第27話「フリーランスのエンジニアの、戦い方の件」

翌朝、神代が、来た。


悠真が、リビングで、待っていた。


全員が、揃っていた。澪、紅、ましろ、みつき、白音、管理人。悠斗は、学校に、行っていた。安全のためにも、戦いの話には、巻き込まない方がいい。


神代が、大きな、ファイルを、持って、入ってきた。


「岬さん、お時間、いただきます」


「お願いします」


神代が、ファイルを、テーブルに、置いた。


「……朱雀政親、と、強硬派エージェントチームの、情報です」


「ありがとうございます」


悠真が、ファイルを、開いた。


(情報量、多い)


(神代さん、相当、頑張ってくれた)


(個人的に、リスクを、取って、集めてくれた、情報)


「神代さん、これ、上層部に、知られて、大丈夫ですか」


「……知られたら、私の、首が、飛びます」


「……」


「だから、慎重に、扱ってください」


「もちろんです」


(神代さん、本気で、自分のキャリアを、賭けてくれている)


(俺、応えないと、いけない)


悠真が、ファイルを、読み始めた。


---


*【朱雀政親 詳細情報】*


*年齢:58歳*


*家系:朱雀家、現当主*


*能力:式神操作(高度)、結界術(最高位)、近接戦闘(達人級)*


*過去の戦績:妖怪相手の戦闘、勝率97%。敗北は、いずれも、撤退戦の、引き分け扱い*


*性格:合理的、冷酷、感情に、流されない*


*弱点:明確な、肉体的、能力的、弱点は、なし*


*補足:家族構成、妻と娘、二人。娘は、現在、行方不明*


(弱点、なし)


(しかし、補足、気になる)


(娘が、行方不明)


悠真が、神代に、聞いた。


「神代さん、この娘さん、いつから、行方不明ですか」


「……五年前」


「五年」


「結婚反対を、押し切って、家出。それ以来、消息、不明」


「結婚相手は」


「……当時、若い、男性、と、しか、情報、ありません」


「……」


「捜索は、続いていますが、見つかっていません」


(娘が、行方不明)


(朱雀政親、それを、五年、抱えている)


(弱点、なし、と、書いてあるが、これ、感情的な、弱点では)


紅が、ファイルを、覗き込んだ。


「これ、面白い情報ね」


「ですよね」


「悠真くん、何か、思いついた?」


「……まだ、思いついてないですが、引っかかってます」


「考え続けて」


「はい」


---


白音が、口を、開いた。


「神代さん、強硬派エージェントチームの、構成は」


「……五人」


「五人」


「朱雀政親、を、含めて、五人」


悠真が、ページを、めくった。


*【強硬派エージェントチーム】*


*1. 朱雀政親(リーダー)*


*2. 黒崎、剛(くろさき ごう):近接戦闘専門。三十代*


*3. 月森、優子(つきもり ゆうこ):式神操作専門。四十代*


*4. 烏山、健一(からすやま けんいち):結界術専門。三十代*


*5. 朱雀、明日香(すざく あすか):朱雀政親の、姪。二十代。式神と、結界の、両刀使い*


(朱雀政親の、姪が、入っている)


(家族で、攻めてくる、ということ)


紅が、ファイルを、見て、目を、細めた。


「……朱雀明日香、若いね」


「ええ」と神代。「彼女、有望な、エージェントです」


「明日香、行方不明の、娘とは、別」


「別です。明日香は、政親の、姪。行方不明の娘は、政親の、実の娘」


「ふうん」


(紅さん、何かを、考えている)


(俺も、考える)


悠真が、神代に、聞いた。


「神代さん、攻撃の、想定パターンは」


「……三つ、想定しています」


「教えてください」


「一つ目、夜間、裏口からの、奇襲」


「二つ目?」


「昼間、正面突破。圧倒的な、戦力で、押し切る」


「三つ目?」


「……長期戦。家を、包囲して、住人を、消耗させる」


「どれが、可能性、高いですか」


「……二つ目、と、思います」


「理由は」


「朱雀政親、自分の力に、自信がある。正面から、勝つことを、好む」


(圧倒的な戦力で、正面突破)


(こちらの、結界、突破される)


(住人、戦闘)


(負ける可能性、高い)


(神代さんが、敗北の、可能性、高い、と言ったのは、これか)


---


会議が、続いた。


紅が、提案した。


「結界を、強化する」


「強化、できますか」


「私と、白音で、二重結界。さらに、外側に、別の、九尾の、結界を、張る」


「効果は」


「正面突破を、遅らせる」


「遅らせる、だけ?」


「ええ。突破は、される」


(やはり、突破される)


白音が、提案した。


「住人の、避難経路を、確保する」


「逃げる?」


「いや、戦略的、退却。一度、引いて、別の場所で、再戦する」


「でも、百鬼荘を、放棄する、ことになります」


「……」


(百鬼荘、放棄)


(俺たちの、家を、放棄して、逃げる)


(嫌だ)


(でも、命を、守るためなら)


澪が、提案した。


「……私が、囮になる」


「囮?」


「……雪女の、力で、相手を、引き付ける。その間に、他の人が、戦う」


「それは——」


「私は、危険指定されてる。どうせ、戦う」


「澪さん、それは、危険すぎます」


「……」


(澪さん、自分を、犠牲にする、戦略)


(できれば、避けたい)


ましろが、提案した。


「ましろの、運コントロール、最大で、出す」


「最大?」


「相手の、運を、最大に、悪くする。相手が、判断ミスを、する」


「効果は」


「五分くらい、保つ、と思う」


「五分」


(ましろさんの、運コントロール、五分)


(短い)


(でも、決定的な、五分に、なる)


みつきが、提案した。


「あたしは、首、伸ばして、戦闘範囲、外から、情報、流す」


「司令塔役、ですね」


「うん」


「ありがたいです」


(みつきさんが、情報担当)


(戦闘力、ない、けど、情報担当として、活躍)


(俺と、似てる)


管理人が、扇子を、開いた。


「……俺は、朱雀政親と、対峙する」


「管理人さん、互角ですよね」


「ああ」


「勝てますか」


「……五分五分、と、いったところだ」


(管理人さんと、朱雀政親、五分五分)


(決め手が、ない)


(運次第)


(ましろさんの、運コントロール、ここで、効くか)


---


悠真が、しばらく、考えた。


全員の、提案を、整理した。


(紅、白音:結界強化)


(澪:囮)


(ましろ:運コントロール)


(みつき:情報担当)


(管理人:朱雀政親と対峙)


(俺:……)


(俺、何が、できる)


(守られて、いるだけ、では、ダメ)


(フリーランスエンジニアの、戦い方)


(情報、分析、戦略)


(戦略は、立てた)


(実行は、住人に、任せる)


(俺、何か、もう一段、できないか)


悠真が、ファイルを、また、見た。


(朱雀政親の、補足情報)


(娘が、五年前、行方不明)


(結婚反対を、押し切って、家出)


(結婚相手は、若い男性)


(…………)


悠真が、ふと、紅を、見た。


紅が、少し、目を、見開いた。


「……悠真くん、何か、考えた?」


「……一つ、可能性が」


「教えて」


悠真が、ファイルの、補足情報を、指した。


「朱雀政親の、娘」


「うん」


「五年前、行方不明」


「うん」


「結婚反対を、押し切って、家出」


「うん」


「結婚相手は、若い男性」


「うん」


「もし、その男性が——」


悠真が、深呼吸した。


「……人間じゃ、なかったら?」


(…………)


(沈黙が、降りた)


紅が、目を、見開いた。


「……もしかして、半妖と」


「可能性です」


「半妖、と結婚しようとして、家出」


「結婚反対を、押し切って、家出。普通に考えれば、相手の身分とか、家柄、が、原因」


「でも、それなら、今でも、捜索が、続く理由が、薄い」


「五年経っても、捜索が、続いている」


「……朱雀政親、娘を、心配している」


「……」


悠真が、神代を、見た。


「神代さん、これ、確認できますか」


「……ハードルが、高い」


「でも、確認できれば」


「……可能性は、ある。陰陽庁の、内部情報」


「お願いします」


「……今夜中に、確認します」


(朱雀政親の、娘が、半妖と、結婚しようとして、家出)


(だとしたら、朱雀政親の、強硬な、姿勢の、裏に、あるのは——)


(娘を、半妖に、奪われた、と、思っている、こと)


(だから、半妖を、許せない)


(妖怪を、敵視している)


(彼の、強硬さは、家族の、悲しみから、来ている)


(弱点、ではないが、感情の、弱点)


---


紅が、悠真を、見て、ふっと、笑った。


「悠真くん、あなた、本当に、面白い、頭、してる」


「フリーランスは、情報の、関連性を、見つけるのが、仕事です」


「ふふ」


白音が、感嘆した。


「悠真くん、私、見抜けなかった」


「白音さんが、ファイルを、見て、見抜けなかったなら、俺の、推測、外れているかもしれません」


「いえ、当たってる、可能性、高い」


「ですか」


「うん」


(白音さんも、当たっていると、思っている)


(情報屋の、勘)


悠真が、続けた。


「もし、当たっていれば、戦略が、変わります」


「どう?」


「朱雀政親、説得、できる、可能性が、ある」


「説得?」


「彼の、強硬さの、根本原因が、娘さんの、家出、だとしたら、その娘さんの、現在の、状況を、突き付ければ——」


「……」


「彼の、感情を、揺らせる」


紅が、しばらく、考えた。


「……でも、娘さん、行方不明なのよ」


「だから、神代さんに、確認してもらいます。陰陽庁の、内部情報で」


「もし、本当に、行方不明、なら」


「捜してもらいます」


(捜してもらう)


(陰陽庁の、機能を、使って)


「神代さん、可能ですか」


神代が、しばらく、考えた。


「……難しい」


「難しい?」


「朱雀政親本人が、長年、捜してきたが、見つかっていない。私が、簡単に、見つけられる、わけが、ない」


「……」


「ただ」


「ただ?」


「私には、別の、ルートが、あります」


「ルート?」


「半妖の、コミュニティに、独自の、人脈が、あります。彼らに、聞けば、何か、分かるかも、しれません」


(半妖の、コミュニティ)


(神代さん、半妖の、コミュニティと、繋がっている)


(穏健派として、活動してきた、結果)


「お願いします」


「……今夜から、動きます」


(神代さんが、また、自分の、ネットワークを、使ってくれる)


(俺たちのために)


(感謝しかない)


---


会議が、終わった。


神代が、帰った。


悠真が、紅と、二人で、リビングに、残った。


紅が、お茶を、淹れた。


「悠真くん」


「はい」


「あなた、戦い方、見つけたわね」


「……まだ、可能性です」


「でも、可能性、見つけたのが、すごい」


「……」


「私、ずっと、戦いというのは、力で、解決するもの、と、思っていた」


「……」


「あなたを、見て、思った。戦いは、力じゃ、ない」


「俺は、力が、ないので、こうしているだけです」


「ふふ、それが、強さ」


紅が、しばらく、湯気を、見ていた。


「悠真くん」


「はい」


「私、約束する」


「何を、ですか」


「戦いで、絶対に、死なない」


「……」


「あなたが、戦略を、立ててくれた。私が、それを、ぶち壊すような、死に方は、しない」


「ありがとうございます」


「……」


紅が、悠真を、見た。


「……だから、あなたも、約束、して」


「何を」


「あなたも、絶対に、死なない」


「俺は、戦いません」


「戦わなくても、何が、起こるか、分からない」


「……」


「約束、して」


「……約束します」


「ふふ、ありがと」


紅が、お茶を、飲んだ。


(紅さん、戦いの前に、お互いに、生きる、約束を、する)


(重い、約束)


(必ず、守る)


---


夜、神代から、電話が、あった。


「岬さん、半妖のコミュニティから、情報が、入りました」


「早いですね」


「……当たりです」


「当たり?」


「朱雀政親の、娘、朱雀、葵(あおい)。五年前、半妖の、男性と、駆け落ち。現在、東京近郊で、半妖の、子どもと、一緒に、暮らしています」


(…………)


(当たった)


(推測、当たった)


「子ども、半妖、ですか」


「ええ。三歳の、女の子」


(……)


(朱雀政親、知らないところで、半妖の、孫が、いる)


「神代さん、これ、朱雀政親に、伝えられますか」


「伝えられます。ただ、伝え方が、難しい」


「難しい?」


「彼が、過剰に、反応する、可能性が、ある。怒って、半妖の、コミュニティを、襲う、可能性も」


「最悪、ですね」


「ええ」


「では、慎重に」


「ええ」


(タイミングを、考える、必要がある)


(朱雀政親が、攻撃に、来た、瞬間に、伝える)


(彼が、家族を、攻撃する側で、ありながら、自分の、家族が、半妖、ということを、突き付ける)


(衝撃で、戦意を、削ぐ)


「神代さん、攻撃の、当日、伝えるのは、可能ですか」


「……可能です」


「お願いします」


「了解」


(戦略、固まった)


(情報を、決定的なタイミングで、提示する)


(フリーランスエンジニアの、戦い方)


