第45話 リーリャ、フィルマの宿題を確認する
「まずはフィルマからニャね。じゃあ構えてみて」
この時期は晴れが多く、雨の日はほとんどない。雨が降って湿度が上がるとリーリャの髪の毛はいつにも増してボサボサになってしまうため、リーリャはかなりうれしいらしい。それでも朝の髪の毛はボサボサしている。
王都は湿度が高く、潮風の影響もありリーリャの髪はいつもたてがみのようであった。こちらに来てから調子が良く、朝はゆっくりと過ごせる。とはいってもフィリーにたたき起こされて眠そうに顔を上げているが。
片手剣をしっかりと構えるフィルマ。以前の両手持ちで不格好な姿勢とは打って変わり、片手で姿勢を下ろして腰を引くその姿は、一応様にはなっている。
独学でここまで持ってこられれば十分。というのがリーリャの感想である。もっとも、まだ戦場に行くには不十分だ。
「いいニャ、いったん構えを解いて」
「ここ数日素振りしてみてどうだったニャ?」
「えっと、日に日に振りやすくなっていってる感覚はあったな。剣の重みに負けていたんだけど、今はしっかり剣を持てる」
「そうニャね。どうしても剣を振ると剣の動きに体が引っ張られるニャから、しっかりとした持ち方で、バランスを取るのが大事ニャよ」
できる限り言葉を選んで子供でも理解しやすいように説明しているが、理解できているのだろうか。ティニーは教えるのが上手そうだけれど、リーリャはあまり教えるのが得意な方ではない。
というのも、リーリャはかなり感覚派なのだ。
「もう一回構えて見るニャ」
フィルマの構えは剣の向きに対して胸元が90度に近い角度で交わっている。もちろん片手剣だけで戦うのであればそれでもいいのだが、リーリャは最終的に片手で剣、片手で盾を構える形を想定している。
しばらくは盾なしで訓練するため構え方は違うが、できるだけ胸のラインと剣身のラインが直線的になるように構えてほしいと考えている。そのような持ち方であれば、盾の代わりにもう一本片手剣を持ったり、短剣を構えたりといったように転用がしやすい。
今も腰を落として片手でしっかりと剣を握れている。それでも、どちらかというと腰を落とすというよりはへっぴり腰に近いかな? というのがリーリャの感想であった。
まだまだ改善の余地はある。いくらでも。
「うん、しっかり持てているニャ。1人でよくここまでやったニャね」
その言葉を聞いたフィルマは、うれしそうに目を輝かせて、ドヤッとレネットの方に振り返った。教えるときは褒め7割、指導3割。できるだけそれを意識する。
「ただ、まだ荒いんだニャ。その構えだと、その後の動きにつなげにくいんだニャ。その場で振るだけならいいんニャけど、剣を振るときは足を同時に動かすんだニャ」
剣を胸の前で構えるとき、足は横方面に並ぶ。その状態から前に駆けようとすると、はじめの一歩目、おそらく左足を出すことになると思うが、その左足の歩幅は小さくなる。
どうしても初速が遅くなるのだ。
「その姿勢から、左足を後ろに下げるんだニャ。こうやって」
言葉での説明が難しいため、実際にやってみる。
逆ハの字になっていた足の、左足を後ろに下げて、足を亠のような形にする。上側の縦棒が右足で、横棒が左足だ。もちろん右足と左足はくっついていなく、肩幅くらい開けている。
そして前に出ている右足の延長線上に片手剣を構えると、左向きに体の開いた構えになる。こうすると剣に対してまっすぐに体が配置される。
「ウチがおすすめする構えはこうだニャ。状況によって、下げる足を変えると右向きにもできるんだニャ」
「あ、バランス取りやすいな」
「そうなんだニャ。さっきまでの前側に顔が向く持ち方だと、どうしても体が前に傾くんだニャ。これだと後ろに傾けられるでしょ?」
フィルマ向けに簡単に説明をする。実際に体を動かしてみてある程度理解できたらしい。
敵に対して自らの胸が見えるような、正面から向かい合うような先ほどまでの構えだと、重心が前に傾いてしまう。画用紙なんかをイメージしてみるといいだろうか。
画用紙を横向きに立てて、その画用紙の真ん中に一本爪楊枝を貼り付ける。そうすると、その画用紙は爪楊枝の重さに負けて前方向きに倒れていってしまう。それでは体が不安定だし、重心を後ろに下げざるを得ない。
その画用紙を横向きにして、側面に爪楊枝を貼るとどうだろう。もちろん画用紙は軽いから倒れてしまうが、イメージとして考えてほしい。おそらく先ほどより安定感が増しているはずだ。
先ほどまではどちらの足に重心をおいても、前に傾いてしまう。ただ、剣身に沿うように縦方向にまっすぐ足を配置すると、後ろ側の足に重心を掛ければ剣を持っていても安定するのだ。
そして走り出すときに後ろ側の足を大きく前に出して、重心を前方向きに傾けると、剣の重さもあって初速が早くなる。次の動きにつなげやすくなる。
相手から見たときも、正面から向かい合ったときより、体の側面で向かい合った方が的が小さく見え、隙がなく見える。
体の向き一つでここまで変わるのだ。
「もちろんいろんな構え方があるんだニャ。体を横向きにして、剣をだらりと持っているだけで強い人もいる。剣を顔の前まで持ってきて地面と平行に構える人もいる。いろんな構えがあるニャけど、ウチはこの持ち方がおすすめニャ」
「わかった。じゃあこれでやってみる」
「うんうん。慣れてきたら自分に合った持ち方を探して見るニャ」
リーリャは満足そうに頷くと、それを見ていたフィルマはわずかに口角をつり上げ、教わった構えを維持しながら素振りをしてみせた。
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