第16話(重複投稿)

 嘘告白をしない。その言葉を聞いた途端、俺はまず最初に「は?」と思った。この俺に、あいつは逆らうというのか。ふざけるな。


この日をどれだけ俺は楽しみにしてきたと思っているんだ。止めようとしたのも束の間。電話を先に切られてしまった。


まさか、あいつが嘘告白をしないという選択を取るとは思わなかった。あんな地味な女と仲良くさせられて、早く噓告白をして関係を断ちたいと思ってるんじゃないのか。まあ、あいつの気持ちは正直どうでもいい。


俺の一番の楽しみが減ったことがなにより不服だ。勉強も頑張ってきたというのに。見せてくれよ。あの女の顔が絶望に染まる顔を。中二の時、俺にたてついた罰だ。


稲城はあの日、廊下で出会うまで俺は殆ど見たことがなかった。学校に地味な女子は一定数いたしそのうちの一人という認識に過ぎなかった。


一人ずつ地味な奴で遊んで、飽きたらやめる。それを繰り返してきたんだ。別にいいだろう。俺は楽しいし。


圭は小6のころから友達で、あいつは俺のノリにいつも乗ってくれていた。


中学に入って一緒にサッカー部にも入り、あいつはキャプテン、俺は副キャプテン。いつも一緒だった。


中二になって旭に出会った。まずあいつを見て最初に思ったことは「こいつは自分に自信がなさそうだ。」ということだった。


あいつはいつも不安そうな表情をしている。委員会などの役職につくこともなく、あまり名前すら聞いたことがなかった。


でも、陰キャだという印象は抱かなかったので普通に話してみようという気になった。


「なあ、あいつっていつも変な絵描いてないか?」四月、旭にそう話しかけてみた。


するとあいつは大して驚く素振りも見せずに「だよな。だよな。俺も思ってた。」と乗ってきた。


やっぱり自分に自信がないやつは自分より下の奴を見つけて愉悦感に浸りたいのだろう。面白いと思ってその日以降、俺、圭、旭の三人で絡むようになった。


俺がクラスの地味な奴のことをからかったり、何かをしたりするたびに旭は口を手で押さえて笑いを堪える。


その反応を見ると、俺は「もっと惨いことをして笑わせたい。」という気持ちが高まり、調子に乗っていった。


圭も旭のことをよく気に入り、三人で夏祭りに行くこともあいつが提案した。二年の一年間は本当に最高だった。


三年になっても三人で同じクラスになり、「勝った。」と思った。圭はいつも一緒に笑ってくれるし旭は金を貸してくれたりものを取ってきてくれたりする。


そして、俺はその真ん中で威張れる。


なんて最高なポジションだろうか。


稲城の嘘告白も、ほんの些細な楽しみとして提案した。思っていたより二人がビビっていたのは納得がいかなかったが。罰ゲームは受けるやつも、見る側も楽しい。そう思って実行した。


正直、俺はやりたくなかったので旭がやることになってかなり安心した。自分に自信のないやつが、地味な奴に絡みに行く。なんて滑稽だろうか。


旭は思っていたよりあいつとの距離を縮めてついには夏祭りに誘うことも成功させていた。


この時、俺は初めてあいつを見直した。大した奴じゃないと見くびっていた。


それなのに、突然嘘告白を断りやがった。一体稲城とどんな関係になってやがる。そう考えるだけで虫唾が走る。


でも、今日はあの可愛い陽葵ちゃんと夏祭りにこれた。まあ、陽葵ちゃんは友達を連れてきているが…。


その友達の女子は目が重い一重で細い目をしていて鼻も丸っこいし、口もおちょぼ口だ。


頑張ってお洒落をしているようだがどうしても陽葵ちゃんの引き立て役になっている。


圭も一緒に来て、四人で回ることにした。陽葵ちゃんの友達の安曇野(あずみの)は浴衣を着てきているが陽葵ちゃんはノースリーブの丈の短いワンピースで着ている。髪は巻いており、まるでギャルのようだ。


