第46話 リーリャ、レネットの宿題を確認する
「レネットはどうだったかニャあ、上手くなった?」
「上手いかどうかはわかりませんが、魔力の調整はできるようになってきました」
「それは良かったニャ。じゃあ一番弱い状態から徐々に一番強い状態まで上げて見るニャ」
「わかりました」
楽しそうに剣をぶんぶんと振るフィルマを横目に、レネットは杖を固く握りしめ、そっと杖先を上へと向ける。小さなファイヤーというつぶやき声がリーリャの耳に届く頃、杖の先にはわずかな火の玉が出現していた。
太陽の光に当てられて金色に光り輝く彼女の髪と、徐々にサイズが大きくなる火の玉をみて、リーリャは彼女が成長したときの姿を想像してしまう。
どんなにカッコいいことだろう。金色の長髪をなびかせて、戦地で魔法を放つ彼女のことをカッコいいと思ってしまう。彼女が戦地に出る事態を祈ってはいけないはずだが。
「いい感じニャね。かなり大きくなったニャ」
そのまま巨大化し続けた火は、いつの間にか球体からメラメラ燃えさかる炎へ変わっており、レネットの抜群な魔法センスをバッチリと表している。
彼女は魔力量だけでなく、操作もかなり器用なようだ。
「じゃあ、その状態から一気にこれくらいのサイズまで縮めてみて」
リーリャは胸の前で手を20センチほどに開く。そのサイズを見て小さく頷くと、レネットは一気に炎を縮める。圧縮されるようにサイズを変えた炎は、依然として燃えさかっているが、その中心は赤から青へと変化していた。
その様子を見て、リーリャは笑みを抑えることができない。
「レネットは魔法の天才ニャ」
リーリャは多くの魔法使いをその目で見てきた。その中にはもちろんまだ見習いで拙い魔法しか使えない者もいたし、魔法を使ったことすらない人もいた。
彼らの魔法はその姿を長時間保っていることができない。絞り出される魔力の量は不安定で、ゆらゆらと不安定に揺れるそれはサイズを変えようとすると離散してしまう。
魔力量の調節が上手くいったとて彼女のように素早く形状を変化することなどできないし、うれしそうに笑顔を見せながら魔力制御するには腕が足りていなかった。
彼女はどうだ。まだ魔法を使い始めて一週間だ。
「これは、ウチなんか比にならない天才ニャよ」
ニコニコ笑い、踊りながら炎のサイズを変え、分裂させ、形を変えてみせる彼女に、リーリャはニヤつきが止まらなかった。
彼女には天賦の才がある。もしこの才能が腐っていたとしたら、それは国益に反する事態だったかもしれない。これはもう、そういう話になりかねない。
そこまで、と彼女の魔法を止めたリーリャは、胸の高鳴りを抑えながらレネットへ質問をする。
「かなり腕がいいニャ。でだ、レネット、レネットはどうして炎を分割して、しかも形を変えられるのかニャ?」
鳥の形に変えてみせるような変化ではない。レネットが出したひとつの大きな炎は、3つに分裂し、その火のサイズは三つそれぞれ異なっていた。分裂させた魔法を個別に操るというのは魔法を初めてすぐの子供ができる代物ではない。
もう少し魔法理論を教えてから、並列使用を教えようと、そう考えていた。その過程を吹っ飛ばし、彼女はどこでその技術を覚えたのか。
といっても、どこで覚えたのかは明確だ。リーリャはコンロの代わりに火を調整してみなさいと言った。つまりは、それだけで彼女はそれだけのことを成せるほど成長して見せた。
「この家のコンロは3口なんです。3つ同時に料理できたら便利かなって……。それでやってみたらできました」
「できましたって、そんな簡単にできることじゃないニャよ、それは……」
想像していた答えではあるが、想定していたものではない。ウチにこの才能を十分育てられるだろうか、リーリャは自信をなくしそうだった。
「……レネットの才能はすごいニャ。きっとウチなんかよりよっぽど天才ニャ。正直言って、ウチに教えられることには限りがある。ウチはしっかりと基礎を教える。だから応用を教えられる人を、レネットに魔法を十分に教えられる人をウチは探す。くれぐれもけがに気をつけるんだニャ」
「……私ってそんなに魔法が使えるんですか?」
「使える。レネットの魔法はすごいニャ。だから、これだけは覚えておいて。その魔法で悪いことはしてはダメにゃ。人のために使うんだニャ。レネットが正しく魔法を使えるようにウチはしっかり教えるニャ」
「わかりました。私にどこまでできるかわかりませんが、教えて貰えるというのであればすべて吸収して、必ずお姫様のお側にふさわしいひとになります!」
そう無邪気に笑顔を見せるレネットの頭をそっと撫でる。まだ小さい彼女がどれだけ成長するか。これからが楽しみで仕方ない。
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猫獣人の元聖女、辺境で孤児を鍛えます。 べちてん @bechiten
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