第55話 夜明けの船(Codename: Ship of Dawn) 第一話「探検隊が向かう先」
モーヴァの操縦で、宇宙船は財団が用意した格納庫から飛び立った。
乗っているのは、コルヴォ博士、モーヴァ、そしてユーマの三人だ。
コルヴォ博士の指示で、まずは博士の研究所へ戻る。
そこで旅の準備を整え、目指す航路のデータを受け取る予定だ。
博士もモーヴァも緊張した面持ちで、表情が固い。
その逆に、ユーマは探検隊のテーマ曲を口ずさみながら、宇宙船の内部を興味深そうに見回している。
「わたし、実は宇宙船は初めてではないんですよ。二人は初めてみたいだけど? わたし、先輩!」
「惑星にも何度も行ってますし」
ユーマの鼻の穴が膨らむ。
「ユーマさんに何でも聞きますね。宇宙のこと、何も知らないので。博士もユーマさんに聞いてくださいね」
モーヴァが言う。
モーヴァは安心したのか、操縦に慣れてきたのか、口笛を吹き始めた。
博士はモーヴァの隣の席で、渋い顔をしている。
ユーマの発言も、モーヴァの口笛も聞いてなどいなかった。
研究所に着いてからの段取りで、それどころではない。
いかに早く準備を済ませるか。
財団の動きよりも先手を取り、できるだけ早く宙へ飛び立ちたいのだ。
博士は思考中になると、凄まじい集中力を発揮して自分の世界に入る。
モーヴァもそのことを知っているので、気にしていない。
やがて研究所に着陸すると、博士とモーヴァは急いで宇宙船を降り、研究所へ駆け込んでいった。
それぞれの準備を始める。
ユーマは一人、ゆっくりと宇宙船を降りた。
着陸前に、博士からそれぞれに指示が出されていた。
もちろん、ユーマにも指示はある。
それは――
二人の邪魔をしないこと。
ユーマも何も考えていない訳ではない。
ちゃんと考えている。
ユーマは研究所の入り口に座り、腕を組んだ。
宇宙に出たら、宇宙ステーションに寄ってもらおう。
そして、おやつを買う。
何がいいか悩む。
ユーマの眉間のしわが濃くなる。
「スナック菓子でしょ? バーベキュー味か海苔塩味?」
「カレー味は、ごはんが欲しくなるからダメでしょう」
「バナナは定番ですし、まんじゅうとか売ってないかな? 旅の途中、よく食べるし」
「予算は……500円とかないよね?」
ユーマの眉が下がる。
「ステーションで何食べよう?」
ユーマの頭に、ハンバーグとカレーが浮かんだ。
---
モーヴァは、キッチンのある部屋を目指した。
あそこにはパントリーがある。
ドロシーさんがストックしていたものがあることを、モーヴァは知っていた。
モーヴァはバッグに次々と詰めていく。
紅茶のティーバッグ。
クッキーの詰め合わせの缶。
防災用に備蓄されていたレトルト食品や缶詰。
リュックには、ティーカップを三つ。
さらに紙皿や紙コップなども詰め込んだ。
ドロシーさんの取り出しやすい収納や、品物の選び方。
それらを思い出しながら、モーヴァは準備をしていた。
感謝の気持ちが湧いてくる。
リュックを背負い、バッグを持って出口へ向かう。
その途中、食卓に置かれたキャンディーを掴むことも、モーヴァは忘れなかった。
---
コルヴォ博士は研究室へ向かった。
研究室は散らかっていたが、博士は気にしない。
それは博士の日常だからだ。
研究室の奥にある扉を開ける。
その先は、博士の書斎になっている。
そこだけは綺麗に片付いていた。
モーヴァが綺麗にしているからだ。
博士も、この部屋だけはなるべく片付けるようにしている。
博士は机の引き出しを開け、一枚のSDカードを取り出した。
それを胸ポケットにしまう。
航路のデータは、すでにSDカードへ移してあった。
事前に移しておいたのだ。
誰がコンピューターに侵入するか分からない。
念のためだった。