今日は一段と化粧が凝っている。


「陽葵ちゃん、俺が金魚取ってやろうか?」俺が挑発的な意味を込めて言う。「えー、いいんですか?」陽葵ちゃんは体を揺らしながら言う。


揺らした際、胸も大きく揺れる。なんてでかいんだ。


「いいよ。取ってあげるからこっち来な。」俺は陽葵ちゃんと二人になろうと、金魚すくいコーナーへ向かうも安曇野が


「津山先輩、私も行きます。」とガサガサの声でついてきやがった。


俺は女子二人に見えない角度で圭にSOSを求めた。


(こいつをどっかにやれ…)圭は俺の目を見て何かを察して安曇野に「ねえ、俺と二人であっち回らないか。」と言い、連れて行ってくれた。


流石だ。圭は頼りがいがある。これで陽葵ちゃんと二人で満喫できるだろう。ただ、旭たちを見つけたら圭を呼ばないとな。


今のところは嘘告白をやめたことに大してそこまで怒ってはいない。どうせ、あんな地味な女とこれからも仲良くして付きまとわれたりするのはあいつなんだ。


仲良くはしてやるが今までとは扱いが変わるかもしれない。


「先輩、得意なんですか?」陽葵ちゃんが聞いてきて俺は「ああ、得意だって。俺にできないことはないよ。」


そう。俺は小学校中学年の頃に身長いじりをされて以降身長以外の弱みを作りたくなかったので勉強を頑張り、外部のサッカークラブで一生懸命練習をして試合で活躍したり、図工の授業もこなしていた。


五、六年生にもなると、みんなが認めてくれるようになって俺はつい天狗になってしまった。地味な奴で憂さ晴らしを始めたのはこのころからだった。


圭と出会ってからは毎日が最高だった。五年の時にはクラスの変わってる男子の絵具セットをぶちまけたり、体操着を泥に投げ入れたりしてそいつの反応を見て楽しんでいた。


先生にばれないようにやっていたので結局犯人捜しは断念されてそいつは不登校になった。なんていうか、達成感があった。


まともじゃないくせに飄々と生きている奴を懲らしめて萎縮させる。最終的には学校に来なくなる。


これが本当に面白くて六年の時には他クラスの奴含めて三人を不登校にした。一人は二週間程度で復活しやがったが完全に委縮してやがった。


中一の時には女子をいじめることの楽しさを見つけた。クラスの一人の女子を不登校にさせた。大したことはやっていなかったと思う。


その女子の横を通り過ぎるときに机を蹴飛ばしたり、筆箱の中に入っているシャーペンや消しゴムを校庭に投げたり、掃除の時にゴミをかけたり。


本人も気づいてたけど委縮して先生に相談すらしなかった。いやあ、最高だったよ。


二年では二人も、クラス内で不登校にさせて。


俺は中二の時は生徒会に入っていたし、先生たちからは決して疑われなかった。


いや、中には言いつけている奴もいたと思うが俺の母親はPTAに入っていて面倒なことになると思われたのだろう。殆ど生徒指導室に呼ばれたことはない。


だからここまでやってこれたんだ。全ては自分の努力のおかげなんだ。


俺は勉強も運動もできておまけにコミュ強ですぐに女子を口どける。

陽葵は今のところできていないが、今日やってやるんだ。


「ほいっ!できた!」俺は金魚すくいで五匹目を捕まえた。

「先輩、すごい!」陽葵ちゃんが横で小さく拍手をして目を輝かせている。俺の頑張っている様子を身をかがめてみてくる。


その際、胸元が広がり、谷間が覗く。(今日、ここで口どいて夜どこかで…。)そんなことを考えながら陽葵ちゃんの大きくて綺麗な平行二重の目を見つめる。少し目を上げ、俺の顔を見てくる。


