第42話『光の渦(前編)』ー四秒間隔ー

観測艇〈アステロープ〉の格納ベイは、静かな熱気に包まれていた。


副官ルル=サーンは端末を手に、報告様式を確認している。


観測員ボー=ネムマイは双眼観測機器を覗き込みながら、誰に言うでもなく自信を口にした。


「俺に任せてくださいよ。きっと一番に渦の中心を捉えてみせますから!」


技術士コルブイは無言で計器を調整していた。


キーを叩く音だけが小さく響く。


彼にとって重要なのは数字だけであり、仲間の会話はほとんど耳に入っていないようだった。


少し離れた場所では、ギラン隊長が解析部門や記録保存部門の職員と任務の確認を行っていた。


淡々と、抑揚のない声。


「記録の提出は局直轄。報告は形式に従う。逸脱は認められない。」


その背後から、不意に声が飛んできた。


「やあ! ギラン=カーン。久しぶりだな!」


振り返ったギランの視線の先には、逞しい男の姿があった。


カシアン=トト。訓練校以来の旧友(ライバル)だった。


「……カシアン=トトか。十数年ぶりだな。」


「ハハハ! そうだな。噂は聞いてるぞ、英雄ギラン隊長の活躍をな!」


言葉に皮肉が滲んでいる。だがギランは動じない。


「私も、お前が部隊を率いていることは知っている。」


「そうか。俺も有名人ってわけか!」


やり取りを遮るように、観測艇から声が響いた。


「ギラン隊長! 行きますよー! 早く来てください! 置いてきますよー!」


ボーの声だった。


カシアンは肩をすくめて笑い、短く告げた。


「まあ、お互い今はOROBの一員だ。また会うだろう。よろしくな!」


その背を見送り、ギランは無言で頷く。


任務通達(抜粋)


対象:未確認光学現象(通称「光の渦」)


発生位置:外縁宙域、航路外の無人領域


配属:観測員 ボー=ネムマイ、副官 ルル=サーン、技術士 コルブイ、指揮 ギラン=カーン


目的:観測および記録


禁止事項:接触、進入


備考:干渉波により通信障害の可能性あり


〈アステロープ〉のゲートが閉じ、出発シークエンスが始まった。


数時間後、艇は外縁宙域の無人領域に到達する。


漆黒の宇宙に浮かぶ、ひとつの渦――淡い光が螺旋を描き、呼吸のように収縮と拡張を繰り返していた。


「……あれが、光の渦……?」


ボーが息を呑む。


「観測開始。」


ギラン隊長の声が響いた。


「うわぁ……すごい……。まるで光でできた生き物みたいですよ!」


ボーは双眼観測機器を覗き込み、叫んだ。


「うわっ目が……眼の玉が! ギョロっとこちらを見た!」


――見たのか、観えたのか。


厳密にはそう表現すべき曖昧な現象。記録を確認しなければ断定できない。


ルルは淡々と報告する。


「記録開始。外部通信は……微弱な干渉波を検出。通達通り、通信障害が確認されました。」


ブイは黙々と数値を読み上げた。


「……出力波形、規則性あり。四秒間隔で繰り返し……数列化可能。」


モニターに並んだ数列は、自然現象にしては規則的すぎた。


まるで何かの“メッセージ”のように。


(後編へ続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る