第32話「みつきが、復活した、覗きで、面白い情報を、持ってきた件」
木曜日の朝、悠真が、キッチンに、降りると、首が、天井から、降りてきた。
「悠真くん、今日、あたしの日!」
(みつきさんの、首)
(朝から、首だけで、降りてくる)
(覗き、復活)
(覗き、というか、純粋な、挨拶)
「みつきさん、おはようございます」
「おはよう! 今日、何、する?」
「みつきさんが、決めてください」
「あたしが?」
「はい」
みつきが、首を、ぐるぐる、回した。
(首だけで、ぐるぐる、回る)
(独特の、絵)
「うーん、考え中」
「考えてください」
「で、悠真くん、朝ご飯、まだ?」
「まだ、です」
「あたし、朝ご飯、作る!」
「みつきさんが?」
「うん。紅さんに、教わったから!」
(紅さんの、料理教室、繁盛)
(ましろ、白音、みつき、全員が、紅さんに、習っている)
「お願いします」
「待ってて!」
みつきの首が、引っ込んだ。
しばらくして、胴体つきの、みつきが、キッチンに、入ってきた。
「あ、首だけじゃ、無理だった」
「そりゃ、料理は、首だけじゃ、できないですよね」
「うん、反省」
(みつきさん、ろくろ首として、首だけで、料理しようとした)
(ろくろ首、料理、苦手の、原因)
(首だけでも、何でもしようとする)
(無理)
---
みつきの、朝ご飯。
卵焼き、お味噌汁、ごはん。
シンプルだが、ちゃんと、おいしかった。
「みつきさん、料理、上手ですね」
「ふふ、紅さんの、おかげ」
「紅さん、教え方、上手なんですか」
「上手。九尾の、千年分の、料理経験」
(千年分の、料理経験)
(紅さん、九百年、生きている、と、知った)
(百年は、若い)
(千年)
「あたし、紅さんに、毎日、教わってる」
「毎日?」
「うん。紅さん、楽しそう」
「教えるの、紅さん、好きですか」
「好き、というより、世話好き」
(紅さん、世話好き)
(百年生きた、九尾の、世話好き)
(百鬼荘の、女性陣、面倒を、見ている)
(料理、教えて)
(俺の、ことも、面倒を、見てくれている)
「みつきさん」
「うん」
「紅さん、最近、どうですか」
「どうって?」
「俺の、選択について、本当の、気持ち」
みつきが、首を、傾けた。
「……それ、覗きで、聞き出すべき?」
「みつきさんの、覗き、復活したんですよね」
「うん。でも、紅さん、本気で、覗くのは、ダメ」
「ダメ、ですか」
「九尾、覗かれてる、こと、感じる。すぐ、バレる」
「……」
「で、紅さん、覗かれた、と、知ったら、楽しそうに、揶揄ってくる」
「揶揄う、ですか」
「うん。あたし、いっぱい、揶揄われた、過去」
(紅さん、覗き、見抜く)
(情報屋の、みつきさんでも、紅さんを、覗くのは、難しい)
(紅さん、強い)
「みつきさん、紅さん以外、覗いてますか」
「うん」
「澪さん?」
「澪さん、覗いてる」
(おお)
(情報、来るかも)
「……澪さん、最近、どうですか」
「ふふ、それ、聞きたかった?」
「正直に、言うと、聞きたいです」
「うん、教える」
(みつきさん、情報屋)
(情報を、流すのが、楽しい)
---
みつきが、教えてくれた、澪さんの、最近。
「澪さん、部屋に、こもってる」
「ですよね」
「でも、ずっと、こもってる、わけじゃ、ない」
「夜中、あたしの首、伸ばして、見たら、廊下、歩いてた」
「歩いてた?」
「うん。悠真くんの、ドアの前、何回も、行ったり、来たり」
「……」
(澪さん、夜中、俺の、ドアの前を、行ったり来たり)
(コーヒーを、置きに、来てくれた、夜だけじゃ、ない)
(毎晩、来ているのか)
「みつきさん、毎晩?」
「毎晩、見てる」
「……」
「だから、澪さん、距離を、置いてる、ような、置いてない、ような」
「……」
「迷ってる、というのが、正確、と思う」
(澪さん、迷っている)
(戻りたい、けど、戻れない)
(雪女の、不器用さ)
「……ありがとうございます、教えてくれて」
「お礼、いらない」