「あと、二匹は頑張る!」

「すごいすごーい。」


俺は結局六匹までで終わった。陽葵ちゃんに金魚の入った袋を手渡した。

「ほら、やるよ。」


「あ、ありがとう、ございます…。」

なんだか反応が微妙だった。すると、背後から安曇野のガサガサした声が聞こえてきた。


振り返ると、圭が「ごめん。」とでも言いたげな顔で苦笑いをしながらこちらに歩いてきている。安曇野はほぼ小走りでこちらに向かってきていた。


「うわ、陽葵、そんなにとっちゃったの。」安曇野が細い目を頑張って見開いて驚いた声を出している。


「違う違う。私じゃなくて津山先輩がとったの。すごいよね…。」

「わあ、すごい!流石!」


「あ、ありがとよ。」安曇野みたいなブスに褒められても大して嬉しくないんだ。


「でも、すみません。私の家、こんなにたくさん金魚を入れられる入れ物がなくて…。誰かに譲ってもいいですか。」


陽葵ちゃんはそう言って申し訳なさそうな顔をした。


俺の努力を捨てられたようなものだと思ったが「ああ、平気だよ。ほら、圭…」と言いかけて圭に渡させようとしたが安曇野が間に入ってきて「私がもらってあげます。」と言って陽葵ちゃんから半分奪い取る形で手に持った。


「大切に、大切に育てますね。」安曇野はめちゃくちゃ近づいてくる。


「あ、わかった。」冷たく言い返したつもりなのにあいつには届いていない。気持ち悪いな。


「トイレ、行ってくるから待っててくれ。圭、行こうぜ。」俺はそう言って圭と一緒に公園内の公衆トイレに並んだ。



並んでいる最中、俺は口を開いて早速愚痴を言った。

「はあ、まじあの女邪魔だわ。なんだっけ…。」


「あ、あずみの?かな。だよな。うざいのが俺を前にして早くお前のほうに行きたいってずっと言ってやがって…。」圭も俺に賛同したが、少しずれている。


「違う、そうじゃねぇんだ。あいつさ、ブスのくせにかわいいって勘違いしてめっちゃ俺に絡もうとしてくんのよ。それがうざいんだわ。」と俺はため息を吐いた。


「ああ。なるほどな。確かに、頑張って可愛くなろうとしているように見えるわ。」

圭はやっとわかってくれた。


「だろ。がちうぜえ。陽葵ちゃんだけくんのかと思ったのに。なんであんなブスと付き合ってんだよあの子。」

「まあ、絆が深いんじゃねーの。」圭は耳を掻きながら呑気そうに言った。


「俺的には陽葵ちゃん、旭に気がありそうに見えたけどな。」

圭が突然ぽつりとつぶやいた。


「は?何言ってるんだよお前。んなわけ…。」まあ、その可能性は多少はあるだろう。旭は自信なさげな表情をしているが二重瞼だし、鼻も高い方だしフツメン以上だろう。


「まあ、いいよ。あいつは地味子ちゃんとゴールインだろ。」


今正直旭たちのことより陽葵ちゃんをどうやって俺に完全に心を開かせるかのほうが問題だ。まあ、軽そうな女に見えるしすぐにいけるだろう。


「そうかなあ。陽葵ちゃんってさ、でかいよな。」圭が鼻の穴を膨らませて言った。

「だろ?でかいよな。何サイズあんだろ、あの子。」


中一のころに、スキー教室で二泊三日間の校外学習の時、俺と圭の数人のグループで風呂上がりの女子の胸元を見て「あいつはどれくらいあるか。」を予想しながら歩いたりしていた。


