第34話「土曜日、家族全員で、何かをする件」
土曜日の朝、悠真が、キッチンに、降りると、リビングが、賑やかだった。
全員、揃っていた。
澪が、コーヒーを、淹れていた。
(…………)
(澪さん、コーヒーを、淹れている)
(朝の、コーヒー、復活)
(月曜の、約束、まだ、なのに)
(土日は、家族全員で、の、日)
(澪さん、出てきてくれた)
「澪さん、おはようございます」
「……おはよう」
澪が、悠真の、目を、見た。
いつもより、少しだけ、表情が、柔らかかった。
「……コーヒー」
「ありがとうございます」
「……月曜じゃ、ない、けど」
「はい」
「……土日は、家族の日、だから」
「はい」
(澪さん、ちゃんと、覚えている)
(曜日制を、認識している)
(土日は、全員で、家族の日、ということで、出てきてくれた)
紅が、新聞を、読んでいた。
「悠真くん、おはよう」
「紅さん、おはようございます」
「今日、何、する?」
「……何が、いいですか」
「あなたが、決めて」
「……俺が」
「家族の、日、なんだから、家主が、決めて」
(紅さん、家主、扱い)
(俺、家主、じゃ、ないけど)
(実質的には、家主、と、紅さんに、何度も、言われている)
白音が、お茶を、淹れていた。
「悠真くん、おはよう」
「おはようございます」
「今日、楽しみね」
「楽しみ?」
「家族、全員で、何か、する、というの、私、初めて」
(白音さん、三百年、生きてきて、家族全員で、何かをするのが、初めて)
(社の、白蛇、一人で、生きてきた)
(家族、というものを、知らなかった)
「白音さん、何か、リクエスト、ありますか」
「……特に、ない。あなたが、決めて」
(白音さんも、丸投げ)
(紅さんと、同じ)
ましろが、悠真に、しがみついた。
「おにいさん、何、する?」
「これから、考えます」
「ましろ、公園、行きたい!」
「公園、いいですね」
「悠斗くんも、連れてく?」
「連れていきましょう」
「やった!」
(ましろさん、悠斗くんと、仲良し)
(座敷童と、半妖の、少年)
悠斗が、リビングに、入ってきた。
「岬おじさん、おはよう!」
「悠斗くん、おはようございます」
「みんな、いる!」
「家族の日、です」
「家族の日?」
「土日は、家族、全員で、何かをする、日」
「いいね!」
(悠斗くん、八歳児の、純粋な、反応)
(家族の、概念、ちゃんと、受け止めている)
みつきが、首を、伸ばしながら、入ってきた。
「みんな、揃ってる!」
「みつきさん、おはようございます」
「悠真くん、今日、何する?」
「公園、ましろさんが、提案しました」
「いいじゃん!」
(全員、賛成)
(公園、決定)
---
全員で、出かけた、のは、初めてだった。
八人。澪、紅、ましろ、みつき、白音、管理人、悠斗、悠真。
(管理人さんが、外出するの、見たことがない)
(今日、初めて)
(管理人さん、扇子を、持って、ついてくる)
(不思議な、絵)
「管理人さん、外、来てくれるんですか」
「……家族の日、らしいからな」
「ありがとうございます」
「うむ」
(管理人さん、家族の日、認識)
(紅さんと、白音さんに、何かを、聞いた、らしい)
近くの、公園に、向かった。
大きな、公園。芝生、遊具、池。
悠斗が、走り出した。
「滑り台!」
ましろも、続いた。
「ましろも、滑る!」
(座敷童と、半妖の少年、子ども二人で、遊んでいる)
(ましろさん、八歳児の姿、本領発揮)
悠真と、大人組が、ベンチに、座った。
澪、紅、白音、みつき、管理人、悠真。
紅が、悠真を、見た。
「悠真くん、子どもたち、見守ってる、姿、家族の主、みたい」
「主、じゃ、ないですよ」
「実質、主」
(紅さん、また、家主扱い)
白音も、頷いた。
「悠真くん、もう、私たちの、主だと、思う」
「白音さんまで」
みつきも、首を、傾けた。
「あたしも、そう、思う」
「みなさん、こだわりますね」
「事実だから」と、紅。
澪が、横で、何も、言わなかった。
でも、頷いていた。
(澪さんも、認めている)
(管理人さんは?)
