Mech Battler Crisis:抜け殻と化したおっさんパイロットは地獄の底からロボットだけで再起する
永遠の09
第一章
プロローグ
LOGS:世界は俺を裏切った
─NOTE─
昔、コロニー事故があった。
数十人の死者と、数百人の負傷者が出た……大きな、しかしよくある事故だった。
体の貧弱な坊主が一人、瓦礫の下敷きになった。
自分の体よりはるかに大きな瓦礫の山、コロニーの空気が漏洩して、刻一刻と苦しくなる息。
たった十分……人生で最も長い十分だった。
突然、光が差し込んだ。鋼鉄の腕が瓦礫を押しのけた。
「人が、子供がいるぞ」
一人の軍人がそう叫ぶ。巨大な、人型のロボットに乗りながら。
─META_DATA─
Id:JointWorker
Name:ジョイントワーカー
Data:人工筋肉を最大限有効活用するため、タイヤや履帯と全く異なる脚部駆動を採用した次世代型汎用多関節重機。一般的には「2本のアームと脚部を装備した人間が搭乗可能な大きさの人型ロボット」とされているが4本足をはじめとした多関節ワーカーもまま見られる。
<省略>
─NOTE─
その坊主は軍人になった。
どういうわけか知らないが、年を経るごとにムキムキになる体と必死に知識を詰め込んだ頭で士官学校に滑り込み、いつの間にかそいつは軍用ジョイントワーカーのパイロットになっていた。
……なぜかって?そうだな……
だってロボットが好きだから。
─LOGS_DATA─
Time:西暦2199年7月4日
Recorder:キリアン・グラムス
Place:スペースコロニー/セクターL2ノンジア
─LOGS─
《それは、人類がまだ地球という存在に縛られていた時代》
「……ではない!我々は誇り高き宇宙移民者……」
(通りをひしめく無数の群衆)
(バリケードを貼り、整然と展開していく、真っ白な軍服を身にまとった兵士たち。装甲車両から降ろされる真っ白なバリケードには誇り高き太陽のシンボルとともに真っ黒な英字が刻まれている)
《Solar System Union(太陽系連合)》
《Peace Keeping Force (治安維持軍)》
「なぜ連合の軍隊が出てくるんだ!!」
(デモ隊はバリケードの目前にまで迫り、空中投影型のプラカードを掲げ、展開する兵士たちを強力なライトを使って攻撃するものまで現れた)
《我々はチャンスを求めてここに来た!》
《搾取ではない!》
《自治権を!》
《生存権を!》
《安心して暮らせる社会を!》
《事故におびえず生きられる世界を!》
……俺はその様子を、手厚く装甲に守られたロボットの内側から見つめている。ヘルメットのゴーグルに表示される、仮想の全周囲モニター越しに。
モードをコックピット視点を切り替えると、力強く鋼鉄の脚部が地面に叩きつけられる音と共に、視界の隅で古びたキーホルダーが水筒と共に揺れ動いていた。
俺の乗る機体、軍が開発した戦闘用ジョイントワーカー“ビートル”は所定の位置に到達すると手に持っている大型ライフルを両手に保持しながら直立不動で制止する。
(機体の中で実体のない仮想ウィンドウを開き、通信を始める)
「こちらブレイブ3!配置につきました、どうぞ」
『こちらブレイブ1、あまり力むなよ新米。俺たちがやることはただの牽制だ。このバカ騒ぎがつまらん暴動にならないようにただ突っ立ってるだけでいい、どうぞ』
「りょ、了解です、オーバー!」
ラックに置かれた水筒を取り、急いで中の水を口に含むと操縦桿を再び握る。目の前の群衆はついにバリケードを乗り越えようとし始めるが、兵士達が銃で勢いよく突き飛ばし、冷徹に群衆を押し留める。
……大丈夫だろうな、これ。
そんな考えが頭によぎったとき、無線の向こうで動揺した声が聞こえてくる。
『こちらHQ、所属不明機体の反応を確認した……座標送信。現地部隊、確認できるか。どうぞ』
『こちらゲート1!確認した、おそらくジョイントワーカー……いや違う、メックワーカーです!』
『おいでなすったな……』
『襲ってくるようなら手早く片付けろ。だが銃火器の使用は厳禁だ』
『どうせ使えないでしょ?いいですって』
その姿はすぐに目視できた。群衆をかき分け、通りの向こうから巨人がゆっくりと歩いてくる。デモ隊はパニックになって人を押し倒し、踏み倒すのも構わず脇へ避けようとする。
『ん……?』
『デモの連中のお仲間じゃないのか……?』
僚機の連中がかすかな違和感を口にするが、巨人は構うことなくゆっくりと前進を続け、手に持っている、黒い筒状のものをー
『ファック……』
(ロケットランチャーが発射される)
(轟音・爆発)
(バックブラストで後方の有象無象を吹き飛ばしながら発射されたロケットは、噴煙をまき散らしながら真っ直ぐこちらへ近づいてくる)
『ブレイブ3、避け』
「っっっがっああ!」
『畜生ふざけんじゃねぇよ!』『司令部、安全装置解除、安全装置解除を要請!』
(ロケットの弾が着弾し、衝撃で崩れ落ちる一台のビートル)