(口癖、健在)
「みつきさん、もう一つ、聞いていいですか」
「どうぞ」
「……俺、月曜、澪さんと、コーヒーを、飲む、約束、しました」
「知ってる」
「ご存じ、でしたか」
「ふふ、覗いた」
(みつきさん、覗き、フル稼働)
「みつきさん、月曜、澪さんに、何を、伝えれば、いいですか」
「あたしに、聞くの?」
「みつきさん、相談役、だから」
「ふふ、そうだった」
みつきが、しばらく、考えた。
「……あたしの、ヒント」
「お願いします」
「澪さん、言葉より、行動、見てる」
「行動?」
「うん。あなたが、何を、言うか、より、何を、するか、を、見てる」
「……」
「だから、月曜、何を、するか、考えて」
(行動、考える)
(言葉じゃ、なくて、行動)
(澪さんに、伝わる、行動)
「……みつきさん、ありがとうございます」
「お礼、いらない、って」
「言いたいんです」
「ふふ」
---
午後、悠真と、みつきは、リビングで、お茶を、飲んでいた。
みつきが、首を、伸ばしながら、悠真を、見ていた。
「悠真くん」
「はい」
「あなた、最近、本当に、面倒な、人」
「みんなにそう言われます」
「悪い意味じゃ、ない」
「ありがとうございます」
(みつきさんの、口癖、定着)
「あたし、悠真くんに、言いたいこと、ある」
「どうぞ」
「……あたし、半年前、半年で、引く、って、言った、覚えてる?」
「覚えてます」
「あれ、撤回した、覚えてる?」
「覚えてます」
「……それ、もう一度、言いたい」
(来た)
(みつきさんが、もう一度、言いたい)
「みつきさん、何を、言いたいですか」
「あたし、これからも、ここに、いる」
「……」
「悠真くんが、誰を、選ばなくても、選んでも、ここに、いる」
「……」
「あなたが、半年、考えて、出した、選択。あたし、尊重する」
(みつきさん、まっすぐ、言ってきた)
(情報屋から、覗き、再開して、相談役で)
(自分の、立ち位置を、確立した)
「みつきさん」
「うん」
「ありがとうございます」
「お礼、いらない」
「みつきさん」
「うん?」
「俺、みつきさんを、家族、として、ずっと、大事にします」
「うん」
「これからも、覗きの、情報、頼りにします」
「ふふ、了解」
(みつきさん、嬉しそう)
(情報屋、として、認められた)
(自分の、価値を、再確認できた)
---
夕方、みつきが、覗きで、面白い情報を、持ってきた。
「悠真くん、面白い、情報、ある」
「何ですか」
「神代さん、この前、家に、来た、覚えてる?」
「覚えてます」
「神代さん、最近、どこか、行ってる、らしい」
「どこ?」
「あたしの、覗き、外に、出ない、けど、紅さんから、聞いた」
「紅さん経由?」
「紅さん、神代さんと、最近、よく、連絡してる」
「……知らなかった」
「あたしも、聞いて、びっくり」
(紅さんと、神代さんが、連絡を、取り合っている)
(保護指定の、関係、で、業務上、連絡は、ある、けど)
(よく、というのは、頻度が、高い)
「みつきさん、紅さんと、神代さん、なぜ、連絡してるんですか」
「分からない。でも、紅さん、神代さんを、家族扱いしてた、覚えてる?」
「覚えてます」
「で、最近、神代さん、家に来なくなった」
「……」
「だから、外で、会ってるのかも」
(紅さんと、神代さんが、外で、会っている)
(嫌な、想像をしてしまう)
(神代さん、独身。離婚歴、あり)
(紅さん、選ばれなかった人)
「みつきさん、まさか——」
「分からない。でも、可能性は、ある」
「……」
「ただ、紅さんが、神代さんに、興味、持ってる、のは、確かみたい」
(…………)
(紅さんが、神代さんに、興味を、持っている)
(俺、選ばなかった、紅さん)
(紅さんが、別の、男性に、興味を、持っても、文句、言えない、立場)
(言いたい、わけじゃ、ないが)
(嬉しいような、寂しいような)
「悠真くん、何、考えてる?」
「……複雑な、気持ち、です」
「ふふ、そうでしょ」
