第15話(重複投稿)
俺はスマホを見て時間を確認した。あと10分程度でレインは来るだろうか。なんだかそわそわしてきた。
レインが来たらなんて反応をしようか。浴衣を着てお洒落をしてきていたら、「似合う」とかいうべきなのかもしれない。でも照れくさくなってどうせ何も言えないだろう。
それより、不安なのは翔太と圭だった。嘘の場所を教えたとはいえ、ここから遠く離れているわけではないのですぐに見つかる可能性が高い。尾行されるのは仕方ないとして、仮にレインが異変に気付いて後ろを振り返ったりしたらどうなるだろうか。
俺たちが何かを企んでいるなんてすぐにばれるだろう。そうすれば俺は終わりだ。
嫌だ。レインに嫌われたくない。わがままだろうけど俺はレインに嫌われたくない。本当に最悪だ。関わるまでは散々蔑んだというのに。
色々考えを巡らせて心配をしていたところに背後から声をかけられる。
「旭くん!お待たせ!」
レインの声だった。ドキッとして俺は振り返る。
そこには紫色を基調とした浴衣に身を包んだレインが俺に向かって手を振り、小走りでやってきている。今日は髪の毛を簪で後ろで一つにまとめ、薄く化粧をしてきているようだ。手には巾着を下げてきている。
「お、おう。やっと来たか。」
あまり目を合わせられずに話しかけた。
「ごめんね、おばあちゃん、着付けしてくれてたんだけど途中で体調が悪化しちゃって…。でも、何とか間に合ったから!」
レインはそう言うと、夏祭り会場を見渡した。
「すっごい…。ここに来たのは5年ぶりだけど、相川らず人が多いね…。やったぁ!りんご飴とか、水あめが売ってるんだ!ね!早く行こうよ。」レインは無邪気にそう言って俺の手を握ってきた。
レインの手を握ったのは初めてだ。思っていたよりも指が細くて長い。そして、滑らかな肌をしている…。反対に俺の手のひらは今手汗がひどくてレインにとっては不快だろう。
「浴衣、良いね。」レインは歩き出して言う。「あ、ありがと。昔父親…、じゃなくて叔父さんが着てたやつらしい。歩きずらいし、帰ったらすぐ脱ぐつもりだけどな。」俺は俯きがちに言った。
「レインも、今日すごい、良いと思う。」何とか言葉を絞り出した。それだけ言って俺は顔を背けて屋台のほうを見た。
「ありがとう。」レインが嬉しそうに言った。
「あ!りんご飴!」レインはりんご飴を売ってる屋台の列に並んだ。「一本300円もすんのかよ。」やっぱり祭り会場の屋台はどこも値段が異常なくらい高い。
「高い…。でも、夏祭りで食べると一味違うんだよ。」レインはそう言って300円を屋台のおじさんに渡す。りんご飴を渡され、一口かじった。
「甘い…。やっぱりおいしいなあ。」幸せそうな顔を浮かべるレインの顔を直視できずに俺は「そうか。じゃあ、次は射的なんかやってみないか?」と言って先に歩き出した。
射的では、俺はかなり下手くそで10円ガムしか当たらなかった。渋々受け取り、10円ガムの包みを開いて口に入れる。ブドウ味だった。
「次はチョコバナナ食べてもいいかな。」レインは食べ物ばかりだ。「ちょ、甘いもの食べすぎだって。」俺がフッと笑って言った。
「いいじゃん。それより、旭くんなんかさっきから何も口にしてないじゃん食べないと!」そう言って俺をチョコバナナ売り場まで連れて行った。
チョコバナナは一本400円。高いなと思いつつ、財布を開いてチョコバナナを買う。一口食べてみると思っていたより美味しかった。数年前に秋祭りで食べた時には微妙に感じていたが…。
俺がちびちび食べるのに対してレインは四口程度で食べ切ってしまった。「美味しいね。」そう言ってレインはスマホを取り出してチョコバナナを食べる俺を写真に収めた。
