第38話 御楯組

 結局集まったのは、先の六人に、福原乙之進さん、大和弥八郎さん、長嶺内蔵太さん、有吉熊次郎さん、白井小助さん、赤禰武人さんの十二名だった。

 全員が揃ったところで、高杉さんが話を切り出した。

「お集まりいただきかたじけない。今度の作戦はここにお集まりの同志と行います」

「晋作、今度は何をやる?」

 一番年長の福原さんが訊いた。

「――そこの崖の上、御殿山にある作りかけのイギリス公使館、あれを焼き払います」

 これを聞くなり、座は一斉にざわめいた。皆が顔を見合って、言葉を交わす。

「まあ、落ち着いて。続きを聞いて下さい」

 高杉さんの作戦は、御殿山イギリス公使館焼き討ちだった。


「御殿山といえば桜の名所、江戸っ子たちにとっては「おれたちの場所」でしょう?それを幕府はイギリスにロハ同然で売り渡した。これには江戸っ子は納得しない。幕府にもイギリスにも恨み骨髄ってわけです。そいつを焼き払って、おれたちの手で江戸っ子に御殿山を取り戻してやりましょう」

 高杉さんはほくそ笑んだ。

「この作戦の肝は、イギリス人を斬らない、というところです。作りかけの公使館には誰もいない。誰も殺らない攘夷であれば、世子もさすがに怒らないでしょう?」

 久坂さんが後に続いた。

「攘夷断行、江戸っ子喜ぶ、幕府の面目丸つぶれ、一挙三得。皆さん、どうですか?」

 最年少の有吉さんが、「いいですね」といった。その声をきっかけに、全員がいいな、やろう、と賛同した。

「それなら、決まりということで。勝手ながらこの僕が、各々の持ち場を定めてきました」

 高杉さんは、懐から紙を取り出し皆の前に広げた。

・隊長:高杉晋作

・副将:久坂義助

・先駆:赤根武人、白井小助、山尾庸三

・火付:志道聞多、伊藤俊輔

・護衛:福原乙之進、堀真五郎、有吉熊次郎

・後備:大和弥八郎、長嶺内蔵太

 紙を見たおれは、ずぼらな志道さんに、肝心要の火付役が務まるのだろうか、と心の中で訝った。

「火付は要だ。足を引っ張るなよ、俊輔」

 あなたがそれをいいますか?

 おれの心配を他所に、志道さんはお気楽だった。

「これから九日まで、各々支度にとりかかってもらいます。十日以降、空が乾いて風が強い日を見極めて決行します。決行の日は、八つに合図を回しますので、受け取ったらここに集まってください。それでは今日は散会。座敷に上がりましょう」


 その合図が回ってきたのは、冬の江戸らしい、からっ風が吹き荒ぶ十二月十二日だった。暮六つ過ぎ、おれは寒空の中をお里の長屋に向かった。

 長屋では想像通り、お里に入れあげている志道さんが寝転がって皆を待っていた。 

 志道さんには、合図の必要はないな。

「志道さん、道具は用意しましたか?」

「誰にいっている?おれに抜け目があるか」

 志道さんは袖口に手を突っ込み、手ぬぐいに包んだ二つの丸い物を見せた。火付けの火薬団子だ。

「やるのは丑三つだろう?それまでこんなものを袖に入れておきたくはない。ひとまずは、そこの額の裏にでも隠しておくとするか」

 志道さんは立ち上がって額を外した。

「僕は藩邸から火口箱を二つばかり拝借してきました」

 おれは懐の中をちらりと見せた。

「上出来だ。それなら先に始めようか」

 志道さんは、勝手知ったるお里の長屋に酒肴を取り寄せ、相模屋からお里も呼び戻して一足先に始めてしまった。丑三つまではだいぶある。皆も段々と集まってきては、暇潰しだ、と飲めや歌えの大騒ぎになってしまった。

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