第42話 リーリャ、人を付けられる
「そういえば、この屋敷にはどうして図書館があるニャ? 別にわざわざ持ってこなくても良かったのに」
「えっとね、この屋敷は確かに私の避難場所として作られたところなんだけど、同時に地方開発の拠点や研究のための拠点としての意味もあるのよ。だからたくさん研究者を連れてきていて、研究棟も別で立ってる」
「別にわざわざこっちに拠点を移さなくても、王都じゃダメなのかニャ?」
リーリャはハッシュドポテトをナイフとフォークで器用に切り分けると、そのまま口に運ぶ。外はカリッと、内側はポテトの水分でジューシーに仕上がっており、かむ度にうまみが口に広がる。
これがあの丸っこい茶色の芋だとは到底思えない。
「研究者にとって、実際に長期でフィールドに出るというのは大事なプロセスなのよ。王都だけでは王国全域のデータを集めることはできないでしょう? それに研究者は後ろ盾がないとやっていけない。王都にいては貴族のパーティーに呼ばれたり、自分の研究を中断してパトロンのために研究をしないといけなくなる。
ここならそんな面倒なことともおさらばなのよ」
「なるほどニャぁ。自由にやりたいことをしてもらうために、研究者が来ていて、その人達が思いっきり研究できるように本を集めたのね~」
「そうそう。それに、研究者の人が個人的に所有していた本も、図書館にしまってあるのよ。本を管理するのって大変だから」
リーリャは朝にまとめて焼かれたであろうふわふわのパンをちぎると、満足そうに頷きながらそれを口に運んだ。
「それに、ティターニャも空いてる時間には自分の研究をする予定なのよ」
「え? そうなのかニャ?」
「はい。そのつもりです。王都だけではできないことがあります。フィールドワークは学問の基本ですから」
リーリャの後ろに控えてじっと立っていたティニーは、真剣な表情でリーリャを見つめる。その口元は何かを話したそうにわずかに動いていた。
「ティニーさんはどんなことを研究しているニャか?」
そんなリーリャの問いかけを待っていましたといわんばかりにどや顔を見せるティニー。リーリャの視界の隅ではフィリーが若干嫌そうな顔をして、また元の顔に戻した。
「では、説明させていただきま――」
「いいわ。また今度にしましょう。リーリャ、ティターニャに研究の話をさせると長いのよ。数時間語られるよ」
「げぇ、気をつけるニャ」
「お二人して大切な秘書に失礼な用ですが、聞きたくなったらいつでもお聞きください」
「そうニャか……、ならティニーさんには休みをたくさんあげないとニャね」
リーリャにやりたいことがあるように、ティニーにもやりたいことがある。誰にでもやりたいことがあって、仕事だらけになってそれができなくなってしまうようなら、疲れてくたびれてしまう。
リーリャも休みを取ることがあるだろう。そのとき脱ぎ散らかした服を片付けるのは誰か。お茶やお菓子を持ってくるのは誰か。お風呂を準備してくれるのは誰か。これからはティニーがやってくれるようになるだろう。
つまり、リーリャが休みの日は、ティニーは仕事の日。そして、秘書であるからしてリーリャが仕事の日は、ティニーも仕事の日なのだ。
リーリャは余っているメイドさんをかして貰えないか、フィリーに聞くことにした。
「そうね……、これを機にリーリャの周りに人を集めてみましょう」
「賛成です。王宮で働けるように育てるとなれば、2人では人手不足です」
「う~ん、ウチはあんまり人の上に立つのが得意じゃないニャよ……」
「何を言ってるの。聖女なんてこの国のトップオブトップじゃない」
貴族という者はひたすら何かを食べていないと気が済まないらしく、昼食を済ましたリーリャ達は場所を移して、紅茶とスコーンを楽しんでいた。
スコーン用に用意されたジャムを紅茶に入れると、わずかな酸味が加わりいつもとは違う味になる。リーリャはこの味が嫌いではない。
「なんかウチは食っちゃ寝ばっかな気がするニャ」
「仕事をするときはするでしょ。話を戻すわよ。ティターニャ的にはあと何人くらいほしいかしら」
「そうですね……、身の回りの世話にメイドを2人、書類処理のために文官を1人、火魔法が使える人を1人。とりあえずこんなものでどうでしょう」
「少し少ないような気がするけれど、そんなものかしらね」
自分の周りのことについて、口を出せないリーリャはひたすらに黙ってスコーンを口に運び入れる。聖女になってからのリーリャは身の回りのことをほぼすべて教会に手配されていた。
そのため、すでに何を言っても無駄だということはわかっているのだ。こういうものは、自分の意思とは関係なく動いていくもので、リーリャ本人の気持ちはあまり関係ない。
結果として自らに制限が掛かるわけでもないため、おとなしくフィリーに任せることにした。悪くはならないだろう。
「じゃあついでに、教会の管理をしてくれているシスター達もリーリャ管轄に組み込みましょう」
湖畔にある教会をリーリャが1人で管理するのはそもそも不可能なため、何人かシスターや牧師が同行している。これはレミスト教本部からの出向という扱い。
いよいよ本当に教会を追い出されたのかわからなくなってくるリーリャであったが、同じく神に仕えるものとして快く受け入れた。
「じゃあそういうことだから、トレイシー、手配をお願いね」
「承知しました」
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