「ちょっ、今絶対変な顔してる…。」俺が顔を赤くして言うとレインは「大丈夫だよ。すっごく、かっこよく映ってたし!」と茶化す。
「な、舐めるなって。んなことより、その写真後でくれ…。」首筋を搔きながらお願いをした。
「分かった。何で送ればいい?って…そういえばうちら、連絡交換してなかったよね。」「あ、そうじゃん!ちょっと待って、今食べたら教えるから…。」そう言って俺はスマホをポシェットから取り出そうとしたその時…。
喧騒の奥の方に、圭らしき人影が見えた。どうやら俺たち二人を探しているようだ。俺は慌ててレインの手首をつかみ、「あっちの、静かなとこ行こうよ。」と言って木陰に身をひそめることにした。「どうしたの?」「いや、声が聞こえにくかったし…。」そう言ってスマホを取り出すと…。
突然翔太から着信が来た。「あ、ごめん。家族から電話…。あっちで話してくる。」そう言って俺は喧騒から少し外れた場所に移動し、電話に出た。
「もしもし、どうしたんだ。」
「どうしたって、お前どこだよ。言われたとこ行ったけどいないじゃん。」翔太が苛立ち紛れに聞いてくる。
「ああ…。」
「ああって、とぼけるなよ。しっかり嘘告白の現場を見させてもらうつもりでいるんだぞ。」
嘘告白…。そんなものやってたまるか。嘘の気持ちじゃないんだ。踏みにじりやがって。
俺はもう、嘘告白なんて馬鹿げた最低な計画を実行しないことに決めた。やったって、どうせあの二人には追い付けないんだ。
「そのことか。それなら…。」
「なんだよ、早く言えっての。」
「俺、嘘告白しない。」「は?どうし…」
それだけ言うと、俺は翔太の止める声も聞かずに電話を切ってマナーモードに設定してポシェットにスマホを投げ入れた。
「ごめん、ちょっと時間かかった。行こうか。」俺はレインの元に歩いて行った。「大丈夫。それより、花火っていつからだっけ…。
俺は遠くにおいてある時計台を目を細めて見つめる。「あと、一時間もないくらいかな。」「そう。それまで、何して過ごす?」
「うーん。まあ、適当に回ろうよ。」俺は清々しい気持ちでレインの手を取り、喧騒の中に入っていく。
嘘告白をやめたことにより、俺は翔太や圭からの反感を買い、二学期からどんなことが始まるのだろうか。もしかしたら翔太は新しいやつをグループに入れ、俺を追い出してターゲットにする可能性もある。嘘をばらまき、クラスで孤立させるかもしれない。最悪物を壊されたり、金をとられたり。
でも、もういいんだ。中学校なんてどうせあと半年で終わるんだし、行事ももうない。今の俺には受験しか残っていない。
この後、翔太がどう動いてくるかは分からない。少しでも長くレインと夏祭りを歩いて回りたい。誰にも邪魔をされたくない。
一緒に花火も見たい。
そして、最後には…。まあ、後のことは流れに身を任せるしかないのだろう。
「次は、水あめがいいな。」レインは水あめの屋台を指さして言った。「わかったわかった。行こう。」レインの手を引いて水あめの屋台の列に二人で並んだ。
改めて夏祭り会場を見渡すと遠くの方では囃子がやっていて、僅かに笛の音や太鼓の音が聞こえてくる。多くの提灯で装飾され、眩しい。
あとどれくらい、この時間を満喫できるのだろうか。
「ねえ、夏祭り終わったら丘のほうに寄らない?」「いいな。」俺は笑顔で返した。
一方、ある人物は「今日の楽しみが一つ消えた。」と頭を悩ませている。「でも、もう一つあるからな…」そう言って俺は陽葵ちゃんの方を見た。
「先輩、気難しい顔してどうしたんですか。」
「いや、何でもない。ねえ、次は何が食べたい?俺が奢ってやるからさ。」
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