しても、ブロック構造を利用してその部分だけ新しいパーツに換装できることが特徴。用途に合わせて様々なカスタマイズも可能でありMECHの登場以降ジョイントワーカーのバリエーションは大幅に増大した。
─LOGS─
「知っての通りだと思うが……軍が最初に戦闘用ジョイントワーカーとして正式採用したのはビートルだった」
ヤマノ博士ははっきりとした、しかしどこか自信なさげな声で説明し始める。
「それはまあいい……次に新型として採用されたのは私が働いているテイラー社の新型ジョイントワーカー"アスカ"だった。しかしこれも、軍上層部の強い要請によりMECHの採用を見送り従来型の設計を流用したものとなった……だが我が社は今度こそ次世代機にMECHを採用してもらいたいと考えている!そこで開発したのが今回この基地に運び込まれた最新鋭機“イカロス”だ」
ヤマノ博士はそこで巨大なウィンドウを開きイカロスの画像を映し出す。
従来の人型ロボットとしてのフォルムは維持しつつ、目を引くのはその背部に搭載された一対の大型ウィングスラスター。
仕様書によればこのウィングスラスターを前後左右上下あらゆる方向に指向できるようにすることで、全方向への超高機動を可能とするコンセプトらしい。
スペック自体は既存の空間機動ユニットから大きくかけ離れているわけではない。しかしそのウィングスラスターを使って移動方向に対して常に推力を集中させることで、同じパワーでもより大きな加速力を得ることができる。
悪くはない、単機の戦力だけを見るならば。
《軍隊においては能力の均一化が重要視される》
《一人の英雄も平均的な凡人達が連携すれば倒せる》
《メックは柔軟な換装が最大の武器であり弱点である》
《性能が日々変わる兵器を戦力に組み込むのは困難》
《そのような風潮が当時の軍には存在した》
「それでも私は確信している!バトルメックこそ次世代空間機動ユニットのスタンダードとなると!今ここにいるパイロットの皆様にはぜひ力を貸してほしい!イカロスの実証試験を通してその有用性を軍内外に知らしめてほしい!」
いつの間にか博士の言葉は熱をこもったものになっていた。どうやら博士は好きなことを語ると熱くなるタイプの人間だったようだ。静かな、しかし確かな熱量にいつの間にか他のパイロットまでのせられ始めている。さっきとはえらい違いだ。
【ERROR:異常な論理飛躍を検出しました】
【例外処理シュレディンガーを実行します】
【論理エンジンの監視をスキップします】
『だってロボットが好きだから』
「……」
その声は、死者の声ではなかった。
だが、それはもう決して聞こえるはずのない声だった。
永遠に失われたはずの声だった。
現実の重力に潰された、一人の坊主の声だった。
──
一通り情報伝達が終わり、ミーティングが終了しようとしたときそれは起こった。
突然鳴り響くアラーム音。拡張現実を埋め尽くす真っ赤で巨大な半透明のウィンドウ。
「なんだ……?」
『こちらC班、攻撃を受けた。現在敵勢力と交戦中、敵戦力……メックワーカー、敵はメックワーカーです!どうぞ』
会議室に集まっていた同僚や、拡張現実に投影されたホログラムとして参加していた兵士たちがざわめきだつ中、俺はたった一人心臓をつかまれたような思いだった。
【ERROR:異常な論理飛躍を検出しました】
【例外処理シュレディンガーを実行します】
【論理エンジンの監視をスキップします】
『あまり力むなよ新米。俺たちがやることはただの牽制だ。このバカ騒ぎがつまらん暴動にならないようにただ突っ立ってるだけでいい……』
止まった時が、動き出す。
—META_DATA—
Logs:Mech Battler Crisis
Title:抜け殻のおっさん3
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