第53話『星空の宇宙船譚⑥』―再び動き出す歯車―
次の日の昼下がり。
起きてきたコルヴォ博士は、しばらく黙ったまま研究室のデスクに腰を下ろした。
昨日ようやく一段落ついた矢先の出来事――。
モニターには今も、ある惑星へ向かう航路が映し出されている。
博士は視線を落としたまま、答えの出ない問いを抱えていた。
「自分には関係のないこととして研究を続けるべきか。それとも、宇宙船の図面の借りを返すべきか……」
思いつかないまま、その問いだけがずっと心に引っかかっている。
そこへモーヴァが紅茶とビスケットを運んでくる。朝食代わりに。
「博士、おはようございます。顔色が優れませんね?」
博士は頷き、紅茶をひと口飲んだ。
「……借りは返すべきか?」
ぽつりとこぼした言葉に、モーヴァが即答する。
「わたし、借りたら返す。ドロシーさんが言ってました」
博士は静かに頷き、何かを決めたように目を閉じた。
――
博士は財団に連絡を入れ、新しい宇宙船を建造したいと告げた。
ほどなく代表者から折り返しがあり、事情を聞かせてほしいと番号が伝えられる。
博士は電話をかけた。
「代表、単刀直入に話そう。前回の宇宙船は一人乗りだった。今回は複数人乗りにしたい」
受話器の向こうで、豪快な笑い声が返ってくる。
「ハハハ、博士。寂しくなったのか? まあ財団としても人数が多い方が都合がいい」
電話口の向こうで、秘書に指示を飛ばしている気配が伝わってきた。
「こちらの準備はできている。いつでもいいぞ。……博士、久しぶりに声を聞けて嬉しかった」
そう言って通話は切れた。
直後、博士のパソコンに財団からメールが届く。
《一時間後、迎えに行く》――そう記されていた。
博士とモーヴァは支度を整え、約束通り一時間後、けたたましい音を立ててやってきた財団のヘリに乗り込んだ。
博士は黙したまま。
モーヴァはスケッチブックを開き、宇宙船のデザインを描き始めている。轟音など気にする様子もなく、鉛筆を走らせ続けた。
数時間のフライトを終え、二人は財団の格納庫へと降り立った。
そこには、すでに建造途中の試作機があった。
博士が驚いていると、責任者が言う。
「設計図は財団の所有物だ。そうですよね、コルヴォ博士?」
博士は冷ややかに答える。
「私は宇宙船そのものを作りたいだけだ。設計図などどうでもいい」
そしてモーヴァを振り返る。
「モーヴァ! デザインはどうだ、できたか?」
モーヴァはスケッチブックを差し出した。
「わたし、はじめて描きました。でも……このデザインが好きです、博士」
博士は頷き、そのデザインを基に設計図を引き直し始めた。
責任者は作業員に作業停止を命じ、待機を指示する。
――数週間後。
財団の人員が力を合わせ、宇宙船は八割ほど完成していた。
モーヴァのデザインに合わせるように組み替えられ、四人乗りの宇宙船となっている。コンパクトにまとまりながらも精巧な造りだ。
博士の指示で塗装は後回しにされ、飛行テストと宇宙空間での試験が並行して進められる。
責任者も細かい指示を飛ばし、格納庫は慌ただしく動き続けていた。
そこにはもう、止まることのない歯車の音だけが満ちていた。
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