エピローグ
いくつかのこぼれ話
※
あの日、アリスとトニーと俺とクラウスさんが去ったあと、魔王様は屋敷の残骸を眺めながら庭を歩き回っていて、操り人形のマシューさんを見つけた。マシューさんは裏庭の木の根元に転がっていた。もう修理が無理なぐらい体から綿が出ていた。
「ご苦労さん。これまで、ありがとう」
魔王様は庭歩きを再開した。さて、これからどうするか。ああ、そう言えば遠縁の親戚が、空いてる屋敷に住まないかと打診して来ていたな。あれはどこの国だったか。そんなことを考えていたら、声をかけられた。
「魔王様」
マーサさんだった。
「マーサ、どうしてここに?」
「どうなったか心配で。どうしてお屋敷がこんなことに?」
マーサさんは泣きそうな顔をしていた。
「魔法使い同士の親善試合とはこういうもの。古い屋敷だったし、崩れやすくもあったんだろう」
「でも、魔王様の住む場所が」
「大丈夫。当てはある」
「どこですか?」
「どこの国かは忘れたが、親戚の……」
「そこに、私もついて行っていいですか?」
マーサさんは、意を決したように言った。「私、魔王様のお屋敷の近くに住みます。できればパン屋で働いて、今のように、また、届けに……」
「マーサ……」
マーサさんはちょっと上を向き、目をしばたたかせた。涙を隠そうとするかのように。そして、魔王様としっかりと目を合わせた。
「魔王様。私が今日遅れたのは、友人に、隣国から来たとても素敵な男性と、とてもかわいい女の子が、村の宿に泊まっているから見に行こうと引っ張って行かれたからなんです。でも、私は魔王様の元に早く行きたくて……。なのに、急いで来てみたら、とてもきれいな男の子がいて、……驚きました。焦りました。不安になりました。私は慢心していたんです。毎日お屋敷を訪れて、中を断りなく歩いていても叱られない。届け物をしたり、持って来た花を活けたり、ときには魔王様の顔を見たくてお屋敷の中を探したりして……。そんなふうにできる自分は、魔王様の特別な位置にいるのだと。でも、そんなのは私の勝手な思い込みです。だから、私は、きちんと伝えなければと……」
「マーサ、もういい」
魔王様は、ときどき言葉をつかえさせながら話すマーサさんを遮った。
魔王様は分かっていた。マシューさんの代わりは作れても、マーサさんに代わりはいない。だから、自分こそが言わねばならぬと。
魔王様は大きく息を吸った。そして伝えた。
「マーサ。近くではなく、私と一緒にいてほしい。これから、ずっと」
「……はい!」
マーサさんは泣きながら笑って、魔王様に抱きついた。魔王様もマーサさんをそっと抱きしめた。
※
母さんと父さんは今も旅をしている。
たまに移動の魔法で俺のところに来て、おしゃべりして旅に戻って行く。
二人は魔王様のお屋敷にもお邪魔して、お茶やパンやチーズやシチューなどを御馳走になっているらしい。
魔王様はあの場所に屋敷を建て直したのだ。今はマーサさんと暮らしている。上空を、あのクレイスヘスノスが飛ぶそうだ。
ときどき俺は考える。もしかしたら魔王様と父さんは、ペットとご主人……、じゃなくて、家族みたいな関係になっていたのかもなあ、と。
母さんと父さんは、今もアリスとトニーだ。
※
ところで、俺は気づいてしまった。異種族間会話は、相手が俺に好感を持っていてくれれば、互いの意思を確認し合わなくても、こっそり話を聞けてしまうことに。
でも、聞かない方がいいんだよね。
例えば食堂のそばの大きな木の枝によくいる小鳥たちの会話。
「ぴるるぴー(ユーリくんと一緒にいるクラウスさんって素敵よねー)」
「ぴるるっ、るっぴっぴ!(ほんとね、わたし、恋しちゃった!)」
俺、どれだけライバルがいるの!? って知りたくないことまで知ることになっちゃうからさ。
終わり
小鳥になった(ミミズじゃないの!?)父さんを迎えに行こうとしたら、銀髪ポニーテール美少女(仮)に出会った【BLです】 ヤマメさくら @magutan
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