第26話:観測される側
「……来るぞ」
空気が、変わった。
さっきまでの“敵”とは違う。
重い。
濃い。
「……圧が違う」
アカリが低く呟く。
「これ、同じ階層の強さじゃない」
「ええ」
セラも頷く。
「“湧いた”んじゃない」
一瞬の間。
「“呼ばれた”」
『嫌な言い方やめろ』
黒い霧が、ゆっくりと収束していく。
人の形に、近づいていく。
「……あれ」
俺は目を細める。
「ただの魔物じゃないな」
「断言できるわ」
セラが言う。
「知性がある」
その瞬間。
「――正解」
「……っ!?」
声。
霧の中から、はっきりとした声。
『しゃべった!?』
「観測対象、確認」
歪んだ“それ”が、こちらを見た。
「……お前か」
「……誰に言ってる」
分かってる。
だが、確認せずにいられない。
「お前だ」
視線が、完全に俺に固定される。
「“運命に干渉する個体”」
「……」
空気が、冷える。
「やっぱり狙いはそれね」
セラが小さく呟く。
「ユウマ、完全にロックされてる」
「……だろうな」
「回収する」
そいつは、淡々と言う。
「“それ”は、この階層に不要だ」
「……は?」
「過剰な干渉は、構造を崩す」
「……つまり?」
アカリが警戒する。
「ユウマを、消す気?」
「近い」
一瞬の間。
「分解して、取り込む」
『物騒すぎるだろ』
「……上等だ」
ナイフを握る。
「やれるもんならやってみろ」
次の瞬間。
視界から消えた。
「――っ!」
反応。
間に合う。
――ガキィン!!
ギリギリで受ける。
「……速いな」
「当然だ」
背後に回られる。
――ドンッ!!
「ぐっ……!」
吹き飛ばされる。
「ユウマ!!」
アカリが駆ける。
「下がってろ!」
「でも――」
「こいつ、俺しか見てない!」
その通りだった。
そいつは、完全に俺だけを狙っている。
「……厄介ね」
セラが分析する。
「完全な“ターゲット固定”」
「他は無視ってことか」
「ええ」
一瞬の間。
「逆に言えば――」
「私たちは“自由に動ける”」
「……なるほど」
それなら。
「役割分担だな」
アカリが頷く。
「時間、稼ぐ」
「私は解析」
セラが即答する。
「弱点と構造、見る」
「……頼む」
ナイフを構える。
「俺は――」
一歩、前に出る。
「引きつける」
「合理的だ」
敵が、初めて“評価するように”言った。
「だが――」
一瞬で距離を詰める。
「無意味だ」
「……っ!」
来る。
今までより速い。
「チッ!」
受ける。
重い。
速い。
読めるが、対応がギリギリ。
「ユウマ、3秒持たせて!」
セラの声。
「了解!」
「――はああああ!!」
全力で受け、捌き、避ける。
一秒。
二秒。
三秒。
「――見えた」
セラが呟く。
「核がある」
「どこだ!」
「胸部中央」
「ただし――」
一瞬の間。
「“外殻”が干渉してる」
「……どういう意味だ」
「普通に斬っても届かない」
「……だろうな」
さっきの感触で分かる。
「じゃあどうする」
セラが言う。
「一瞬だけ、“干渉を止める”必要がある」
「そんなことできるのか」
「できる」
一瞬の間。
「でも、一人じゃ無理」
「……」
理解した。
「合わせるしかないな」
「ええ」
アカリが前に出る。
「私が崩す」
「私は止める」
「ユウマが決める」
「……王道だな」
「文句ある?」
「ない」
ナイフを握り直す。
「それで行く」
敵が、静かに構える。
「連携か」
「非効率だ」
「どうだろうな」
俺は笑う。
「試してみろよ」
次の瞬間。
三人同時に動いた。
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