第15話『暴走モーヴァ・前編』(コルヴォ博士の記録)

コルヴォ博士の研究所に、不気味なほど低い機械音が響いていた。


壁に並ぶモニターは青白い光を放ち、その光が中央に立つ人工生命体・モーヴァの無機質な体を淡く照らしている。


「……どういうことだ?」


博士は眼鏡の奥で目を細めた。


普段なら博士の指示どおりに動くはずのモーヴァが、今日は違った。


まるで何かに導かれるかのように、


無言のまま、すっと手を伸ばす。


そして、研究所の壁に指先で奇妙な記号を描き始めた。


その動作は滑らかで、一切の迷いがない。


「プログラムされていない行動……? 制御不能……?」


博士は胸元のレコーダーに小声で吹き込む。


「観察対象、挙動に異常。自律的か、それとも……外部からの干渉か。」


モーヴァの瞳は淡く緑に光り、


まるで別の意思が宿ったかのように冷ややかだった。


それは博士が設計した、ユーマを模倣し忠実な助手とはかけ離れた存在に見えた。


博士は額にじんわりと汗を浮かべながらも、


その視線を逸らすことができなかった。


「……実に、興味深い。」


だがその声には、


いつもの探究心に満ちた余裕とは違う、かすかな震えが混じっていた。


――――――


モーヴァは壁に記号を描き終えると、


踵を返し、研究所の中央にある制御装置へと向かった。


博士が制止の声を上げる間もなく、


モーヴァの無機質な手がスイッチを押す。


「やめろ、モーヴァ!」


制御装置が唸りを上げ、


壁面に埋め込まれた青い光の波が激しく走る。


パネルのランプが次々と赤に変わり、


けたたましい警告音が鳴り響いた。


モーヴァの動きは規則的だった。


まるで誰も見えない指揮者に従っているように、


同じリズムで正確に手を動かし、装置を次々と操作していく。


博士は慌てて手元の端末を操作したが、


制御プログラムはすでに無効化されていた。


「なぜだ……! 設計に誤りはないはずだ……!」


モーヴァの瞳はさらに強く光り、


空中に向かって何かをなぞるように手を動かし始めた。


淡い緑の軌跡が宙に浮かび上がる。


――――――


その瞬間、


研究所の照明が一斉に落ちた。


――――――


暗闇の中で響くのは、


モーヴァの機械音と……


低いうなり声のような、不気味なノイズだけだった。


――――――


けたたましい警告灯が点滅する研究所の廊下を、


静かな影が滑るように進んできた。


黒を基調に、襟と袖口が赤い軍用スーツ。


胸には宇宙平和を守る特殊チームのロゴ。


音もなく宙に浮かび、


ひとりの男が現れる。


「……やはりここだったか。」


低く、鋭い声が暗闇に響く。


博士は振り返る。


「あなたは……誰だ?」


男は一歩、光の中へ踏み出した。


鋭い目が博士を射抜く。


――――――


宇宙防衛軍VOID CREW所属、ギラン隊長だ。」


――――――

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