LOGS:抜け殻のおっさん1


─LOGS_DATA─

 

Time:西暦2209年9月3日

Recorder:キリアン・グラムス

Place:小惑星帯/ストーンマイナー駐屯地

 

─NOTE─


《人類はシンギュラリティによって進歩した》

《あらゆる技術が無限に進化し続ける世界》

《あらゆる物が不足した》

《土地・エネルギー・資源》

《AIに地球は狭すぎた》

《AIのために人類は宇宙にまで進出した》

《巨大なデータセンターが宇宙空間に建てられた》

《あらゆるリソースがAIのために使われた》

《大量の金が動いた》

《かつて宇宙には、活気と希望で満ちあふれていた》




 昔のSFじゃよくある話だ。


 地球の権力者に私物化された統一政府。


 それに反発する宇宙移民。




《すべての人類は太陽系連合へ統合された》

《スペースバブルは崩壊した》

《あらゆる宇宙紛争は永久に終結した》

《あとには危険なコロニーで暮らす宇宙移民が残された》

《不満が募るのは必然だった》




 そこまではいい。


 だが、予想だにしなかったのは……それで一番割を食ったのは、俺たち軍隊だったということだ。




─LOGS─


「……また、あの夢か」


 俺はベットからゆっくり起き上がる。


 いつも通りの最悪なお目覚めだ。

 

 目をこすりながら洗面所へ歩いていって顔を洗い、再び顔を上げる。俺はいつものように慣れた手つきでパイロットカラーの標準制服の袖に手を通す。


 ビジネスホテルのように快適で、無機質な自室。広くもなければ狭くもない。贅沢品といえば、せいぜい備え付けのコーヒーメーカーだけ。


 だがミニマリストのつもりはない。俺はARコンタクトを目に付けると、拡張現実が投影され部屋中に放置された無数のウィンドウがあらゆる場所を埋め尽くす。


 俺は、思い出を物として残すのが嫌いだ。


 嵩張る、無くす、そして壊れる。


 俺はそれが嫌いだった。


《追加情報を要請》

《該当するメタデータをロードします》 

 

─META_DATA─


Id:NondiaDemo

Name:ノンジアデモ

Data:セクターL2ノンジアで発生した数カ月に及ぶ大規模な抗議活動の総称。太陽系連合発足以来最悪の政治的事件として知られる。


  セクターL2のサブコロニーで発生したコロニー事故をきっかけに始まったこの抗議活動は、宇宙移民のあらゆる不満を飲み込み肥大化し、最終的に現地に展開する治安維持軍現地部隊に対する過激派のテロ事件と暴動にまで発展した。


 議会からの要請により全ての武器・兵器に安全装置を装備していた現地部隊は「司令部が安全装置を解除しなかった」ことにより事態は急速に悪化、最終的に現地部隊の半分以上が死傷する大惨事となった。


〈省略〉


《武力衝突が発生すれば戦争が始まる》

《太陽系連合の権威は失墜し、多くの血が流れる》

《それは彼らの本意ではなかった》

《軍に対する世論の非難は限定的なものだった》

《兵士達の凄惨な死は様々なプロパガンダに利用された》

《治安維持軍は、兵士の命と引き換えに存続を許された》

 

—LOGS—

 

 すっかり朝のコーヒーを忘れていた俺は、まだ時間に余裕があることを確認するとコーヒーメーカーにコップを置き、コーヒーが小気味よい音を立てて注がれるのを黙って眺める。


 コーヒーはいい。


 宇宙に出た人類がアルコールとタバコの代わりに趣向品とした飲み物の一つがコーヒーだった。


 宇宙の船乗り達に長年愛され続けた合成コーヒーは、治安維持軍の象徴の一つとして愛飲されるに至る。今じゃ戦闘前の一杯どころか、棺桶にまでマグカップと来た……棺桶に入れるものが残ってないのだ。すべてをデジタル化した俺達には。


 嵩張る、無くす、そして壊れる。


……だが、お前は本当にそれで良いのか?


 コーヒーのために死ねるのか?マグカップを抱いて死ねるのか?


 死体すら残らず消えていった無数の死者。


 無数の棺桶。


 底に置かれたマグカップ。周りを囲むように散りばめられた色とりどりの造花。


 思念が、記憶が浮かんでは消える。無数のウィンドウに囲まれ、コーヒーが注がれる音だけが静かに響き渡る。


……いいんだ、もう。


 手に入れたもの、失ったもの。


 あの世に持って行くにはでかすぎる。


 俺は出来上がった合成コーヒーを少しずつゆっくりと飲み干していく。


 その時だった。突然通信が入ったのは。


「お前か……昇進おめでとうニコラ中尉」

『知ってたんですか!キリアン中尉』

「噂でな。今度飯でも奢ろうか?」

『いえ、キリアン中尉にそう言っていただけるだけでうれしいです!俺、着任したときめちゃくちゃお世話になったんで!』

  

 マグカップを脇へ置き、ウィンドウへと向き直る。


 ニコラ少尉……いや、今は中尉か。


 2年前、先任の俺が世話することになったパイロットの後輩。毎回きっちり昇進タイミングで階級を上げる優等生だ。どういうわけか知らないが、それ以来ずっと俺のそばをくっついている。


 しかし……随分とはしゃぎ過ぎだな。そんなにはしゃいでるとー


【ERROR:異常な論理飛躍を検出しました】

【例外処理シュレディンガーを実行します】

【論理エンジンの監視をスキップします】


「……ニコラ中尉」

『どうしました?』

「お前、装備点検はちゃんとしたか?」

『……え?』


 

─META_DATA─

 

Logs:Mech Battler Crisis

Title:抜け殻のおっさん1

  

—— 

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