【取材記録.(匿名)】

 収録:事件から五年後。


「……二年一組の、あの子のこと、ですか」


 少し間を空けて、小さいがはっきりしている声で答える。


「私、でしたけど……直接、あまり目立つタイプじゃなくて。でも、知っていました。とても仲良かったんです。あの子は私とは逆で、リーダーを率先して取るタイプで……でも、どこか壊れそうな雰囲気があって」


(風の音、遠くで車が通り過ぎる)


「……あの学校のこと、今でも聞かれます。どうして、って。でも、私にもよくわからないです。ただ――」


 一度、言葉が止まる。


「変だった、とは思います。あの頃から」


「変、というのは?」

「……うまく言えないんですけど。二年一組も、あそこにいた子たちも……みんな、同じ顔してた気がして」


 少しだけ笑うが、それはすぐに消える。


「笑ってるのに、笑ってないっていうか。ちゃんとやらなきゃ、って……そういう顔。私も、あの中にいたんですけど」


 その言い方は、どこか他人事のようだった。


「……あの時、何をちゃんとやってたのか、今でもよく思い出せないんです。でも、間違えたらだめだっていうのだけは、すごく覚えてて」


 小さく息を吐く音。


「誰かがいなくなっても……あんまり驚かなかった気がします。変ですよね。でも、その時は、それが普通で」


 少し間。


「……ねえ、これ、名前は出ないんですよね」

「出ません」

「……よかった」


 安堵とも違う、力の抜けた声。


「事件のあと、一度だけ、学校に行ったんです。中には入れなかったんですけど、廊下のところまで」


「二年一組の前に?」

「はい」


(風が少し強くなる)


「きれいでしたよ。何もかも片付いてて。机も椅子も、ちゃんと並んでて……次の授業が始まるみたいに」

「人は、いなかったんですよね」


 少しだけ間があく。


「……はい。いませんでした」


 だが、その言い方は曖昧だった。


「でも、変なんです。あの教室の前に立ってると、歌が聞こえる気がして。合唱、してるみたいな」

「録音ではなく?」


「……わかりません」


 かすかに笑う。


「上手でした。……ううん、上手だった気がする、かな」


 遠くを見るような間。


「今でも、思い出すことがあります。あのときのこと。なんで自分があそこにいたのか、とか……なんで、私だけ――」


 言葉が途切れる。


「……ごめんなさい。変なこと言いました」


 最後に、彼女は小さくそう言った。


「……あの子たち、ちゃんと終われたんでしょうかね」


 それ以上は、何も語られなかった。

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