第47話 後日談『ドロシーの頼み事』

はじめに


本作は、第31話『ハウスキーパー:ドロシー ― モーヴァと過ごす日常の物語 ―』の後日談です。


ドロシーから研究所での役目を引き継いだモーヴァ。


新しい日常が始まり、街の人々との出会いを通して、少しずつ成長していきます。


第31話を先にお読みいただくと、物語をよりお楽しみいただけます。



『ドロシーの頼み事』


昼下がりの陽射しの中、ドロシーは研究所を後にし、自家用車を街へと走らせた。


運転席でようやく落ち着きを取り戻しつつある。


モーヴァのことは心配していない――そう自分に言い聞かせた。


(私が教えたのだから……)


博士はああ見えて、ちゃんとモーヴァを見守ってくれる。多少の失敗なら、大目に見てくれるだろう。


研究所での役目は終わった。


けれど、もう一つだけ残された役目がある。


それは、街の人たちがモーヴァを受け入れてくれるよう、橋渡しをすること。


ドロシーは十年近く街へ通っていた。


顔見知りも多く、相談を受けたことも一度や二度ではない。


だからこそ、モーヴァがこれからお世話になる場所には、自分の後を託しておきたかった。


森を抜けると、午後の陽光に照らされた街の屋根が見えてきた。


ドロシーは小さく息を吐き、車を走らせる。


街へ着くと、まず肉屋のトーマスを訪ねた。


「任せときな!」


豪快に笑うトーマス。


八百屋のベンとキャシーは顔を見合わせ、やさしく微笑む。


「大丈夫。心配しすぎないで」


雑貨屋のトムも快く頷いた。


「お客にも話しておくさ」


その言葉に、ドロシーは胸の力が少し抜けるのを感じた。


帰りに、家で待つ主人のための買い物も済ませる。


その時、トムが思い出したように言った。


「図書館に寄ってってくれよ。うちの息子が勤め始めたんだ」


「あのシャイな子も、もうそんな年になるのね」


「ジョージだよ。大学を出て戻ってきたんだ。司書の資格も取ってね」


ドロシーは図書館へ足を運んだ。


こぢんまりとした建物。


午後の光が差し込み、館内は静かで明るい。


中を覗くと、ジョージが本を整理していた。


昔と変わらない。


けれど背が伸び、声も少し低くなったように思える。


「久しぶりね、ジョージ。誰だか分かる?」


声をかけると、ジョージは眼鏡の奥で目を細め、はにかんだ。


「ドロシーさん。お久しぶりです。何かお探しですか?」


ドロシーは呆れたように笑う。


「トムに教えてもらったのよ!」


ジョージは苦笑し、眼鏡を指で押し上げた。


ドロシーは、モーヴァのことを話した。


ユーマによく似た白い肌を持つこと。


少し変わった外見だけれど、とても素直で頑張り屋なこと。


「その子、図書館にも顔を出すかもしれないの。よろしくお願いね」


「バイオニクス……」


ジョージのレンズが一瞬、光った。


「ヒーローに出てきそうだ……」


ぶつぶつとつぶやくジョージを見て、ドロシーは思わず笑う。


「じゃあ、お願いね」


そう言い残し、図書館を後にした。


「バイオニクスかぁ……」


ジョージはもう一度つぶやくと、本の整理へ戻っていった。


広場では人々が集まり、午後の休憩がてら談笑していた。


ドロシーの姿を見つけると、あちこちから声が飛ぶ。


「またいつでも来てくれよな!」


「そうよ! 相談したいこと、山ほどあるんだから!」


別れを惜しむ声に、ドロシーは笑顔で応えた。


「また来るわよ! その時は、トーマス、ベン、トム! 安くしなさいよ」


広場は笑い声に包まれた。


ドロシーも一緒になって笑う。


「しばらくは旦那と二人か……。でも、そのうち様子を見に来ようかな」


西日に少し赤く染まった空を見上げながら、ドロシーはハンドルを握った。


街はきっとモーヴァを受け入れてくれる。


そう信じながら、旦那の待つ家へと帰っていった。






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