第33話『吠えてる理由、ズレてます』

「ワンワンワン! ワンワンワン!」


「うわッ!」

(いきなり吠えるなよ! いつもだよ!)

(そんなに飛び掛かっても、首が締まるだけだぞ!)


吠える犬を見ながら、小走りに通り過ぎる通行人。


「ワンワンワン! ワンワンワン!」


小さくなっていく声が、まだ耳に残る。

あの家の番犬は、うるさいと近所で有名だ。

それでも、家を守るためだと、どこかで納得している人たちもいる。


ユーマは住宅地を歩いていた。

とある家の前に差し掛かると――


「ワンワンワン! ワンワンワン!」


激しく飛びかかろうと、限界まで張られたロープ。

犬は塀の向こうで体を乗り出している。


チェスターコートを翻し、ユーマはその前まで歩く。

塀越しに、犬と対峙する。


《よう! ユーマ。なんか食べ物くれよ!》


ユーマはポケットからあめ玉を取り出し、包みを開けた。

犬の尻尾が激しく振られる。


ユーマは、そのあめ玉をポイっと上に放り上げる。

重力に従い、あめ玉は落ちてくる。


そのまま――ユーマの口に入った。


《なんかくれ! くれ! くれ! くれ!》

《くれ、くれ、くれ、くれ、くれ、くれ》


「……」


ユーマは犬を見つめる。


《くれ、くれ、くれ、くれ、くれ、くれ》

《なんかくれ! くれ! くれ! くれ! そして俺と遊べー》


ユーマはチェスターコートを翻し、歩き出した。


《くれ、くれ、くれ、くれ、くれ、くれ》

《甘い匂いがするぞ! くれ! くれ! くれ! くれ!》


小さくなっていく声を聞きながら、ユーマは思う。


(マックスは、相変わらず食いしん坊だなー。わたし、敵わないかも?)

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