第34話『黒猫が朝まで外にいた理由』
洋食屋さんに行く道すがら、ユーマはネコに出会った。
真っ黒なそのネコは、住宅地の道路の端を歩き、ユーマを見つけると近寄って来た。
《やあーユーマ、元気?》
〈こんにちは、ノリ。元気だよ!今もハンバーグ食べに行くところ。ノリは、寒くないの?〉
《寒いよ!早く我が家のこたつに入りたいよ》
〈ハハハ、そうだよね!〉
〈でも、どうして外出してるの?〉
《ユーマもしてるじゃん?》
〈わたし、ハンバーグ定食は日課なんでー〉
《フフフ、日課なんだ。実はさあ……》
ノリが、どうしてこたつから出て外出しているのか、ユーマに話し始めた。
《昨日の深夜?今日になってたかな?
トラが来てさー、今から俺について来いってさー。
暗いし寒いし眠いしでさあー、まあ、トラが言うからついて行ったわけ》
ユーマはチェスターコートのポケットから飴を出すと、包みを開け、口の中に入れた。
《しばらくついて行くと波の音が聞こえてきて、暗闇の中に何人もの人がいるわけ。
そこはさあ、海岸でさあ、海風が吹いてるわけ。
ネコが寒い中、海岸って、シュールでしょ?》
ノリは質問したが、答えは求めていないらしく、話を続ける。
《その内さ、人間のガヤガヤが大きくなり、動きが激しくなったの!
そしたら、トラが「始まるぞ!」って。
誰かが火を付けると、その火が盛大に燃え始めて、あたりが明るくなるの!
そこには、竹が組まれていて、パキパキと音をたてて燃えてるわけ。
激しい炎に空も照らされて……ビックリしたねー》
ユーマの白い息と共に、甘い柑橘系の匂いがする。
《トラは、その顔を見て笑ってるわけ。
周りの人間は、豚汁とか甘酒とか飲んで温まりながら、燃えてる竹を見てるの。
燃えてる竹のおかげか、炎が立ち上がり、煙がモクモクと舞い上がる。
暖かくてさ、しばらく見入ってしまったよ。
トラが尻尾で突っついて、「昇って来たぞ!」って》
ノリがユーマの足元に寄って、チェスターコートの下に来る。
《初めて日の出を見たよ!
暗闇から紫、そしてオレンジ……太陽の光。
まぶしいね!》
〈それは、いいもの見たね!ノリ〉
足元から「ニャー」と聞こえる。
《そう!でもトラのやつ、いつの間にかいなくなってさー。
僕も辺りが明るくなったから帰ったわけ》
ノリは指を舐め、顔を洗う。
ユーマは、足元のノリを見る。
〈ノリさー、今は昼前だよー?
おかしくないですかー、時間がー?〉
《ユーマ、僕を見てよ!
こんな綺麗な僕に、ガールフレンドが居ないわけないじゃん!》
確かに、ノリは綺麗な黒猫だ。
ただ、今はいぶされた匂いがする。
「わたし、男前です!」
ユーマはキリっとした。
《まあーそれぞれ好みがあるからね!
じゃー行くね。バイバイ》
ノリは、尻尾で挨拶しながら去って行った。
「わたし、定食屋で歓迎されているんですよ!」
晴れ渡る澄んだ空気に、冷たい風が吹いている。
ユーマは、あたたかい定食屋さんに向け、歩き出した。
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