第43話『光の渦(後編)』ー偶然の数値配置ー
次の瞬間、渦が微かに揺らぎ――確かに〈アステロープ〉の方へ迫ってきた。
「ギラン隊長! 距離が縮まってます!」
ボーの声が震える。
艦内の通信パネルが一斉に赤く点滅した。外部との交信が完全に途絶したのだ。
「――通信、断。」
ルルの声は冷静だったが、指先は震えていた。
「干渉波、強度上昇。……渦の波動、艇の推進系と同調しかけています。」
ブイが数値を告げた瞬間、艦内の灯りが揺らぐ。
「このままじゃ――飲み込まれます!」
ボーが叫ぶ。
艦橋に沈黙が落ちる。
渦は呼吸を荒げる生き物のように光を強めながら迫っていた。
「退避する。全員、記録を維持しろ。」
ギラン隊長の短い指示に、全員の声が重なった。
「了解!」
〈アステロープ〉は緊急離脱シークエンスに移行し、推進力を最大にして渦から逃れた。
背後の光は次第に小さくなり、やがて漆黒の宇宙に溶け込んでいった。
「……退避完了。」
ルルの声に安堵が混じる。
ボーは深く息を吐き、肩をすくめた。
「危なかった……。でも、惜しいなあ。もうちょっと近くで観られたのに。」
「禁止事項を忘れたか?」
ギラン隊長の一言に、口を閉じるしかなかった。
そのとき、ブイが無言で解析結果を表示した。
モニターには数列が並んでいる。
だがその配置は、どこか人の顔の輪郭にも見えた。
しかもその表情は、先ほどまでの隊員たちの動揺を映すかのように――
皮肉げに、笑っているようにも見えた。
「……偶然の数値配置。記録には残すが、報告には載せない。」
ルルが冷静に言う。
「えっ! なんでです? 絶対何か意味がありますって!」
ボーが抗議する。
だがギラン隊長は短く告げた。
「観測は十分だ。任務完了。」
艇内には沈黙が戻った。
だが全員の胸に、ひとつの疑念が残ったままだった。
――あれは自然現象なのか。それとも。
光の渦は、すでに遠ざかり、記録の中だけに存在していた。
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