第85話 『大王付き』たちの 大きな悩みと もっと大きな願い

(自筆イラスト)

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ある夜…

私…大王付き従者ヤンは慌てて、遠くのエデ殿に合図する。


エデ殿はさっと柱の陰に隠れる。


…そう!!!

あのシリウス様が!!!

リヒト様を追いかけたのだ!!!


我々「大王付き」は、それぞれ、柱や壁や置物の影から、

固唾を飲んでお二人の様子を窺う。


行って…ほら…ほら…!!!


リヒト様のお部屋まで来ると、

お二人は、扉の所で手をつないでいらっしゃる。


我々はハラハラハラハラ、

もう、ハラハラハラハラ、

ただ、ハラハラハラハラ、

入って!入って!と祈り続ける。


は…

入った―――――!!!!!!!


振り返ると、いつも完璧で、

気配を感じさせない執事のモレルさんが、そっと涙を拭っている。


エデ殿は、部屋から出てこようものなら、シリウス様を叩き戻すために、

近すぎない、失礼にならない位置で、警護に当たる。


同時に、大砲が百発飛んできても、今夜だけはこの大神殿を平穏に保つよう、

ご主人の親衛隊長ダンテス殿のお尻を叩きまくっている。


私は急いで料理長を叩き起こしに行く。


「ま゛!!!!!!」


訳の分からない叫び声をあげて、大神殿の料理長ファリアが飛び起きる。


「来たか!!!

この時が!!!

うっ…嬉し過ぎる!!!!!!」


言うなり、私の腕を掴んで、大神殿の中央キッチンにもつれ込む。


「この朝を夢見て、俺は、構想を練ってきた!!!

大神殿・後朝きぬぎぬコース!!!」


「はいはい、分かった。じゃ、それを準備してくれ。」


「聞かないのか!?その構想を!!!

まあ聞け!!

お二人のしっとりした寝所に、まずは熟成ベリーソースのムースをお届けしてだな…

これはな、最初は甘酸っぱいんだが、その後はどっしりと甘いんだ。

リヒト様が酸っぱい、と言った後に、

シリウス様が、ああ、でもその後が甘いですね、とおっしゃってだな、

本当だ、お腹が空いてるから、すごく沁みるねとリヒト様が言ってだな、

シリウス様が、従者が見てることも気にしないで、

リヒト様に優しく『どうしてそんなに、お腹が空いているんですか?』

と聞くだろ?

そしたら、リヒト様が慌ててそのムースをまた口にするんだ。

そしたら!次のカスタードの味がやって来る。細かくしたカラメルも入っている。

あ、これ、ちょっと違う味だよ!ってリヒト様が振り向いたらな、

カラメルがリヒト様のお口についているから、

シリウス様がそれを舐めてだな、

『本当に違う味ですね?…さすがだな、ファリア?』

ってここでいたずらっぽく俺を見るんだよ!

リヒト様は真っ赤になっているのに、そんときだけちょっと顔を上げて、

『ファリアさん、すごくおいしいです…』

ってポツンと言ってくれるんだよ、

ああ、もう最高じゃないか!?!?」


「お前、よくそんなに喋れるな…

…まあ…控えめに言って最高だな…」


「ここでだよ!

シリウス様は、あんなに美形でシュッとしてるのに、大食漢だろ?

でも、リヒト様は食が細いし…

あのシリウス様に一晩中抱かれて、フラフラだと思うんだよ。

え?…いや、絶対、あの方は一晩中だよ!つぇぇもん!

んでな、

リヒト様のお食事の方は、基本的に『シリウス様にアーンする用』として、

小分けにして、ピックを差しておくんだよ。

リヒト様ご自身も食べやすいしな。

『ファリアがわざわざ、小分けにしてくれたんですからね?』

って、シリウス様が『アーン要求』してだな…

ほかにも、ちょっと、猫と鼠にアレンジした野菜や果物を添えてだな、

『僕が猫を食べましょう…さっきたくさん食べたばかりですけど?』

ってシリウス様がリヒト様に言うだろ?

リヒト様は取り合わずにさっさと鼠をもしゃもしゃ食べるんだよ。

そしたら、シリウス様が『今夜は僕のネズミを食べてください。』とか綺麗な顔でささやくから、

とうとうリヒト様が『シリウス!!!』ってプリプリ怒り出して…

てなときに、温かい、エクウス特産のニンジンポタージュを出すんだよ。

熱々のな?

