第26話『任務を終えた観察者は、酒場で「妻」を見つけた』

【プロローグ】


ギラン=カーン

所属:宇宙防衛軍「VOID CREW」

コード名:B.T.(Biological Tracker)

能力:変身、透過、観察記録、デバイス操作

性格:冷静沈着、任務至上主義……


報告書に目を通した男は、尋ねた。

「君の推薦する人物に間違いはないが、向こうとの交渉には時間がかかるぞ!」


「構いません。このチームには必要ですから。」


コンピューターが並ぶ室内で、ギラン隊長はモニターに向かっていた。

ほぼ一日がかりだったが、ようやく終わりが見えてきた。

観察任務の報告と、それに伴う資料をまとめ終えると、記録保管室を後にする。


長い任務を終え、ようやく迎える久しぶりの休み。

観測や調査は得意だが、デスクワークは……どうにも性に合わない。


宇宙防衛軍の施設を出ても、気が張ったままだった。

「いかんな……」と、ギランは小さく呟く。


任務の顔から、個人のギランへ。

その切り替えのために、彼が向かう先は決まっている。


「久しぶりだが、やっているかな?」


声にならない呟きとともに、足取りは自然と速まる。


辿り着いたのは――大衆食堂。いや、居酒屋と呼ぶ方が近い。

こじんまりとした、小さな店だ。


「いらっしゃいませ。空いてる席へどうぞ!」


店主のおやじが声をかける。

まだ早い時間のため、客はまばらだった。


ギランはカウンターの一番奥に腰を下ろす。


「いらっしゃい、ギランさん!お疲れさま~。」

店主は笑顔で声をかけてきた。

「今日はどうする?いつもの?」


「マスター、いつもので。」


迷いなくそう答えると、店主は笑いながら奥へ引っ込んだ。


すぐに炭酸のきいたアルコールと豆のつまみ、そしてお通しが運ばれてくる。

「芋の煮物は、もうちょっと待ってね。」


ギランはうなずき、アルコールを一口含む。

張りつめていた体が、じわじわと緩んでいく。


心地よい安堵が広がり――気づけば、グラスも皿も空になっていた。

芋の煮物の器も、もう空だ。


そろそろ帰ろうか――腰を上げかけた時、店主が声をかける。


「常連さんから頂いた釣りたての魚があるんだけど、食べる?サービスだよ。」


ギランは頷き、短く答える。

「いただこう。……それと、もう一杯。」


「あいよ!」と、おやじの声が返る。


間もなく、魚の刺身と炭酸のきいたアルコールが並べられた。


「この刺身の横の、白い細く切ったものは野菜か?マスター、教えてくれるか?」


「それは地球産のダイコンって野菜ですよ。ダイコンのツマです。」


ギランは少し考え、ぽつりと呟いた。


「……この魚にも、白い肌の『妻』がいるんだな。」


――ギランの日常(休み)が、始まった。

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