第85話 『大王付き』たちの 大きな悩みと もっと大きな願い
(自筆イラスト)
https://49745.mitemin.net/i1107452/
ある夜…
私…大王付き従者ヤンは慌てて、遠くのエデ殿に合図する。
エデ殿はさっと柱の陰に隠れる。
…そう!!!
あのシリウス様が!!!
リヒト様を追いかけたのだ!!!
我々「大王付き」は、それぞれ、柱や壁や置物の影から、
固唾を飲んでお二人の様子を窺う。
行って…ほら…ほら…!!!
リヒト様のお部屋まで来ると、
お二人は、扉の所で手をつないでいらっしゃる。
我々はハラハラハラハラ、
もう、ハラハラハラハラ、
ただ、ハラハラハラハラ、
入って!入って!と祈り続ける。
は…
入った―――――!!!!!!!
振り返ると、いつも完璧で、
気配を感じさせない執事のモレルさんが、そっと涙を拭っている。
エデ殿は、部屋から出てこようものなら、シリウス様を叩き戻すために、
近すぎない、失礼にならない位置で、警護に当たる。
同時に、大砲が百発飛んできても、今夜だけはこの大神殿を平穏に保つよう、
ご主人の親衛隊長ダンテス殿のお尻を叩きまくっている。
私は急いで料理長を叩き起こしに行く。
「ま゛!!!!!!」
訳の分からない叫び声をあげて、大神殿の料理長ファリアが飛び起きる。
「来たか!!!
この時が!!!
うっ…嬉し過ぎる!!!!!!」
言うなり、私の腕を掴んで、大神殿の中央キッチンにもつれ込む。
「この朝を夢見て、俺は、構想を練ってきた!!!
大神殿・
「はいはい、分かった。じゃ、それを準備してくれ。」
「聞かないのか!?その構想を!!!
まあ聞け!!
お二人のしっとりした寝所に、まずは熟成ベリーソースのムースをお届けしてだな…
これはな、最初は甘酸っぱいんだが、その後はどっしりと甘いんだ。
リヒト様が酸っぱい、と言った後に、
シリウス様が、ああ、でもその後が甘いですね、とおっしゃってだな、
本当だ、お腹が空いてるから、すごく沁みるねとリヒト様が言ってだな、
シリウス様が、従者が見てることも気にしないで、
リヒト様に優しく『どうしてそんなに、お腹が空いているんですか?』
と聞くだろ?
そしたら、リヒト様が慌ててそのムースをまた口にするんだ。
そしたら!次のカスタードの味がやって来る。細かくしたカラメルも入っている。
あ、これ、ちょっと違う味だよ!ってリヒト様が振り向いたらな、
カラメルがリヒト様のお口についているから、
シリウス様がそれを舐めてだな、
『本当に違う味ですね?…さすがだな、ファリア?』
ってここでいたずらっぽく俺を見るんだよ!
リヒト様は真っ赤になっているのに、そんときだけちょっと顔を上げて、
『ファリアさん、すごくおいしいです…』
ってポツンと言ってくれるんだよ、
ああ、もう最高じゃないか!?!?」
「お前、よくそんなに喋れるな…
…まあ…控えめに言って最高だな…」
「ここでだよ!
シリウス様は、あんなに美形でシュッとしてるのに、大食漢だろ?
でも、リヒト様は食が細いし…
あのシリウス様に一晩中抱かれて、フラフラだと思うんだよ。
え?…いや、絶対、あの方は一晩中だよ!つぇぇもん!
んでな、
リヒト様のお食事の方は、基本的に『シリウス様にアーンする用』として、
小分けにして、ピックを差しておくんだよ。
リヒト様ご自身も食べやすいしな。
『ファリアがわざわざ、小分けにしてくれたんですからね?』
って、シリウス様が『アーン要求』してだな…
ほかにも、ちょっと、猫と鼠にアレンジした野菜や果物を添えてだな、
『僕が猫を食べましょう…さっきたくさん食べたばかりですけど?』
ってシリウス様がリヒト様に言うだろ?
リヒト様は取り合わずにさっさと鼠をもしゃもしゃ食べるんだよ。
そしたら、シリウス様が『今夜は僕のネズミを食べてください。』とか綺麗な顔でささやくから、
とうとうリヒト様が『シリウス!!!』ってプリプリ怒り出して…
てなときに、温かい、エクウス特産のニンジンポタージュを出すんだよ。
熱々のな?