リヒト様はすぐにパァッと笑って『ファリアさん、糖人参ですか?嬉しい!』って、

プリプリしていたことも忘れて、フゥフゥするわけ。

そんなリヒト様を、眩しそうに、シリウス様が見惚れてるわけ。

どうだ、最高だろ?」


「いや、お前なァ…


…クソ、最高すぎるな…」


「だろう!!!!!

まだまだあるんだが、時間切れだ!!!

今日はこのまま徹夜だ!

最高の後朝きぬぎぬモーニングを提供するぜ!!!!」


中央キッチンに消えて行く料理長を見送ると、急いで、リヒト様の部屋の近くに戻る。


良かった…お二人で過ごされているようだ…


ん…?


どうも、お部屋の中が騒がしい気がする。


シリウス様の変化やリヒト様の獣化を知っているのは、

大神殿では、「大王付き」と言われる、大王に血の誓約をした数名の従者や親衛隊などだけ。

私ヤンもその一人だが、

この喧騒が、変化や獣化のせいなら、命に係わる大問題…


しかし…

シリウス様は、あの清潔な美貌からは想像もつかないくらい、お元気な方だ。

もちろん、リヒト様に出会ってからですが…


リヒト様が大神殿を去ったときには、リヒト様が寝ていたシーツと枕を自室に持ち込まれて、

大事に「お使いに」なっていた。

(今は、リヒト様がいらっしゃるので、「使って」おられないようですが、

大事なものなので、クローゼットにこっそりしまっておられる…)


もちろん、我々の目の前で何かするわけでは絶対にないですが、

シーツや何やら、大王付きにはさすがに色々と分かってしまう。


そんな元気な16歳の最強大王ですから、

それなりに…いいえ、相当な音がすると思うので、

一概に獣化だ変化だと心配してお部屋に伺うのは、あまりにも野暮。


エデさんも、執事モレルさんも、同じことを考えているようで、

ハラハラハラハラ、固唾を飲んでいる。


その後も、喧騒が聞こえたり、静かになったりを繰り返すので、

我々は、もうこれは、確実に、

アチラの音だと安心して、白む空を満足して見つめながら、

大王付き以外が専用通路に入らないよう警戒します。


が…


扉からスルリと出てきたのは…

エッ?


乱れのない官吏の服を着たリヒト様。

我々は、ギクリとしながら馳せ参じる。


…結果は…

獣化に変化に、

「死ななかったからよかった」というレベルのお話。

後朝きぬぎぬだのなんだのとは程遠い…


まだ張り切っているだろう料理長にどう言おう…


**********

我々も、そういった繋がりが全てではないことはよく分かっています。


でも、毎日のようにやって来る、

婚約やお見合いの手紙、訪問者…

貴族、資産家…いずれも立派な家格のお姫様、お嬢様、お子様、年上の女性…

美しく描かれた、女性の絵画…

着飾ったご本人…


少しでも気を抜くと、リヒト様は吹き飛ばされてしまう。


それくらい、平民の、身寄りもない…

しかも、一部では差別の対象にもなっている猫族フェリス

さらに、獣化して…実際にシリウス様を襲ったこともあり、

これからも襲う可能性のあるリヒト様は、

結婚という意味では、あんまりにも弱いお方だ。


正妃どころか、側妃にすらなれない…普通に考えると、そうなります。


もう、それが、つらくてつらくて、

あまり考えるのが得意ではない大王付きの我々は、

せめて、身体くらい、つながって欲しいと願ってしまうのです。


それが、いっときの幸せでも…

きっかけになるかもしれないじゃないですか…

お二人の、末永い幸せの、きっかけに。


***********

今回もまた、それは、お預けになりました。


でも、お部屋から出てきて、今日のシリウス様のご予定を聞くリヒト様は、

不思議と、晴れ晴れとして、

シリウス様を大事に思うお気持ちに溢れていらっしゃる。


今夜のお二人の出来事は、

今後のお二人の幸せの、

きっかけになったのでしょうか?


もしそうなら、陰ながらお二人を守る我々も、幸せです。


ああ、ファリアに言いましょう。


お前の作ったベリーのムースは、やはり、

今日のモーニングとして、お二人に出そう、と。


いずれにしても、祝ってあげたい、後朝きぬぎぬなんですからね…?


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