あとは研究室に戻り、必要な工具類をバッグに詰める。
準備を終えた博士は、研究室を後にした。
---
考えがまとまったのか、ユーマは研究所の入り口に映った自分の姿を見ていた。
ギラン隊長風のMA-1を着たユーマが、鏡のようなガラスに映っている。
ユーマはポーズを決めた。
そのとき、ふと入り口の隅に置かれた宅配ボックスに気付いた。
「博士もモーヴァも忙しいから、わたし、確認する!」
誰に向かって言っているのか分からない。
それでもユーマは、声に出して宣言した。
宅配ボックスを開ける。
中には、麻の紐で結ばれた包みが入っていた。
開けていいものなのか。
ユーマが包みをじっと見ていると、博士とモーヴァが戻ってきた。
「博士、わたし、見つけた!」
ユーマは包みを二人に見せた。
博士は包みを見てから、ユーマに言った。
「時間がない。それを持って宇宙船に乗りなさい」
「はい!」
三人は急いで宇宙船に乗り込んだ。
モーヴァは操縦席に座り、飛び立つ準備を始める。
博士は胸ポケットからSDカードを取り出し、宇宙船のコンピューターに差し込んだ。
航路データを読み込ませる。
宇宙船のモニターに、目的地までの航路が映し出された。
モーヴァの準備も整った。
宇宙船が低く唸り始める。
モーヴァが操縦桿を操作すると、宇宙船はゆっくりと浮かび上がった。
そして、そのまま上空へ向かって飛び立った。
地上から離れていく。
そのとき、一台のヘリコプターが研究所へ向かっているのが見えた。
しかし、宇宙船はその間にも、ぐんぐんと上空へ進んでいく。
ヘリコプターは研究所の上空まで来た。
だが、宇宙船を追うことはできなかった。
小さく見えるヘリコプターが、Uターンしていく。
宇宙船は薄暗くなった空を抜け、真っ暗な宙へ進んでいった。
「博士、宇宙に出ました」
モーヴァが言った。
暗い空間の向こうに、青い惑星が輝いている。
宇宙船は航路に沿って進んでいる。
博士の顔にも安堵の色が浮かんだ。
モーヴァの表情も和らいでいる。
操縦を自動航行に切り替える。
あとはコンピューターに任せればいい。
「そろそろ良いですか?」
ユーマは、ずっと抱えていた包みを二人に見せるように掲げた。
どうやら緊迫した状況の中、うずうずしながらタイミングを見計らっていたらしい。
博士が頷く。
ユーマは麻の紐を解き、包みを開いた。
中には、洋服のようなものと手紙が入っていた。
手紙の表には、
『モーヴァ宛』
と書かれている。
モーヴァが手紙を開いて読む。
そこには――
> モーヴァ、元気ですか?
>
> これは、先生から生徒への贈り物です。
>
> あなたの喜ぶ顔が見たかったのですが、留守のようなので手紙を書きました。
>
> モーヴァとユーマの二人に、これを着てほしくて作りました。
> きっと気に入ってくれるはずです。
>
> また、これを着た君たちと熱く語りたいです。
>
> 今度会うときを楽しみにしています。
>
> ジョージ
ジョージからだった。
モーヴァが包みの中の服を広げる。
それは――
宇宙警備隊の制服を思わせるジャンパーだった。
「わぁ!」
モーヴァもユーマも大喜びした。
二人は早速、ジャンパーを着てみる。
サイズはぴったりだった。
そこには、二人の宇宙警備隊員が誕生していた。
「宇宙警備隊!」
ユーマが叫ぶ。
モーヴァも笑う。
二人はテーマ曲を歌いながら、宇宙船の中で踊り始めた。
それを見ていた博士も、思わず顔を緩ませた。
宇宙船は、青い惑星を背にして、暗い宙を進んでいく。
まだ、冒険は始まったばかりだ。
この先、何が起こるのか。
まだ、誰も分からない。
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