悠真が、管理人を、見た。
管理人が、扇子を、開いた。
「……お前を、選んだのは、俺、だが」
「はい」
「お前が、ここまで、立派に、なるとは、思わなかった」
(…………)
(管理人さん、立派、と、言った)
(管理人さんが、人を、立派と、言うの、聞いたことがない)
「管理人さん」
「うむ」
「ありがとうございます」
「お礼、いらん」
(管理人さんも、口癖、感染している)
(百鬼荘、口癖、共有)
---
昼、公園で、お弁当を、食べた。
紅が、用意してくれた。
全員分。八人分。
「紅さん、ありがとうございます」
「お礼、いらない」
(口癖、定着)
お弁当、おいしかった。
卵焼き、唐揚げ、おにぎり、煮物。
「これ、紅さん、全部、作ったんですか」
「ましろちゃんと、白音と、みつきちゃんと、一緒に」
「……」
(女性陣、料理、合作)
(紅さんの、料理教室、効果)
悠斗が、唐揚げを、食べていた。
「紅さん、唐揚げ、おいしい!」
「ありがとう、悠斗くん」
「ましろも、唐揚げ、好き!」
「ふふ、たくさん、食べていい、よ」
(紅さん、子どもたちに、優しい)
(百年生きた、九尾の、母性)
(不思議な、組み合わせ)
澪が、悠真の、隣に、座った。
いつもより、近く。
「……悠真」
「はい」
「……卵焼き」
「はい」
「……食べて」
澪が、卵焼きを、悠真の、口元に、運んだ。
(…………)
(澪さん、自分から、食べさせ、しようとしている)
(雪女が、自分から)
「あの、澪さん、自分で——」
「……食べて」
「……はい」
悠真が、澪の、卵焼きを、食べた。
甘かった。
(澪さんの、卵焼き)
(久しぶり)
(おいしい)
「……どう?」
「おいしいです」
「……」
澪が、少し、頬を、赤くした。
(澪さん、また、頬、赤い)
(雪女の、感情、隠せない)
紅が、横で、ニコニコ、していた。
「澪、進歩したわね」
「……うるさい」
「えへへ」と、ましろも、見ている。
「みんな、見てる、と、澪さん、固まる、よ」と、みつき。
「……」
(澪さん、固まった)
(観客が、いる、と、不器用さ、増す)
(雪女、観客、苦手)
(でも、自分から、食べさせ、しに、来たのは、すごい、進歩)
---
午後、公園で、それぞれ、過ごした。
子どもたち、ましろと、悠斗、まだ、走り回っていた。
大人組、ベンチで、お茶を、飲んでいた。
紅が、しばらくして、立ち上がった。
「悠真くん、ちょっと、いい?」
「はい」
「散歩、付き合って」
「……はい」
悠真と、紅が、二人で、池の周りを、歩いた。
(紅さん、何か、話したい、ことがある)
(家族の日、なのに、二人だけで、歩く)
「悠真くん」
「はい」
「神代の、こと、聞いた、覚えてる?」
「はい」
「あれ、進展、ある」
(…………)
(来た)
(紅さんと、神代さんの、進展)
「進展、というのは」
「神代、私に、告白してきた」
(…………)
「告白?」
「うん」
「……いつ?」
「昨日」
(昨日)
(俺、白音さんと、長く、話していた、日)
(白音さんが、紅さんが、神代さんに、興味を、持っている、と、教えてくれた、日)
(その、夜)
(神代さんが、紅さんに、告白してきた)
「……返事、しましたか」
「まだ」
「……」
「だから、悠真くんに、相談、したい」
(紅さん、悠真に、相談)
(俺、紅さんを、選ばなかった、立場)
(その、俺に、相談する)
(紅さん、信頼してくれている)
(嬉しいような、複雑な、ような)
「紅さん、俺、相談、相手、適切ですか」