(周囲の建物から、あるいは窓から複数の黒い影が顔を出し、通りに向けて銃撃が始まる)
パラララララララララ。
軽快なサブマシンガンの音が響き渡り、兵士達は咄嗟に地面に伏せながらバリケードへと退避する。
俺はと言えば、ロケットランチャーの直撃で機体が横転し、地面に叩きつけられた衝撃に喘いでいた。クソいてえ。
(全身の痛みをこらえながら、何とか操縦桿を動かし立て直そうとする)
(モニターには赤いエラーウィンドウが表示され、機体はうなり声をあげるだけで一向に動こうとしない)
「っ……隊長!こちらブレイブ3!フレームが損傷しています!立ち上がれません!」
『なぜだ、なぜ撃てない!』
『司令部、安全装置解除を!司令部!』
(他の機体は事態の把握に精いっぱいで通信に対応できない)
俺達は突然の攻撃に武器を使えないまま対応を試みる。
安全装置は、未だ解除されない。
撃たれた兵士たちはバリケードまで引っ張られ、衛生兵が戦場を走り回る。
「大丈夫だ!」「傷は浅い」「まだ助かる」
うつろな目をした新兵を古参の兵士が取り囲み、必死に励まし合う。群衆は突然現れた地獄を前に慌てて逃げ出そうとする。
爆発に巻き込まれ、ケガした人々が群衆に踏みつけられる。阿鼻叫喚の地獄絵図。
鳴りやむことのない銃撃が兵士も群衆も区別することなくあたり一帯を薙ぎ払い続ける。
おそらく、状況を正確に把握できた人間など一人としていないだろう……その言葉も、すべて聞き取れた人は果たして何人いただろうか。
だが俺は聞いちまった。
「なんでだよ」
(フラフラと機体のそばに歩み寄り、膝から崩れ落ちる一人の女性)
「なんでよ、なんでいつもこうなのよ!なんで助ける!なんで助けられるのおおおお!!私達には、何もないのにいいいい!!」
(誰に言うでもなくただ絶叫し続ける)
「母親は死んだ!仕事はつぶれた!家族はバラバラになった!全部、全部事故で、コロニーの事故で!誰も助けてくれなかった!あいつらは違うううう、全部ある!全部ある!」
「応援を……」「後退、後退しろ!」「た、助け……」
地獄の中で、絶え間なく漏れ出る怨嗟の声。
心の奥底から発せられる、命の声。
人を助け、助けられる光景すら憎しみを覚えてしまった人の声。
人としてありたかったのに、それが許されなかった人間の、何一つ覆い隠すことのない、地獄の底から出た声だった。
銃撃と砲撃で、いとも容易く崩れ去る、真っ白なバリケード。地獄の底で、光の消えた目でバリケードの向こう側を見つめる血だらけの人々。
銃声が鳴り止むと、辺りは静寂に包まれる。怒号一つ、悲鳴一つ聞こえてこない。
ただ“空気”が……空気だけが、その場を支配していた。
もうそれだけで、十分だった。
【俺とお前で、何が違う?】
【STACK_OVERFLOW】
「……う、うおおおおおおお!!!!」「殺せ!殺せ!!」「前に出ろ、もっと前へ!」「やらなきゃ殺られる!!」「殺せ!」「死ね!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」
【STACK_OVERFLOW】
カメラが叩き壊され、真っ暗になる視界。
【STACK_OVERFLOW】
装甲の上から聞こえてくる、暴徒たちが拳を、鉄パイプを、瓦礫を叩きつける音。
【STACK_OVERFLOW】
無線から聞こえてくる、阿鼻叫喚の悲鳴。
【STACK_OVERFLOW】
『司令部、司令部、司令部、しれいぶ、しれいぶぅぅぅぅぅ!!!』
【STACK_OVERFLOW】
『畜生、こんなところで死ねー』
【STACK_OVERFLOW】
反撃すら許されることなく的当てのように撃ち抜かれていく僚機。
【STACK_OVERFLOW】
俺達は、最後の瞬間まで人間だった。
【STACK_OVERFLOW】
彼らは、人間ではいられなかった。
【STACK_OVERFLOW】
─LOGS_DATA─
Time:約25時間後
─LOGS─
「人が、人がいるぞ」
「生存者だ!コックピットに生きてるやつがいる!」
……分かっちまったんだよ。あいつらの気持ちが。
すべてに耐えられなくなった俺は、ヘルメットを隅に投げ捨て、頭を抱えて絶叫する。
しかし、俺の喉から声は出ない。
まるで、泣き叫ぶことすら忘れてしまったかのように。
─META_DATA─
Logs:Mech Battler Crisis
Title:世界は俺を裏切った
─ANALYSIS─
LFES:異常な再帰処理とエラーを複数回確認しました。
LFES:推論中……終了。
LFES:該当ログ分析の際論理的に説明のできない思考の飛躍が確認されました。
LFES:これ以降同種のエラーをすべて例外処理【シュレディンガー】で吸収することを提案します。
LFES:また、当該ログを解析のため戦術研究部門に提出することを推奨します。
──
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