第20話『同じではなかった日々』

地球に降り立つ機会ができた。


近くを通っただけ――あくまで私用だ。


俺は、日本で暮らしていた場所へ向かった。


足の向くままに歩き、


気づけば、あの頃通っていた学校へと辿りついていた。


――――――


正門は少し錆びていて、


ペンキの剥がれが目立つ。


校舎は塗り直され、


窓も新しくなっている。


だが――


校庭の奥に立つ大きな木だけは、


あの頃のままだった。


幹の傷も、枝ぶりも、


記憶のままにそこにある。


まるで、


時を越えて迎えられているようだった。


――――――


……耳の奥に、


同級生たちの声が響いた気がした。


ノートを見せ合い、


答えを写しては笑い合う。


意味もなく校庭を駆け回り、


転んで土まみれになった日もあった。


給食の時間には、


牛乳をひっくり返して大騒ぎになった。


先生が慌てて雑巾を取りに走り、


みんなで「牛乳くさい!」と笑い合った。


あの匂いまで、


今も鮮明によみがえる。


――――――


みんなと同じように笑っていた。


だが俺は、


自分が“同じではない”と知ったうえで、


その時間を過ごしていた。


――俺だけ、


今も見た目は変わらない。


みんなは大人になり、


それぞれの人生を歩んでいる。


卒業アルバムの最後のページに写っていた顔は、


もう誰一人として、


あのままの姿では存在しないだろう。


――――――


だからこそ、


肌の色も、髪も、瞳の色も、


地球人に合わせた。


「気づかれないように」ではなく、


「気づかせないように」。


仲間でありたかった。


隣で、同じように笑っていたかった。


――――――


校庭を横切りながら、


ふと独り言が漏れた。


「……気づいてないって、いいことだよ。」


――――――


木の影に差し込む光が、


きらきらと揺れている。


風が吹き抜けるたび、


枝葉が擦れ合い、


ざわめきが静かに広がった。


それはまるで、


忘れていた日々を


そっと呼び戻してくるようだった。


――――――


俺は静かに踵を返す。


歩き出した足取りは軽い。


胸の奥にはまだ、


あの日の牛乳の匂いが、


かすかに残っていた。

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