「適切」
「俺、紅さんを、選ばなかった、立場ですよ」
「だから、適切」
「……?」
「あなた、私を、好きで、いる。でも、選ばなかった。だから、客観的に、見られる」
(紅さん、論理的)
(百年生きた、九尾の、判断)
「分かりました」
「で、悠真くん、どう、思う?」
悠真が、しばらく、考えた。
「……紅さんは、神代さんを、好きですか」
「分からない」
「分からない?」
「神代、誠実、で、優しい、いい人。でも、好き、というのが、何なのか、分からない」
「……」
「あなたへの、好き、と、神代への、興味、違う、種類」
「具体的には?」
「……あなたへの、好き、激しい。神代への、興味、穏やか」
(紅さん、自分の、感情を、ちゃんと、認識している)
(百年、生きた、九尾の、自己分析)
「紅さん、答え、出てない、ですよね」
「うん」
「では、神代さんに、待ってください、と、伝えれば、いいですか」
「待ってもらう?」
「はい。紅さん、まだ、答え、出ていない、と」
紅が、しばらく、考えた。
「……それ、あなたが、私たちに、した、こと」
(…………)
(紅さん、刺してきた)
(俺が、半年、答えを、待ってもらった、こと)
(同じ、こと)
「卑怯、ですね」
「卑怯」
「すみません」
「謝らないで」
(紅さんの、口癖)
「でも」
「はい」
「正直、いい、提案」
「……」
「神代に、待ってもらう。私、ちゃんと、考える」
「はい」
「あなたに、半年、待ってもらった、こと、私、責任、感じてる」
「責任?」
「うん」
「……あなたに、責任は、ない」
「ある。私、確信犯で、迫った。それで、あなた、混乱した」
「……」
「だから、神代に、迫らない、ように、する」
(紅さん、深い)
(百年生きた、九尾の、反省)
(俺に、確信犯で、迫った、こと、責任、感じている)
(だから、神代さんに、同じこと、しない)
「紅さん」
「うん」
「俺、紅さんが、神代さんを、選んでも、選ばなくても、応援します」
「うん」
「紅さんが、幸せになる、ことが、一番、大事」
紅が、しばらく、悠真を、見ていた。
「……ありがとう」
「お礼、いらない、ですよね」
「いらない、けど、言いたい」
「……」
「悠真くん」
「はい」
「あなた、本当に、いい男」
「……ありがとうございます」
「ふふ」
紅が、笑った。
(紅さん、嬉しそう)
(俺、応援する、と、伝えた、こと、紅さん、安心してくれた)
(俺、卑怯な、選択を、続ける、責任、引き受ける)
---
夕方、全員で、百鬼荘に、戻った。
悠斗と、ましろが、疲れて、ぐっすり、寝ていた。
悠斗を、悠真が、おんぶして、ましろを、紅が、おんぶして、帰った。
(八歳児を、おんぶ、する、こと、人生で、初めて)
(重い)
(でも、嫌じゃ、ない)
悠斗を、ベッドに、寝かせた。
悠斗が、半分、起きながら、言った。
「……岬、おじさん」
「はい」
「……今日、楽しかった」
「俺もです」
「……家族、いいね」
「いいですね」
「……岬、おじさん、ありがとう」
「お礼、いらない、です」
(俺も、口癖、使った)
(百鬼荘、共通の、口癖)
悠斗が、また、眠った。
(八歳児、寝顔)
(家族の日、楽しんでくれた)
(よかった)
---
夜、リビングで、夕食を、食べた。
全員、揃っていた。
悠斗、もう、起きてきて、ご飯を、食べていた。
賑やかな、夕食。
紅が、ワインを、飲んでいた。
白音も、お酒を、飲んでいた。
澪が、ジュースを、飲んでいた。