「みつきさん、楽しそうですね」
「楽しい!」
「……人が、悪い、ですよ」
「あたし、覗き、好きだから」
(みつきさん、相変わらず)
(情報屋、本領発揮)
「みつきさん、確認しますが、神代さんと、紅さんが、付き合ってる、わけじゃ、ない、ですよね」
「分からない。あたし、家の中しか、覗けない」
「……」
「気になる?」
「気になります」
「ふふ、悠真くん、選ばなかった、くせに」
「卑怯、ですよね」
「卑怯」
(みつきさん、容赦ない)
(でも、本当の、こと)
「悠真くん、紅さんに、聞いてみたら?」
「聞く?」
「うん。直接」
「……聞いていい、んですかね」
「いいでしょ。あなた、紅さんを、選ばなかった。でも、家族として、これからも、一緒に、いる」
「……」
「家族として、心配する、こと、当たり前」
(みつきさん、論理的)
(家族として、心配する、というのは、確かに、自然)
(俺、紅さんに、聞いてみよう)
---
夜、紅が、リビングに、降りてきた。
悠真が、紅の、向かいに、座った。
「紅さん、ちょっと、いいですか」
「うん」
「最近、神代さんと、よく、連絡してる、と、聞きました」
紅が、目を、丸くした。
「……みつきちゃん経由?」
「みつきさん経由、です」
「ふふ」
紅が、笑った。
悠真は、緊張した。
(笑った、ということは、何か、ある)
(嫌な、予感)
「悠真くん」
「はい」
「あなた、心配してる?」
「……心配、というか、気になっています」
「気になる、というのは」
「……紅さんと、神代さんの、関係」
紅が、ふっと、笑った。
「あなた、選ばなかったくせに、気になるの?」
「すみません」
「謝らないで」
「はい」
「ふふ」
紅が、お茶を、飲んだ。
「悠真くん、答え、あげる」
「お願いします」
「神代と、私、付き合ってない」
(…………)
(よかった)
(あ、よかった、と、思った)
(紅さん、選ばなかったのに、よかった、と、思った)
(俺、本当に、卑怯)
「……ありがとうございます」
「ただし」
「はい」
「神代と、最近、よく、連絡してる、のは、本当」
「……」
「内容、教えてあげる?」
「お願いします」
紅が、しばらく、考えた。
「神代、最近、自分の、離婚歴を、整理してる」
「整理?」
「うん。心の整理。三年前に、離婚して、ずっと、引きずってた、こと」
「……」
「私、神代の、相談、聞いてあげてる」
「相談、ですか」
「うん。九尾の、長い時間、感覚で、神代の、心の傷を、見てあげてる」
(紅さんが、神代さんの、心の傷を、ケアしている)
(百年生きた、九尾の、視点で)
(俺、思っていたのと、違う)
(恋愛じゃ、ない)
(神代さんへの、ケア)
「紅さん、神代さんに、興味、ありますか」
紅が、しばらく、考えた。
「……興味、というのは、恋愛感情?」
「はい」
「……今は、ない」
「今は?」
「うん。今は、ない。でも、これから、どうなるか、分からない」
「……」
「神代、いい人。離婚歴、あるけど、誠実」
「……」
「もし、神代が、私を、好き、と言ってきたら、考える、かもしれない」
(紅さん、可能性は、否定していない)
(嫌な、ような、応援したい、ような)
(複雑)
「悠真くん、複雑な、顔、してる」
「……」
「正直に、言って」
「……紅さんが、誰かを、好きになる、こと、想像していなかった」
「ふふ」
「俺、選ばなかったのに、紅さんに、別の人を、好きになってほしくない、と、思っているかもしれない」
「卑怯ね」
「卑怯です」
「……でも、人間、そういうもの」
「……」
紅が、お茶を、飲んだ。
「悠真くん」
「はい」
「私、あなたを、好きで、いる、覚悟、続けてる」
「……」
「神代、相談相手、というだけ。今は」
「……」
「ただ、人間の、感情、変わるもの」
「……」
「もし、いつか、私が、神代を、好きに、なったら——」
「……」
「あなた、応援してくれる?」
(直球で、聞いてきた)