リヒト様はすぐにパァッと笑って『ファリアさん、糖人参ですか?嬉しい!』って、
プリプリしていたことも忘れて、フゥフゥするわけ。
そんなリヒト様を、眩しそうに、シリウス様が見惚れてるわけ。
どうだ、最高だろ?」
「いや、お前なァ…
…クソ、最高すぎるな…」
「だろう!!!!!
まだまだあるんだが、時間切れだ!!!
今日はこのまま徹夜だ!
最高の
中央キッチンに消えて行く料理長を見送ると、急いで、リヒト様の部屋の近くに戻る。
良かった…お二人で過ごされているようだ…
ん…?
どうも、お部屋の中が騒がしい気がする。
シリウス様の変化やリヒト様の獣化を知っているのは、
大神殿では、「大王付き」と言われる、大王に血の誓約をした数名の従者や親衛隊などだけ。
私ヤンもその一人だが、
この喧騒が、変化や獣化のせいなら、命に係わる大問題…
しかし…
シリウス様は、あの清潔な美貌からは想像もつかないくらい、お元気な方だ。
もちろん、リヒト様に出会ってからですが…
リヒト様が大神殿を去ったときには、リヒト様が寝ていたシーツと枕を自室に持ち込まれて、
大事に「お使いに」なっていた。
(今は、リヒト様がいらっしゃるので、「使って」おられないようですが、
大事なものなので、クローゼットにこっそりしまっておられる…)
もちろん、我々の目の前で何かするわけでは絶対にないですが、
シーツや何やら、大王付きにはさすがに色々と分かってしまう。
そんな元気な16歳の最強大王ですから、
それなりに…いいえ、相当な音がすると思うので、
一概に獣化だ変化だと心配してお部屋に伺うのは、あまりにも野暮。
エデさんも、執事モレルさんも、同じことを考えているようで、
ハラハラハラハラ、固唾を飲んでいる。
その後も、喧騒が聞こえたり、静かになったりを繰り返すので、
我々は、もうこれは、確実に、
アチラの音だと安心して、白む空を満足して見つめながら、
大王付き以外が専用通路に入らないよう警戒します。
が…
扉からスルリと出てきたのは…
エッ?
乱れのない官吏の服を着たリヒト様。
我々は、ギクリとしながら馳せ参じる。
…結果は…
獣化に変化に、
「死ななかったからよかった」というレベルのお話。
まだ張り切っているだろう料理長にどう言おう…
**********
我々も、そういった繋がりが全てではないことはよく分かっています。
でも、毎日のようにやって来る、
婚約やお見合いの手紙、訪問者…
貴族、資産家…いずれも立派な家格のお姫様、お嬢様、お子様、年上の女性…
美しく描かれた、女性の絵画…
着飾ったご本人…
少しでも気を抜くと、リヒト様は吹き飛ばされてしまう。
それくらい、平民の、身寄りもない…
しかも、一部では差別の対象にもなっている
さらに、獣化して…実際にシリウス様を襲ったこともあり、
これからも襲う可能性のあるリヒト様は、
結婚という意味では、あんまりにも弱いお方だ。
正妃どころか、側妃にすらなれない…普通に考えると、そうなります。
もう、それが、つらくてつらくて、
あまり考えるのが得意ではない大王付きの我々は、
せめて、身体くらい、つながって欲しいと願ってしまうのです。
それが、いっときの幸せでも…
きっかけになるかもしれないじゃないですか…
お二人の、末永い幸せの、きっかけに。
***********
今回もまた、それは、お預けになりました。
でも、お部屋から出てきて、今日のシリウス様のご予定を聞くリヒト様は、
不思議と、晴れ晴れとして、
シリウス様を大事に思うお気持ちに溢れていらっしゃる。
今夜のお二人の出来事は、
今後のお二人の幸せの、
きっかけになったのでしょうか?
もしそうなら、陰ながらお二人を守る我々も、幸せです。
ああ、ファリアに言いましょう。
お前の作ったベリーのムースは、やはり、
今日のモーニングとして、お二人に出そう、と。
いずれにしても、祝ってあげたい、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます