第23話「神代玲司が、休日に、訪ねてきた件」

日曜日の昼下がり、玄関のチャイムが、鳴った。


悠真は、リビングで、コードを書いていた。日曜なのに仕事をしているのは、フリーランスあるあるだ。納期前は、平日も土日も、関係ない。


(誰だ、日曜に)


(保護指定の、状況報告は、月一回、月初め、と決まっている)


(今日は、月の半ば)


(スケジュールに、合わない)


悠真は、玄関を、開けた。


神代玲司が、立っていた。


(……神代さん?)


(しかも、私服?)


(黒スーツ、じゃない)


(白いシャツに、ジーンズ)


(私服の神代、初めて見た)


「……神代さん」


「岬さん、すみません、突然」


「お仕事ですか」


「いえ、休日です」


「……」


「個人的な、用事で、来ました」


(個人的な、用事)


(神代さんが、個人的な、用事で、来た)


(これは、警戒すべき、なのか、歓迎すべき、なのか)


「……どうぞ、入ってください」


「失礼します」


悠真は、神代を、リビングに通した。


紅が、二階から、降りてきた。神代の私服姿を見て、少し、目を、見開いた。


「……あら、神代玲司、今日は、私服ね」


「九条さん、お久しぶりです」


「先週、来てたじゃない」


「あれは、業務でした」


「で、今日は」


「……個人的な、用事です」


紅が、しばらく、神代を、見ていた。


「……ふうん」


「お茶、淹れます」


「お願いします」


紅が、キッチンに、向かった。


(紅さん、何か、察したらしい)


(何を、察したのかは、分からないが)


---


お茶を、出したのは、白音だった。


白音が、湯呑みを、置きながら、にっこり、笑った。


「神代さん、いらっしゃい」


「白音さん、こんにちは」


「白蛇のことで、何か?」


「いえ、白蛇さんとは、無関係です」


「では?」


白音が、神代の、向かいに、座った。


紅も、座った。


(白音さん、紅さんが、座って、神代さんを、囲んだ形になった)


(神代さん、ちょっと、緊張してる気がする)


(陰陽庁の人間が、九尾と白蛇に、囲まれているのを、上層部が見たら、卒倒する光景だ)


神代が、湯呑みを、両手で、持った。


しばらく、沈黙が、続いた。


「……岬さん」


「はい」


「先日、私が、上層部の説得に成功した、と、伝えましたね」


「はい」


「……あの説得には、ある手段を、使いました」


「ある手段?」


「私自身の、立場を、賭けました」


(……)


「立場、というのは」


「祓魔班、エージェントとしての、地位です」


「賭けた、ということは」


「もし、保護指定後、百鬼荘で、何か問題が起きた場合、私が、責任を、負う」


(…………)


(神代さん、自分の、地位を、賭けた)


(俺たちのために)


「……それは、神代さんに、負担が、大きすぎませんか」


「自分で、決めたことです」


「でも、もし、何か、起きたら——」


「私が、降格されます。それだけです」


「……それだけ、では、ないと、思いますが」


神代が、湯呑みを、見ていた。


「……正直に言うと、私は、陰陽庁の中で、孤立しています」


(孤立)


(神代さんが、孤立)


「先日の、保護指定の、申請。あれを、進めた時点で、強硬派には、敵視されました。穏健派の中でも、私の、過剰な、肩入れに、距離を置く、人間が、増えています」


「……」


「私が、味方と思える、組織内の人間は、もう、ほとんど、いません」


「神代さん——」


「だから、休日に、ここに、来ました」


(……)


(神代さんが、休日に、ここに、来た理由)


(陰陽庁の、中に、味方が、いない、から)


(俺たちのところに、来た)


白音が、しばらく、神代を、見ていた。


「……神代さん」


「はい」


「あなたは、ここを、味方の場所、と、思って、来てくれたんですか」


「……はい」


「その判断、正しいですよ」


白音が、ふっと、笑った。


紅も、頷いた。


「神代玲司、あなた、面白い人ね」


「……どういう意味ですか」


「陰陽庁のエージェントが、九尾と白蛇のいる家に、休日に、来る。普通じゃ、ない」


「……承知しています」


「でも、悪い意味じゃ、ない」


「……」


「歓迎する、ってこと」


(紅さんが、歓迎している)


(白音さんも、歓迎している)


(神代さん、戸惑っている)


(でも、戸惑いながらも、来てくれた)


---


神代が、お茶を、一口、飲んだ。


「……岬さん」


「はい」


「実は、相談があって、来ました」


「相談?」


「強硬派の動きが、また、あります」


(……)


(休日に、相談に、来た)


(公式の連絡経路を、使わずに)


(つまり、上層部に、知られたくない、相談)


「強硬派の動き、というのは」


「保護指定の、撤回を、目論んでいます」


「撤回?」


「先日、過半数で、決まった件です。それを、覆そうとしている」


「過半数で決まったものを、覆せるんですか」


「審議会の、再開催を、要求できる。一部の、強硬派が、それを、画策しています」


「具体的には」


「百鬼荘で、何らかの、問題を、起こさせる。その上で、再開催を、要求する」


(…………)


(罠を、仕掛ける、ということか)


「神代さん、それは、つまり——」


「百鬼荘に、誘導された、トラブルが、発生する可能性が、高い、ということです」


「具体的には?」


「分かりません。ただ、強硬派が、何らかの、駒を、用意している、と、聞いています」


「駒、というのは」


「妖怪、もしくは、人間」


(妖怪、または、人間)


(百鬼荘に、トラブルを、起こす、駒)


(嫌な、話だ)


「……神代さん、どうすれば、いいですか」


「警戒、してください。来訪者、外部からの、接触、不審な動き。何かあれば、すぐに、私に、連絡してください」


「……公式の、連絡経路で?」


「……いえ、私の、個人の、連絡先で」


神代が、メモを、出した。


電話番号と、メールアドレス。


「……これ、神代さんの、私用ですか」


「はい」


「いいんですか?」


「私の、判断です」


(神代さんが、私用の連絡先を、渡した)


(陰陽庁の、規則に、反するんじゃ、ないか)


(でも、神代さんは、そう、判断した)


「……ありがとうございます」


「お礼を言われる、立場じゃ、ありません」


「お礼を、言わせてください」


神代が、少し、目を伏せた。


「……岬さん」


「はい」


「私、変わりましたね、最近」


「……自覚、ありますか」


「あります。前の私なら、ここに、休日に、来ることは、絶対に、なかった」


「……」


「あなたと、出会ってから、私の、信念が、揺れました。揺れて、揺れた結果、今は、こうしています」


(神代さん、本当に、変わった)


(最初に会ったときの、感情のない目とは、別人だ)


(陰陽庁の、官僚から、信念で動く、人間に、変わった)


「神代さん」


「はい」


「俺、神代さんを、信頼しています」


「……ありがとうございます」


「だから、神代さんが、自分の判断で、来てくれたなら、いつでも、来てください」


「……いいんですか」


「いいです」


紅が、横で、ニコニコ、していた。


「神代玲司、あなた、もう、家族みたいなものよ」


「……家族、ですか」


「ふふ、嫌ね、その反応」


「……すみません」


「冗談よ、ある程度」


(紅さん、神代さんを、面白がってる)


(いつも、誰かを、面白がっているが)


(今日は、神代さんが、ターゲットらしい)


---


そのとき、ましろが、リビングに、入ってきた。


「おにいさん、誰来てる——」


ましろが、神代を、見た。


そして、固まった。


(あ、まずい)


(ましろさん、神代さんに、会うのは、初めてかもしれない)


(陰陽庁の人間に対する、座敷童の、本能)


(怖がるか、警戒するか)


でも、ましろの、反応は、違った。


「……知らない人」


「ましろさん、神代さんです。陰陽庁の、人ですが、味方です」


「……」


ましろが、神代を、観察した。


しばらく、見ていた。


そして、にこっと、笑った。


「……いい人だね」


「え?」


「ましろ、分かる」


(座敷童の、本能で、判断したらしい)


(味方かどうか)


(神代さんが、ましろさんに、認められた)


神代が、少し、驚いていた。


「……私、座敷童に、認められたことが、ない、ですが」


「ましろさんは、特殊な座敷童です」


「……そうですね」


ましろが、神代の、隣に、座った。


「神代さん」


「はい」


「ましろのこと、護ってくれる?」


「……できる範囲で」


「ありがとう」


「……」


(ましろさん、いつもより、大人びてる)


(神代さんに対する、対応が、子どもじゃ、ない)


(座敷童として、長年生きてきた、面が、出ている)


神代が、少し、肩の力を、抜いた。


「……ましろさん」


「うん」


「私は、座敷童を、見ると、本能的に、警戒する、訓練を、受けています。でも、あなたを、見ても、警戒心が、湧きません」


「ましろが、特別だから?」


「いえ、ましろさんが、警戒する必要のない、座敷童だから」


「……えへへ」


(座敷童の幸運付与、神代さんに、効くのか?)


(効いたら、効率よさそうだ)


(陰陽庁に、座敷童の幸運付与を、受けたエージェントが、いる)


(パワー、バランスが、変わるな)


---


夕方、神代は、夕食まで、いた。


澪が、料理を、作った。


澪が、神代に、お皿を、渡しながら、しばらく、神代を、見ていた。


「……神代玲司」


「はい」


「……前に、私を、危険指定から、守ってくれた」


「……はい」


「……ありがとう」


澪が、頭を、下げた。


(澪さんが、頭を下げた)


(雪女が、人間に、頭を下げた)


(しかも、陰陽庁の人間に)


(重要な、瞬間だ)


神代が、しばらく、固まっていた。


「……氷室さん、頭を、下げないでください」


「……何故」


「私は、当たり前のことを、しただけです」


「……当たり前のことが、できる人は、少ない」


澪が、頭を上げた。


「……ありがとう」


「……こちらこそ」


(澪さん、神代さんに、感謝を、伝えた)


(最初は、神代さんを、警戒していたのに)


(みんな、変わってきている)


---


夕食は、賑やかだった。


全員が、揃った。澪、紅、ましろ、みつき、白音、管理人、神代、悠真。


みつきが、神代を、見ながら、嬉しそうに、していた。


「神代さん、来てくれて、嬉しい」


「……ありがとうございます」


「あたしも、神代さんを、ちゃんと、知れたから、嬉しい」


「……」


「最初は、怖い人、と、思ってた」


「失礼じゃないですか?」


「ごめんごめん」


(みつきさん、復活してから、ちゃんと、聞きに、行くスタイル)


(神代さんに、ちゃんと、話しかけている)


紅が、神代に、お酒を、勧めた。


「神代玲司、飲める?」


「……今日は、車で、来ていないので、頂けます」


「あら、いい返事」


紅が、お酒を、注いだ。


神代が、一口、飲んだ。


「……おいしい」


「日本酒、好き?」


「家では、あまり、飲みません」


「ふうん」


紅が、にやっと、笑った。


「悠真くん、神代玲司、お酒に、弱いタイプかも」


「……まだ、一口ですよ」


「目を、見れば、分かる」


(紅さん、人間観察、上手すぎる)


(神代さん、これ、後で、絶対、酔う)


白音が、神代の隣で、ふっと、笑った。


「神代さん、ゆっくり、楽しんでください」


「……はい」


(白音さんが、神代さんを、優しく、案内している)


(教育者ポジ、健在)


管理人が、扇子を、開きながら、神代を、見ていた。


「……お前、悪くない」


「は?」


「俺の評価だ」


「……ありがとうございます?」


「うむ」


(管理人さんが、神代さんを、評価した)


(管理人さんが、人を、評価するのは、珍しい)


(神代さん、住人全員に、認められた、感じ)


---


食後、神代は、案の定、酔っていた。


お酒に弱い、というのは、紅さんの観察の、通りだった。


悠真と、二人で、縁側に、出た。


夜の、空気が、冷たかった。


「神代さん、大丈夫ですか」


「……大丈夫」


(大丈夫じゃない人の、答え方)


「……岬さん」


「はい」


「私、こんな、楽しい、夕食、何年も、なかった」


(…………)


「……ですか」


「妻と、別れてから」


(…………)


(妻と、別れた)


(神代さん、結婚していたのか)


(聞いたら、まずい話、かも)


(でも、神代さん、自分から、話している)


「……結婚、されていたんですか」


「……三年前まで」


「……」


「妖怪管理の仕事に、のめり込んで、家庭を、顧みなかった結果です」


「……」


「妻からは、"あなた、人間より、妖怪のほうが、好きでしょう"と、言われました」


「……」


「否定できなかった」


(神代さん、自分のことを、淡々と、話している)


(酔って、口が、軽くなっている)


(でも、嘘では、ない、と思う)


「……それで、別れた」


「はい」


「……」


「だから、家族、と、紅さんに、言われたとき、少し、嬉しかった」


(紅さんの、冗談を、本気で、受け止めている)


(神代さん、孤独だ)


(陰陽庁では、孤立。家族とは、別れている。彼を、家族扱いする、人が、いない)


「神代さん」


「はい」


「これからも、休日に、来てください」


「……いいんですか」


「いいです」


「……お邪魔じゃ、ないですか」


「邪魔じゃ、ないです。ましろさんも、認めましたし、紅さんも、お酒、注いでくれました」


「……」


「ここを、味方の場所、と思っていいです」


神代が、しばらく、夜空を、見ていた。


「……ありがとうございます」


「いえ」


「岬さん」


「はい」


「私、変な質問をしますが」


「どうぞ」


「岬さんは、なぜ、ここにいるんですか」


(……)


「家賃が、二万円、だったから、ですよ」


「……それだけ?」


「最初は、それだけ、でした。でも、住んでいるうちに、ここが、自分の、居場所に、なりました」


「……居場所」


「はい」


神代が、しばらく、考えていた。


「私も、居場所が、欲しい」


「……」


「妻と、別れてから、家に、帰っても、一人。職場では、孤立。どこにも、居場所が、ない」


「……神代さん」


「はい」


「ここを、居場所と、思って、いいですよ」


(言ってしまった)


(陰陽庁の、エージェントに、ここを、居場所と思っていい、と言った)


(後悔は、ない)


(神代さん、本当に、孤独そうだから)


神代が、しばらく、悠真を、見ていた。


そして、ふっと、笑った。


(神代さんが、笑った)


(初めて、見た)


「……岬さん」


「はい」


「……あなた、本当に、変な人ですね」


「みんなにそう言われます」


「悪い意味じゃ、ないです」


「ありがとうございます」


(俺の、口癖と、神代さんの、口癖が、合体した)


---


神代は、その夜、百鬼荘に、泊まることになった。


車で、来ていなかった。お酒を、飲んでいた。終電に、間に合わない時間に、なっていた。


「使ってない、客間、空いてる」と管理人が、言った。


「……ご迷惑では」


「迷惑でなければ、勧めない」


「……ありがとうございます」


(管理人さん、神代さんに、優しい)


(厳しいが、優しい)


(百鬼荘の、住人らしい)


神代が、客間に、案内された。


寝る前に、神代が、悠真に、言った。


「岬さん」


「はい」


「明日、朝、起きたら、私、何を、話したか、忘れている、可能性が、あります」


「……酔って、ですか」


「酔って、です」


「忘れて、いいですか」


「……いいですよ」


「妻のこととか、孤独のこととか、そういう話、忘れていいですか」


(神代さん、酔って、話したことを、忘れたい)


(プライドの問題か)


(覚えていられると、気まずい、と思っている)


「忘れます」


「……ありがとうございます」


「でも、神代さんが、ここを、居場所と、思っていい、ということは、忘れないでください」


「……それは、覚えておきます」


「お願いします」


神代が、客間の、ふすまを、閉めた。


(神代さん、明日、覚えていなくてもいい)


(でも、ここに、居場所がある、ということは、忘れない)


(それで、十分)


---


深夜、悠真は、部屋で、紅と、話した。


紅が、お茶を、持って、入ってきた。


「神代玲司、酔ってたわね」


「弱かったですね」


「あの人、抑えてた感情、爆発してた」


「気づいてました?」


「私、観察、得意」


「ですね」


紅が、椅子に、座った。


「悠真くん」


「はい」


「あの人を、家族みたいに、扱ったのは、いい判断」


「紅さんが、家族と言ってくれたので」


「私の、冗談を、ちゃんと、本気にしてくれたから」


「……」


「神代玲司、これから、何回も、来ると思う」


「……ですね」


「いい、ことよ。陰陽庁の人間が、私たちと、家族みたいに、なる、というのは」


「……はい」


「保険にも、なるし」


「保険?」


「強硬派が、何かしてきたとき、神代を、内側から、動かせる」


(紅さん、戦略家)


(神代さんを、味方に、引き込んでいる、ことを、戦略的にも、評価している)


(でも、それだけじゃ、ないと、思う)


(紅さん、神代さんのことも、人として、気にかけている)


「紅さんは、計算もしますが、人として、神代さんを、見ていますよね」


「ふふ、見抜かれてる」


「すみません」


「謝らないで、悪くないわよ」


(紅さん、人として、神代さんを、見ている)


(百年生きた九尾の、優しさ)


(俺、紅さんのこと、好きだな)


(思ってしまった)


(口には、出さない)


---


翌朝、神代は、ちゃんと、起きてきた。


朝食を、住人と、一緒に、食べた。


悠真と、目が、合った。


神代が、少し、視線を、逸らした。


(覚えてる)


(神代さん、ちゃんと、覚えてる)


(覚えていて、恥ずかしがっている)


「岬さん」


「はい」


「昨夜は、ご迷惑、おかけしました」


「迷惑では、ないです」


「……ありがとうございます」


「神代さん」


「はい」


「居場所と、思っていい、ことは、覚えていますか」


神代が、少し、目を、伏せた。


「……覚えています」


「では、いいんです」


(神代さん、ちゃんと、覚えていてくれた)


(あと、悠真と、神代さんの、関係に、新しい、章が、始まった)


(同盟者から、友人、近い、関係に)


神代が、朝食を、食べ終わって、立ち上がった。


「では、これで、失礼します」


「気をつけて、帰ってください」


「次回は、また、業務で、来ます」


「私服でも、来てください」


「……検討します」


(神代さん、検討、と、言った)


(業務外で、来る、可能性を、否定していない)


(よし)


玄関で、住人全員が、神代を、見送った。


「またねー」とましろ。


「次は、お酒、もっと、飲みなさいね」と紅。


「お元気で」と白音。


「気をつけて」と澪。


「またあそびに来てね」とみつき。


「……うむ」と管理人。


神代が、一人ずつ、頷いた。


そして、悠真を、見た。


「岬さん」


「はい」


「……ありがとうございました」


「いえ」


神代が、出ていった。


紅が、悠真の、隣で、笑った。


「神代玲司、あれ、また、来るわ」


「ですね」


「酔って、また、何か、口を、滑らせるかも」


「やめてあげてください」


「ふふ」


(紅さん、神代さんを、楽しみにしてる)


(住人全員、神代さんを、受け入れた)


(陰陽庁の、エージェントが、百鬼荘に、所属、しはじめている)


(不思議な、構造になってきた)


---


深夜、廊下に、冷気が、来た。


澪だ。


「……澪さん」


「……うん」


「今日のログ、いきますか」


「……驚き、と、安心、と、温かい気持ち」


「驚き?」


「……神代玲司が、家族みたいに、なる、ことに、驚いた」


「分かります」


「……でも、安心も、した」


「安心?」


「……味方が、増えた」


「ですね」


「……温かい気持ち?」


「……みんなで、ご飯、食べたこと」


(澪さん、ちゃんと、感情を、認識して、言葉にできている)


(でも、いつもと、違う、温度、ある気がする)


「澪さん、何か、他にも、ありますか」


「……何が」


「感情、もう少し、ある気がして」


澪が、しばらく、沈黙した。


「……寂しい」


「寂しい?」


「……今日、悠真と、二人で、話せ、なかった」


(…………)


(澪さんが、寂しい、と、言ってきた)


(神代さんが、来ていて、自分のターンが、なかった、ことを、寂しい、と感じた)


「すみません」


「……謝らないで」


「寂しい、と、感じたこと、言葉にできて、すごいです」


「……」


「明日、二人で、話す、時間、作りましょう」


「……うん」


「いいですか」


「……うん」


(澪さんが、嫉妬みたいなものを、ちゃんと、表現できる、ようになっている)


(白音さんに教わった、ログ、効いている)


(俺も、ちゃんと、応える)


「澪さん、おやすみなさい」


「……おやすみ」


足音が、遠ざかった。


(神代さんが、来た日)


(味方が、増えた日)


(澪さんが、寂しい、と言えた日)


(色々あったが、悪くない、日)


---


岬悠真、百鬼荘生活、二十三日目。


神代が、休日に、来た。陰陽庁の中で、孤立している、と聞いた。強硬派の、新しい動きを、警告された。神代が、酔って、過去を話した。神代が、客間に、泊まった。住人全員に、認められた。澪が、寂しい、と言った。


それ以外は——


味方が、増えた、一日。


最初は、敵だった人が、家族みたいになる。


不思議な、家だ、本当に。


(百鬼荘、染み込んで、くる、家)


---


*【第24話「強硬派の駒が、誰なのか、判明した件」に続く】*

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