第4話:その確率、本当に壊れてるわね

「じゃあ――検証しましょうか」


画面越しの彼女――アカリは、落ち着いた声でそう言った。


その目は真剣だ。

興味本位じゃない。“確信”を得に来ている目。


『ガチ検証きた』

『Sランク直々にチェックw』

『ユウマ終わったな(期待)』


「検証って、具体的には?」


俺が聞くと、アカリは即答した。


「シンプルでいいわ」


彼女は軽く指を立てる。


「“ありえない状況”を作るの」


「……ありえない状況?」


「ええ」


アカリは画面の向こうで、少しだけ笑った。


「あなたが“普通なら絶対に死ぬ状況”で、生き残れるかどうか」


『物騒で草』

『Sランク容赦なさすぎw』


「いや普通に怖いんだけど」


「大丈夫」


彼女はさらっと言う。


「私がいるから」


その一言で、コメント欄がざわつく。


『守る宣言きた!?』

『ヒロイン確定演出やめろw』

『もう付き合え』


「……信用していいんだな?」


「ええ。あなたが“本物”なら、ね」


その言葉に、俺は小さく笑った。


「上等」


そして俺たちは、少し奥の広い空間へ移動する。


「ここならいいわね」


そこは円形の部屋だった。


逃げ場が少ない。

戦うには最悪の地形。


「じゃあ、始めるわよ」


アカリが、何かを取り出す。


小さな水晶のようなもの。


「モンスター誘引装置」


「……嫌な名前だな」


『やばい予感しかしない』

『ガチで殺しにきてて草』


「安心して。普通は使わないものよ」


「普通はな」


アカリは、スイッチを押した。


――ブゥン


空気が震える。


嫌な気配が、一気に広がる。


「来るわよ」


その直後。


「ギィィィィィ!!」

「グルァァァ!!」


四方八方から、モンスターが押し寄せてきた。


「……おいおい」


ざっと見て――10体以上。


さっきの異形も混ざっている。


『詰みですありがとうございました』

『いやこれ無理だろ』

『Sランクでもキツい数』


「どうする?」


アカリの声は冷静だ。


「逃げてもいいわよ?」


「……いや」


俺はナイフを握り直す。


「せっかくだし、やる」


その瞬間。


【スキル発動:《確率支配(バグ)》】


世界が、静かになる。


「……なるほどな」


分かる。


全部。


どの攻撃が来るか。

どこに動けば避けられるか。

どこを狙えば、一撃で倒せるか。


「これ、ズルだろ」


自分で引くくらいの“確信”。


「――行くぞ」


最初の一体が飛びかかってくる。


一歩ずらす。


空振り。


「遅い」


ナイフを滑り込ませる。


一撃。


次。


右から牙。


しゃがむ。


すれ違いざまに、首を切る。


二撃。


三体目、背後。


振り向かずに刺す。


三撃。


『は??????』

『動きがおかしい』

『未来見えてるだろこれ』


止まらない。


止まれない。


四撃。

五撃。

六撃。


すべて、最短距離で急所のみ。


「……全部見えてる」


気づけば、息一つ乱れていない。


最後の一体。


「ギィィ!!」


正面から突っ込んでくる。


「……終わり」


最小の動きで避ける。


――ザシュッ


沈黙。


そこには――


10体以上のモンスターの死体だけが残っていた。


「……」


配信も、コメントも、数秒止まった。


そして――


『はあああああああああ!?!?!?』

『意味わからん意味わからん』

『チート確定』

『運じゃねぇ!!!!』


視聴者数:7万 → 12万 → 18万


「……増えすぎだろ」


だが、俺の視線は一人に向いていた。


アカリ。


彼女は、黙っていた。


そして――


ゆっくりと、口を開く。


「……ありえない」


その声は、震えていた。


「回避も、攻撃も……全部」


一歩、こちらに近づく。


「“確率”で説明できるレベルじゃない」


「……だろうな」


俺も苦笑する。


アカリは、俺をまっすぐ見つめる。


その目にあったのは――


恐怖と、興味。


「ねえ、ユウマ」


「なんだ?」


「あなた――」


一瞬の間。


「“何者”なの?」


コメント欄が、静かに流れる。


『それな』

『正体バレくる?』

『気になるうううう』


俺は、少しだけ考えて――


「……さあな」


笑った。


「ただの無職だよ」


その答えに、


アカリは――


「……そう」


なぜか、少しだけ嬉しそうに笑った。


そして、静かに言う。


「気に入ったわ」


「は?」


「あなた、私と組まない?」


コメント欄、完全爆発。


『きたああああああああ』

『勧誘wwwww』

『ヒロイン確定』


視聴者数:20万突破


そして掲示板では――


【確定】バグ配信者、本物だった件www


物語は、もう止まらない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る