地味な女子が実は胸が大きいということはあまりなく、俺はわざと地味な地味な女子の前で通り過ぎざまに「AAカップ」と言ったりしていた。


その女子は泣きそうな顔で去っていく。本当に面白かった。


「いやあ、あれはCかな。」「は?何言ってんだ。Cなんて序の口、Eはあるだろ。」


「え?中学生でそれはないだろ。いやあ、それよりその中身…。」


「おい、トイレ空いたぞ。」

俺は圭にトイレに入るよう促した。全く、男子トイレでもこんなに混むことがあるなんて。


トイレを済ませた俺たちは陽葵ちゃんたちと再び合流した。たまたま歩く際に陽葵ちゃんと横に並んで二人で歩けた。


陽葵ちゃんが、前髪を気にして腕を上げる。僅かに見える脇に目が吸い込まれる。


と、陽葵ちゃんの手首にカッターか何かでついた切り傷の跡が数本見つかった。


なんだろうか。前にSNSで見たリストカットの跡にも似ている。


俺は冗談めかして「可愛い子が、傷なんて残すなよ。」と声をかけた。単なる冗談。


そう思ったが陽葵ちゃんは突然顔を曇らせて「そ、そうですか…。でも、仕方なかったんです。」と小さい声で答えた。


急に暗い雰囲気になるのは嫌だ。俺は笑かそうとして言った。「まさか、病んでやっちゃったとかじゃないよな。はは…。」

だが、陽葵ちゃんはいきなり声色を変えていった。「な、なんて今…。病んでいた…。面白いんですか…?」


突然の変貌ぶりに俺は驚いた。「え?冗談だって。」

「冗談?病んで、苦しんでいることがおかしいっていうんですか?」


すると背後から「ひ、陽葵!」と焦る安曇野の声が聞こえてきた。背後から彼女の肩に手を置いた。


「おかしいって、別に笑っちゃいないよ。いや、君は病んだりしてないと思ったというか…。」俺は言葉選びに困った。


「私のことを何も知らないのに、勝手に色々言わないでください。病んでるとかなんとか…。そんな容易い言葉で傷つけないでください。」

陽葵ちゃんはさっきの顔と打って変わって眉間に皺を寄せて言った。


「な、そんなつもりはない。何かあるなら…。」

安曇野が突然俺に耳打ちをしてきた。

「陽葵のこと、何も知らないのに言わないでください。これ以上は黙ってください。」


「なんだよ。何かあるなら言ってよ。なあ、圭?」俺は逃げるために圭に話を振る。


「いや。あまり深堀しないほうが良いよ…。」圭は眉を下げて言った。少し身をかがめて俺に耳打ちをしてきた。


「あれ、リスカの跡だと思うから…。」

その言葉を聞いた途端、俺の中に最初に嫌悪感が芽生えた。病んでいる女。


俺が最も苦手とするタイプだ。今まで俺にそんな素振りを見せることはなかったくせに。ふざけやがって。


心配なんてしねえ。病んでいるほうが悪いんだ。あんなお洒落な見かけして中身は地味子かよ。


俺はそう思って「なんで隠さねえんだよ。」とぶっきらぼうに言った。


陽葵ちゃんは目を見開いたがすぐに平静を装って「踏み入らないでほしい…。」と一言。


「先輩がそんなに酷い人だと思いませんでした…。」


酷い人?どこがだよ。

「ふん。君みたいな病んでいる人はこっちから願い下げだね。もういいよ。じゃあな。」俺はぶっきらぼうに告げると圭に「行くぞ。」と言って二人の元から離れていく。


「陽葵、あんな人とはもう関わっちゃだめだからね…。」安曇野が陽葵ちゃん…。いや、矢板に言い聞かせる声が聞こえてくる。


「何があんな人だよ。な、圭。」圭に話しかけたが、圭は戸惑った表情をしている。「あ、ああ…。」


「なんだ。つまらねえな。んなことより、あの二人を…。」俺が旭たちを探そうと喧騒に目を凝らした時だった。


遠くの方で、藍色の浴衣を着た旭が紫色を基調とした浴衣を着た女子…。誰だろうか。稲城には、見えない。


もしかして、俺たちに嘘をついて別の女子と仲良くなっていたのだろうか。許せない。


「あの女子、誰だ…。」圭もわからない様子だった。

「くそ!あいつめ。俺をコケにしやがって。邪魔しに行くぞ!」俺は圭を引き連れて喧騒の中を、人を押しのけて進んだ。


あいつが、女子と仲良く夏祭りで楽しむなんて許せない。

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