第21話 リーリャ、騎士だった?

「そろそろちゃんとしたシャワーを浴びたいわね」

「そうニャねぇ……」


 少し先に野営ができる広間があるとの情報があったため、馬車を動かしそこまで移動してきた。まだ明るくあと数時間は移動ができる時間ではあるが、今日はここで野営をすることとなった。

 たき火で適温まで温められたぬるま湯にタオルをつけ、汚れた体を拭き取っていく。扉や窓はカーテンを閉め切り鍵を掛け、下着姿をのぞき見られないよう気をつけている。

 締め切られた馬車の中に、タオルが水につかる音、その濡れたタオルを絞る際の水滴の音が響き渡る。


「それにしても、リーリャは本当に筋肉がすごいわね」

「鍛えてるニャからね」


 一通り体を拭き終わったフィリーはたらいの縁にタオルを置くと、そのままリーリャの前にしゃがみ込み、彼女の割れた腹筋へと手を伸ばす。優しく触れられる手が少しくすぐったいようで、リーリャは笑いながら身をよじらせている。


「聖女には見えないわ。聖女っていったらもっと華奢なイメージだもの」

「ウチは例外ニャよ。聖女や見習いの友達はかなり痩せてたニャよ」

「太ってる人はいない?」

「まあいないニャね。聖魔法って結構カロリー消費がすごいんニャよ。聖女ダイエットニャね」

「ずいぶん限られた人しかできないダイエットだこと」


 移動が始まってからも、リーリャは朝起きると木剣片手に馬車から出ては近衛兵達とともに素振りや模擬戦をしている。その様子を馬車の入り口に付いている段差に腰掛け、紅茶を飲みながら眺めるのがフィリーの日課だ。

 私も混ざろうかな、と一度リーリャの予備の木剣を借りて素振りをしてみたことがあったが、体力のないフィリーはあっという間に疲れて止めてしまった。


「元々猫獣人は筋肉が付きやすいんニャよ。夜目も利いて耳もいい。鼻もいいし身体能力は高い。代わりに魔法が使えない人が多いんニャけど」

「リーリャは魔法の才能もあった」

「そういうことニャ。しかもそれが聖魔法。あれよあれよで修道院行きニャ。聖魔法が使えなければ冒険者にでもなっていたんじゃニャいか? でも聖女になって良かったニャ」

「私もリーリャが聖女になってくれて良かった。リーリャが聖女になっていなければ、きっと私と出会うことはなかったわ」

「そうニャね……」

「ちょっと、そこは聖女になっていなかったとしても君を見つけ出した、とかかっこよく言うところじゃないの?」

「えぇ? ニャんだそりゃ」


 奴隷解放後、猫獣人の多くは冒険者や傭兵といった戦闘職に就いている。それかヒト族だと住みにくい山岳地帯に住んで農業や狩りをして暮らしている。差別主義的な思想が一般的ではなくなったとは言え、今でも公務員や商人を目指す獣人は少ない。それは猫獣人だけでなく、多くの獣人で共通だ。

 王都の学院でも、獣人は肩身の狭い思いをしているらしい。王宮内を歩いていて、職員の制服を来た獣人を見かけることは少ないし、獣人が会長をやっている商会はほとんどない。大商会ともなれば存在しないといってもいいだろう。

 その中で聖女の地位まで上り詰めたリーリャが、どれだけ獣人達の力になっていたか。


「きっと獣人達はシンボルを失ったように感じていたに違いないわ」

「……ウチにはどうしようも」

「大丈夫。きっとお父様がなんとかしてくれるわ。今頃獣人初の女性貴族誕生、とでも盛り上がっているに違いないわ」

「……女性貴族?」

「ええ、リーリャは騎士でしょう? 騎士は騎士爵に任ぜられるものよ。一代貴族とはいえ貴族は貴族よ。……準貴族だけど」

「……ウチ騎士爵になったんニャか」

「はい? リーリャお父様に騎士として守るように、って言われてたじゃない」

「あれはそういう比喩表現というか、ニャんというか、そういうものだとばかり……」


 フィリーは呆れたようにため息を吐いた。そしてしゃがみ込んでいた体を起こして立ち上がると、体が冷えるわ、と言いながら服を着る。リーリャもそれにならって服を着ると、ふたりしてベッドの縁に座った。


「オストリアに付いたら、私から家名を渡すわ。どんどん陞爵していこう! 目指せ侯爵!」

「えぇ……」

「王都に戻ったらまずは男爵ね。私が王妹室を作れば側近として子爵ね。そこからは功績次第。リーリャの名を歴史に刻むわよ」

「楽しそうニャね……」


 笑顔で手を振り上げるフィリーを横目に、リーリャはため息を吐いた。

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