第18話:お前は“何を捨てた”?

「……やっと会えたな」


目の前の“俺”が、ゆっくりと笑う。


同じ顔。

同じ声。


なのに――


「……全然、違うな」


『不気味すぎる』

『これ絶対ヤバいやつ』


「そうか?」


“もう一人の俺”は肩をすくめる。


「俺は、変わってないつもりだけどな」


「……どの口で言ってんだ」


その目。


明らかに、普通じゃない。


「まあいい」


そいつは軽く手を振る。


「自己紹介でもするか?」


「いらねぇよ」


「冷たいな」


少しだけ笑う。


「同一人物なのに」


「だからだろ」


一歩、前に出る。


「お前、何者だ」


一瞬の沈黙。


そして――


「“選んだ方の俺”だ」


「……」


『きたあああああ』

『意味深すぎる』


「……何を選んだ」


「簡単だ」


そいつは、迷いなく言った。


「全部だ」


「……は?」


「力も」


一歩。


「未来も」


さらに一歩。


「可能性も」


そして――


「全部、俺のものにした」


「……」


理解できるようで、できない。


「……代わりに?」


「さすがだな」


そいつは楽しそうに笑う。


「分かってるじゃないか」


一瞬の間。


「“捨てた”よ」


「……何を」


その答えは、あまりにも軽く。


「他人だ」


沈黙。


『うわあああああ』

『完全に敵じゃん』


「……は?」


「簡単な話だろ?」


そいつは、心底不思議そうに言う。


「全部を手に入れるなら」


「何かを捨てなきゃいけない」


「だから、捨てた」


「……」


「アカリも」


一瞬、視線を向ける。


「セラも」


「っ!」


二人の空気が変わる。


「全部、不要だった」


「……ふざけんな」


思わず、声が低くなる。


「必要ないだろ?」


そいつは笑う。


「足手まといだ」


「……」


頭が、熱くなる。


「……それで、満足か」


「最高だ」


即答。


「何も迷わない」


「何も失わない」


「全部、思い通りになる」


「……」


その言葉に、嘘はない。


「……じゃあ」


俺はゆっくり言う。


「なんで、ここにいる」


「……」


一瞬だけ。


ほんの一瞬だけ。


そいつの表情が、止まった。


「……どういう意味だ」


「全部手に入れて、満足してるなら」


「こんなところに来る理由、ないだろ」


沈黙。


『おおおおお』

『核心突いた』


「……」


そいつは、少しだけ目を細める。


「……やっぱり」


小さく笑う。


「面白いな、お前」


「質問に答えろ」


「簡単だ」


一歩、近づく。


「確認だよ」


「……何を」


「どっちが“正解”か」


「……」


「俺か」


指を、自分に向ける。


「それとも」


ゆっくりと、俺に向ける。


「お前か」


空気が、凍る。


「……」


アカリが、小さく呟く。


「ユウマ……」


セラも、静かに言う。


「これは――」


「分かってる」


俺は前に出る。


「つまり、お前は」


「俺を否定しに来たわけか」


「違うな」


そいつは笑う。


「証明しに来た」


「何を」


「俺が正しいってことを」


一瞬の間。


「お前を壊してな」


『うおおおおおおお』

『バトルくるうううう』


「……そうか」


俺はナイフを構える。


「じゃあ逆だな」


「?」


「俺が証明する」


一歩、踏み出す。


「お前が間違ってるって」


そいつは、楽しそうに笑った。


「いいね」


同じように、構える。


「それでこそ“俺”だ」


次の瞬間。


空気が、弾けた。

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