---


深夜、悠真は、住人全員に、戦略を、共有した。


「攻撃当日、神代さんが、朱雀政親に、娘さんと、半妖の、孫の、情報を、提示します」


紅が、感嘆した。


「天才ね、悠真くん」


「天才じゃ、ないです。情報を、繋げただけ」


「それが、天才」


白音も、笑った。


「悠真くん、また、レベル上がった」


「白音さんに、教わった、応用です」


「教えてないって……」


(白音さんの、口癖)


澪が、悠真を、見ていた。


「……悠真」


「はい」


「……すごい」


「澪さんも、そう思いますか」


「……うん」


(澪さん、嬉しそう)


ましろが、悠真の、隣に、座った。


「ましろも、すごいと思う!」


「ありがとうございます」


「えへへ」


みつきが、首を、振った。


「悠真くん、戦闘力、ないの、嘘でしょ」


「ないですよ。情報担当です」


「情報担当の、戦力、めちゃ、高い」


(みつきさんが、情報担当を、認めた)


(同じ、情報担当として、認識してくれた)


管理人が、扇子を、開いた。


「……岬悠真」


「はい」


「……お前を、選んで、正解だった、と、改めて、思う」


「ありがとうございます」


「うむ」


(管理人さんが、また、評価してくれた)


(百鬼荘の、家主、っぽくなった、と、紅さんに、言われたが)


(少し、自信を、持っていい、のかもしれない)


---


深夜、悠真は、部屋で、戦略を、再確認していた。


*【戦略】*


*1. 攻撃当日、朱雀政親が、来る*


*2. 紅、白音が、二重結界を、張る*


*3. 澪が、囮として、強硬派エージェントを、引き付ける*


*4. ましろが、運コントロールを、最大で、発動*


*5. 管理人が、朱雀政親と、対峙*


*6. みつきが、情報を、流し続ける*


*7. 神代が、朱雀政親の、家族の、情報を、決定的なタイミングで、提示*


*8. 悠真は、家の中心で、アンカーとして、安定を、提供*


(戦略、固まった)


(あとは、実行)


(朱雀政親が、来るのを、待つ)


廊下に、冷気が、来た。


澪だ。


「……澪さん」


「……うん」


「今日のログ、いきますか」


「……感心、覚悟、決意、それと——」


「それと?」


「……愛情」


(…………)


(澪さん、愛情、と、口にした)


(直接的に)


「……愛情、ですか」


「……うん。悠真への、愛情」


「……」


「戦略を、立ててくれた、こと。私を、囮にしないように、考えてくれた、こと。私を、危険指定の再発から、守ろうとしてくれている、こと」


「……」


「全部、愛情に、感じる」


(澪さん、感情ログで、愛情、と、言葉にできるようになった)


(半年待つ、と言っていた、雪女の、進歩)


(嬉しい)


「……澪さん、俺も、愛情を、感じています」


「……」


「澪さんが、戦う、と、言ってくれたこと。俺を、守る、と、決意してくれたこと」


「……」


「全部、愛情です」


「……」


澪が、しばらく、沈黙した。


「……悠真」


「はい」


「……戦いが、終わったら」


「終わったら?」


「……ちゃんと、答え、聞きたい」


(…………)


(澪さん、答えを、求めてきた)


(半年経つ前に)


「……分かりました」


「……必ず?」


「必ず、答えます」


「……約束?」


「約束します」


「……おやすみ」


「おやすみなさい」


(澪さん、戦いの後、答えを、求める)


(俺、答えを、出さないと、いけない)


(ようやく、答えを、出せる、覚悟が、ついてきた)


(戦いが、終わったら)


(戦いが、終わって、生き残ったら)


(俺、誰を、選ぶか、答える)


(白音さんに、教わった"覚悟"を、ここで、発動する)


---


岬悠真、百鬼荘生活、二十七日目。


神代から、強硬派エージェントの、情報を、もらった。朱雀政親の、娘が、半妖と、駆け落ちしている、可能性に、気づいた。神代が、確認してくれた。当たった。攻撃当日、その情報を、決定的なタイミングで、提示する戦略を、立てた。澪が、戦いの後、答えを、求めてきた。


それ以外は——


戦略、固まった。


あとは、戦いを、待つ。


そして、戦いが、終わったら、答えを、出す。


(フリーランスエンジニアの、戦い方)


(情報、分析、戦略)


(俺の、戦場は、コードと、同じ)


---


*【第28話「朱雀政親が、来た件」に続く】*

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