(紅さん、覚悟を、決めて、聞いてきた)
悠真が、しばらく、考えた。
(紅さんを、選ばなかった、俺)
(紅さんが、別の人を、好きになる、可能性)
(応援する、のが、大人の、対応)
(嘘は、つかない)
(嘘は、つかない、俺)
「……紅さん」
「うん」
「正直に、言うと、複雑な、気持ちです」
「うん」
「でも、応援します」
「ほんと?」
「ほんとに」
「……無理してない?」
「半分、無理しています」
紅が、ふっと、笑った。
「正直ね」
「すみません」
「謝らないで」
「はい」
(紅さん、納得してくれた、と思う)
「悠真くん」
「はい」
「私、あなたが、応援してくれる、と知って、安心した」
「……」
「百年、生きてきて、恋愛、何度も、してきた。でも、最近の、恋愛は、あなたが、初めて」
(紅さん、最近の、恋愛、俺が、初めて、と言った)
(百年生きた、九尾が)
(重い)
「……紅さん」
「うん」
「俺、紅さんが、幸せに、なれば、嬉しい」
「ふふ」
「相手が、誰でも」
「ふふ、いい男」
紅が、笑った。
(紅さん、嬉しそう)
(俺、複雑な、気持ち、だが、応援する、こと、決めた)
(卑怯な、選択を、した、責任、引き受ける)
---
深夜、悠真は、ログを、書いた。
*【自分のログ:三十二日目】*
*感情:複雑、応援、戸惑い、安心*
*複雑:紅さんが、神代さんを、好きに、なる、可能性*
*応援:紅さんが、幸せに、なれば、嬉しい*
*戸惑い:俺、選ばなかったのに、紅さんを、独占したい気持ち、まだ、ある*
*安心:紅さんが、神代さんと、付き合ってない、こと、今は*
(ログ、書き終わった)
(複雑な、感情)
(でも、ちゃんと、認識できる)
(言葉に、できる)
そのとき、ノックの音が、した。
「どうぞ」
みつきが、入ってきた。
「悠真くん、紅さんと、話した?」
「話しました」
「結果、教えて」
「みつきさん、報告、要りますか」
「相談役だから」
「みつきさん、情報屋でも、ありますよね」
「両方」
(情報屋と、相談役の、二刀流)
(百鬼荘の、便利な、人)
悠真が、紅さんとの、会話を、共有した。
みつきが、しばらく、聞いていた。
「……悠真くん」
「はい」
「あなた、紅さんに、応援する、って、言ったの?」
「言いました」
「すごい」
「すごく、ない、です」
「すごい。普通、選ばなかった、相手が、別の人と、付き合うかも、って、聞いて、応援する、なんて、できない」
「……」
「あなた、本当に、卑怯で、誠実」
「……」
「卑怯と、誠実、両立してる」
(みつきさん、また、深いこと、言う)
(情報屋、なのに、深い)
「みつきさん、ありがとうございます」
「お礼、いらない」
「みつきさん、月曜の、こと、まだ、考えてます」
「うん」
「行動、見せる、ヒント、ありがとうございました」
「うん」
みつきが、立ち上がった。
「悠真くん、明日、白音さんの日?」
「金曜日、ですね」
「白音さん、楽しみにしてる、と、思う」
「ですか」
「うん。あの人、傍観者、と言いながら、自分の日を、楽しみにしてる」
(白音さんの、本音)
(傍観者、と言いながら、ちゃんと、自分の日を、待っている)
(白音さんも、好意は、ある)
「みつきさん、覗き、ありがとうございました」
「ふふ」
みつきが、出ていった。
---
岬悠真、百鬼荘生活、三十二日目。
みつきの日。みつきが、覗きで、紅さんと、神代さんの、情報を、持ってきた。紅さんと、話した。紅さんが、神代さんに、興味を、持つ、可能性が、ある、と、知った。応援する、と、約束した。
それ以外は——
複雑な、一日。
でも、紅さんと、ちゃんと、向き合えた。
(曜日制、効いてる)
(みつきさんの、情報屋、便利)
(俺、家族として、紅さんを、応援する)
---
*【第33話「白音が、自分の日を、楽しみにしている件」に続く】*
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