第52話『星空の宇宙船譚⑤』ー宇宙船、モーヴァのもの?ー
コルヴォ博士は、こみ上げる怒りを抑えるため、深く息を吸い、静かに吐き出した。
「ユーマよ、宇宙船は完成している。だが、これからが大事なんだ」
博士はユーマを真っすぐ見つめる。
「安全に飛ばすには、何度もテストして確認しなくてはならない。宇宙空間でも問題がないと証明できてから――ユーマに渡す。まだ渡せないんだ」
モーヴァは頷いた。
「わたし、宇宙船できたから来たよ。わたし、まちがわない」
ユーマも頑固だ。
モーヴァが操縦席から降り、ユーマに声をかける。
「ユーマさん、この宇宙船のデザイン、カッコイイです。わたし、好きです。
でも、ユーマさんがわがままを言うなら――宇宙船、モーヴァのものです!」
ユーマは小さな声で返した。
「わたし、カッコイイ宇宙船好き……モーヴァ……ほしいの?」
「わたしは、ユーマさんに完成まで待ってほしいだけです。ユーマさん、待てますか?」
ユーマは宇宙船を見つめ、少し考えてから頷いた。
「わかった! わたし、待つ」
モーヴァは手を差し出し、ユーマも応じて握手を交わした。
二人の様子を見ていた博士は、静かに告げる。
「始めるぞ、モーヴァ。操縦席に着き、準備しなさい」
こうして、博士とモーヴァの飛行テストが始まった。
――
それから一か月、ユーマは研究所に滞在した。
ユーマはモーヴァから宇宙船の操縦を習い、日本のヒーローについても教えてもらった。
モーヴァはユーマを観察するが、理解しているのか、していないのか分からない。
それでもユーマは宇宙船をちゃんと操縦し、ヒーローポーズまで覚えてしまう。
モーヴァには、それが不思議でならなかった。
博士は研究対象が身近にいることもあり、宇宙船のテストと観察に追われる慌ただしい日々を送る。
やがて宇宙船はユーマの手に渡った。
ユーマは嬉しそうに宇宙船の歌を口ずさみ、モーヴァは紅茶のカップのふたをトントンと叩きながら三人に紅茶を振る舞う。
ユーマはティースプーンを掲げ、変身ポーズをとっておどけてみせた。
別れの時がきた。
ユーマが機体の操縦桿を握ると、宇宙船はふわりと浮き上がった。
そのとき、博士とモーヴァの頭に声が響いた。
〈またね!〉
宇宙船は研究所の上空を二、三回旋回し、空へと飛び立っていった。
博士とモーヴァはその背を見送り、静かに手を振った。
やがてモーヴァは空のカップを片付け、博士は研究室へ戻る。
散らかった机にため息をつき、モニターへ目をやる。
そこには、ある惑星へ向かう航路が映し出されていた。
ハッと顔を上げた博士は、何かを思い出したように呟く。
「……宇宙船が、無い」
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