みつきが、お茶を、飲んでいた。
ましろが、ジュース。
悠斗も、ジュース。
管理人が、お酒。
(バラバラ)
(でも、楽しい)
悠真が、ふと、思った。
(俺、選ばない、ことを、選んだ)
(卑怯と、紅さんと、みつきさんに、言われた)
(澪さんを、傷つけた)
(でも、今日、家族として、全員で、過ごしている)
(悪くない)
(むしろ、いい)
紅が、ワイングラスを、持ち上げた。
「家族の日、に、乾杯」
「乾杯」
全員が、グラスを、合わせた。
悠真が、ワインを、飲んだ。
(おいしい)
(人生で、二回目に、おいしい、お酒)
(一回目は、案件決定の、日の、紅さんの、鍋の、お酒)
(あの日も、家族で、囲んでいた)
(思えば、あの日から、ずっと、家族)
(俺、ずっと、ここに、いる)
---
深夜、悠真は、自分の部屋に、戻った。
ノートPCを、開いて、ログを、書いた。
*【自分のログ:三十四日目】*
*感情:感謝、楽しい、複雑、決意*
*感謝:家族全員で、一日、過ごせた*
*楽しい:公園で、子どもたちと、遊んだ。お弁当が、おいしかった*
*複雑:紅さんが、神代さんに、告白された*
*決意:紅さんが、誰を、選んでも、応援する*
(ログ、書き終わった)
(家族の日、収穫、多かった)
(澪さんが、戻ってきてくれた、こと)
(紅さんと、深い、話を、できた、こと)
(みんなで、楽しい、時間を、過ごした、こと)
そのとき、ドアを、ノックする音が、した。
「どうぞ」
澪が、入ってきた。
「……澪さん」
澪が、いつもより、堂々と、入ってきた。
「……今日、ありがとう」
「ありがとう?」
「……公園、楽しかった」
「俺もです」
「……卵焼き、食べてくれて、ありがとう」
「おいしかったです」
「……」
澪が、しばらく、悠真を、見ていた。
「……悠真」
「はい」
「……月曜の、こと、変更、いい?」
(…………)
(変更)
(嫌な、変更?)
「変更?」
「……月曜、コーヒーだけ、と、言ったけど」
「はい」
「……外、行きたい」
(…………)
(澪さん、外、行きたい、と、言ってきた)
(月曜、家の中、だけだった、約束を、外出に、変更)
(前進)
「もちろん、いいです」
「……どこに、行く?」
「澪さんが、決めてください」
「……決めて、ない」
「では、月曜、までに、決めてください」
「……うん」
「楽しみに、しています」
「……私も」
澪が、ふっと、笑った。
(澪さん、笑った)
(戻ってきている)
(少しずつ、確実に)
「澪さん」
「……うん」
「ありがとうございます」
「……お礼、いらない」
「言いたいんです」
「……ふふ」
(澪さん、ふふ、と、笑った)
(雪女、笑い方、覚えた)
「……おやすみ」
「おやすみなさい」
澪が、出ていった。
(澪さん、戻ってきた)
(家族の日、効いた)
(曜日制、白音さんに、感謝)
---
岬悠真、百鬼荘生活、三十四日目。
家族の日、土曜日。全員で、公園に、行った。お弁当を、食べた。澪さんが、卵焼きを、食べさせてくれた。紅さんが、神代さんに、告白された、と、教えてくれた。応援する、と、伝えた。澪さんが、月曜、外出、提案してくれた。
それ以外は——
いい一日。
家族の日、最高。
(曜日制、本当に、効いている)
(白音さんに、感謝)
(家族、全員、健在)
---
*【第35話「澪と、本当に、二人で、話した、月曜の件」に続く】*
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