閑話

第9話

 深夜の裏路地で、女の悲鳴が上がった。


 発見された女性は、右腕を肘から斬り落とされていた。

 財布もスマートフォンも残されていた。

 奪われたのは、腕だけだった。


後に連続切断事件と呼ばれるその事件は、

直後からSNSで拡散された。


「女の人の腕、切り落とされてたって」

「ナタみたいなのでやられたらしい」

「強盗じゃなくて腕だけ持ってったってマジ?」


 翌週、別の場所で同様の事件が起きた。

 今度は左腕だった。


 持ち去られた左腕は、翌朝、裏路地の非常階段に置かれていた。

 見つかった腕には、強く握り潰されたような、小さな指の痕が残っていた。


 被害者たちの証言には、共通点があった。


「『返して』って、何度も言っていました」

「『わたしの』って、何度も」

「私の顔なんて見てなくて……腕にしか興味がないみたいでした」


 ある夜、雑居ビルの非常階段で、防犯カメラが人物を捉えた。


 フードを深くかぶり、大きすぎるジャケットを着た小柄な影。

 何かを胸に抱え、うつむいたまま歩いていく。


 映像が乱れた一瞬、覗いたのは人の手だった。


***


(……ちがう。これも、ちがう)


 確かめては捨て、また探す。


 彼女は人を見ていなかった。

 手だけを見ていた。


 それが誰のものかではなく、

 ただ、あの手かもしれないという、それだけで。


 夜の街では、ときおり小さな足音が聞こえたという。


 彼女は、まだ探していた。

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