第8話:スポンサーと、新しい“視線”

「……15件?」


ダンジョンの入口付近。

安全エリアに戻った俺は、スマホを見て固まっていた。


【企業スポンサー申請:15件】


「いや、急すぎるだろ」


『そりゃ来るわw』

『今一番バズってる男だぞ』

『企業が放っとくわけない』


「どうするの?」


隣でアカリが覗き込む。


「正直、よく分からん」


「なら、選び方だけ教えるわ」


「頼む」


アカリは画面をスクロールしながら説明する。


「まず、怪しい企業は除外」


「怪しいって?」


「“成果保証”とか、“裏でサポートする”とか書いてるやつ」


「あー……」


『黒すぎて草』

『絶対ダメなやつw』


「次に」


彼女はひとつの企業を指さす。


「こういう“装備系の大手”はアリ」


「なるほどな」


「ただし」


アカリの目が少しだけ鋭くなる。


「“縛り”がある契約はダメ」


「縛り?」


「装備固定とか、配信内容制限とか」


「それは嫌だな」


「でしょ?」


『しっかりしてるヒロイン』

『有能すぎる』


「……よし」


俺は一つ、企業をタップする。


【契約候補:アルテック社】


「ここにするか」


「いい選択ね」


「マジ?」


「ええ、信用できる」


そのまま、契約ボタンを押す。


【スポンサー契約成立】


【契約金:10,000,000円】


「……は?」


『は??????』

『1000万!?!?!?』

『初契約でそれはバグ』


「……桁、合ってる?」


「合ってるわよ」


アカリはさらっと言う。


「あなたの価値、それくらいある」


「……マジかよ」


つい数時間前まで、所持金ほぼゼロ。


それが今――


「一千万……」


『人生RTAで草』

『無職→富豪』


「……怖いなこれ」


「慣れるわよ」


その時だった。


「――へぇ」


聞き慣れない声が、背後からした。


「随分と、派手にやってるじゃない」


「……?」


振り向く。


そこにいたのは――


長い銀髪。

鋭い瞳。

どこか“近寄りがたい”雰囲気の女性。


『誰だ!?』

『新キャラきた!?』


アカリの表情が、一瞬で変わる。


「……あなた」


「久しぶりね、アカリ」


その声音は、静かだが冷たい。


「まさか、こんなところで会うとは思わなかったわ」


「こっちのセリフよ」


空気が、一気に張り詰める。


「……知り合いか?」


俺が小声で聞くと、


「ええ」


アカリは短く答える。


「元パーティメンバーよ」


「元?」


「色々あってね」


『不穏すぎる』

『絶対揉めてるやつ』


銀髪の女は、ゆっくりと俺を見る。


「あなたが、“バグ配信者”?」


「……そう呼ばれてるな」


「ふふ」


彼女は小さく笑う。


「面白いわね」


その目は――


明らかに、“観察する側”の目だった。


「ねえ、あなた」


一歩、近づく。


「本当に“運”だけなの?」


「……さあな」


俺は肩をすくめる。


「試してみるか?」


その返答に、彼女は楽しそうに笑った。


「いいわね、それ」


アカリが、少しだけ前に出る。


「……やめなさい」


「どうして?」


「彼は――」


一瞬、言葉を止めて。


「私のパーティよ」


コメント欄、爆発。


『宣言きたああああ』

『独占欲www』

『修羅場の予感』


銀髪の女は、少しだけ目を細めた。


「へぇ……」


「じゃあ、余計に興味が湧いたわ」


彼女は、俺をまっすぐ見る。


「私、あなたに興味がある」


「……そうか」


「だから」


一瞬の間。


「奪ってもいい?」


空気が、凍る。


『うおおおおおおお』

『新ヒロイン強すぎwww』

『三角関係きたああああ』


俺は、苦笑した。


「……面倒なことになりそうだな」


だが――


それが、少しだけ楽しみでもあった。

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