第14話(重複投稿)

 「ジー…ジー…」

セミの声が聞こえ、慌てて起きた。スマホを手に取り、時間を確認する。今は7:00過ぎだ。いつもより1時間ほど早く起きてしまった。少し眠たかったがこのまま時間を無駄にしたくなかったので俺はノートに書いてある英単語集のページを眺めてベッドの上で過ごすことにした。


10分程度経ったころ、スマホの通知音が鳴った。誰から来たものだろうと思い、スマホを見てみるとまたしても翔太からDMが送られてきていた。


「今日、昼会おうって話だったけどごめん。そのまま夏祭りでいいや。あと、夏祭りで自慢したやるから。」


は?自慢って…。とりあえず、昼頃に会わなくて済んだのはほっとした。夢の中の翔太を思い出してしまいそうだったからだ。


「わかった。楽しみにしとく。」

本当は楽しみになんて一ミリも思っていなかったがとりあえず送信しといた。


7:30になってもまだ私服は着ないようにして部屋着で一階に降りていく。まだほかの家族は起きてきていなかった。


チャンスだと思い、洗面所に向かう。顔を洗って、寝癖を直す。


「髪の毛、なんかやってみるのもありかな…。」俺は普段ただ寝癖を直すだけで前髪はそのままで手を加えていない。

今日は何か手を加えてお洒落に行こうかと思い、櫛やドライヤーを使って翔太のようにセンター分けにするか、前髪を上げるか試行錯誤していた。


普段髪をセットしていないので全然上手くできず、30分くらい鏡と向き合った挙句諦めてしまった。普段より念入りに櫛でとかしただけで終わりにした。


やっぱり一番の問題は服装だった。まだ夏祭りまで時間はあるし、後で検討することはできる。やっぱり、湊に相談すべきなのか…。


聞きずらいし、後でお金を要求されても困る。服を決めないと、夏祭りには行けない。


そんなこんなで14:00を過ぎてしまっていた。勉強を一旦やめた。スマホは昼前から開いていなかったので通知をとりあえず確認することにした。


すると、今日は圭からメールが来ていた。


「お前、昨日昼頃に公園来いって言ったのに何で来ないんだよ。今日どういう流れで行くか考えているところだぞ。14:00には帰っちゃうからそれまでに来い。」と来ていた。


しまったと思った。大慌てで俺は三人のグループトークルームを開き、弁明した。


「ごめん。お母さんに伝言か何かしてくれたのかもしれないけどお母さんが言ってきた日にちがずれていたんだ。言い訳がましいかもしれないけど申し訳ない。」俺はまた嘘をついた。これで何度目だろう。


数分後、翔太から返信が来ていた。「わかった。じゃあ、もう夏祭り本番で会おうぜ。」


意外とあっさりだった。「よかった。」と思い、俺は安心していたがいきなり部屋のドアを開けられて飛び上がるほど驚いた。


「うわっ」俺が小さく声を上げるとドアの外には湊が立っていた。湊が俺の部屋に自分から来るなんて何年ぶりだろうか。珍しい。俺は思わず怪訝な目で湊を見てしまった。


湊は真面目な顔をしていたが突然表情を崩して「着て行く服選ぶの手伝うよ。」と言ってきた。


俺はまさか湊のほうからそんなことを言ってくるとは思わなかったので「別にいいよ。」と反射的に断ってしまった。

だが湊はニヤリとした笑みを浮かべて

「そんなこと言って。失敗しても知らないぞ?」と挑発してくる。


「何がだよ。」と俺が言い返すと湊は「女子と行くんだろう。デート失敗しないように気をつけろ。」と言ってきた。

「なんで女子と行くことになってんだ。おかしいだろ。」「いやあね、前に女子とお前が図書館から仲良さげに出てきたのを俺の中学の時の友達が報告してきてね。確信してなかったけど今の反応的にそうだろ。」湊は痛いところをついてくる。嫌なタイミングで見られてしまったようだ。


「反応なんて、そんな根拠もない…。」「いいからいいから。服選ぶからさ。」そう言って湊は俺のタンスの引き出しを開けてきた。


「ちょ、やめろって!」俺は焦った。「うーん。似たような柄が多いな。柄なしの服も多いし…。」

「うるさい。仕方ないだろ。新しい服なんてあんまり買ってねーし、都会に出かける機会もあんまねーし、良い服なんてないってよ。」

湊は大して俺の言葉を耳に入れずタンスを漁っている。


「ぐちゃぐちゃにするなって…。」

すると湊は突然ポンと手を叩いて「あ。母さんが前に浴衣があるって言ってたな…。聞いてくる。」

「あ、あんのか。って勝手に行くなよ!」俺は湊を追いかけた


湊はリビングに行くなりお母さんに「旭が浴衣着たいんだって。前にあるって言ってたよな。」とでたらめを言って話し始めてしまった。


するとお母さんは一瞬眉間に皺を寄せた。「ああ、あるわ。実家からもらってきた男性物の浴衣。あれは、離婚するまで昭に毎年お祭りに行くときに着せていたわ…。でも、別にあの人のものってわけではないし…。」

「いいからいいから。もう三年は誰も着ていないんだからいいだろ。どこにしまってるんだ?」と湊は適当に流した。


「えっと、二階のクローゼットの…。」


湊は二階から浴衣を持ってきた。「なかなかいいぞ。」

その浴衣は昭が着ていたものなので見覚えがあった。藍色一色で、模様は一切ない。昭が着ると様になっていた。


「これ、俺着なくちゃいけないのか。」正直、浴衣は動きずらいし、面倒くさいしで着る気にはならない。それに、同年代の男子で近所の夏祭りに浴衣を着て行く奴なんてあんまりいないだろう。


「せっかくなら着ろよ。な?母さん。」お母さんは少し不満そうな表情を浮かべながら「そ、そうね…。」と言った。どうせ、昭が着ていたからとかそういう理由で着てほしくないのだろうと思ったが意外とそうでもなかった。


「着付け…。三年前までは近所の西さんの家に数日前からお願いしてやってもらっていたけど今年はお願いしていないのよ。それに、夏祭りもあと3時間で始まってしまうしどうしようかしらね…。」と悩んでいる。


「え?あそこの家暇そうだしお願いしてみようよ。」「失礼ね。まあ、夫妻どっちも定年退職をして一年前からいつも家にいるし…。行ってみる価値があるわね。」そう言ってお母さんは浴衣を片手に俺の手首をつかんで半分引きずるようにして連れて行った。


「恥ずかしいって。やめろ…。「会うの、一年ぶりでしょ。成長した姿見せなさいって。」


結局西さんの家は普通に時間があり、俺は奥さんに着付けをしてもらった。実際着てみると思っていたより似合っているような気がした。

奥さんにお礼を言ってから一度家に戻った。


「まあ。意外と良いわね。昔、私のお兄ちゃんも着ていたのよ。」とお母さんは感心しながら言った。


「歩きずらいし、走れねえよ。下駄だって履くならなおさら…。」俺は照れ隠しに文句ばかり述べた。

「よかったな。デート成功させろよ。」湊が茶々を入れてくるので俺は「ちげえよ!」と赤面して答えた。


すると、それを聞いたお母さんが突然真面目な顔をして「女の子なら、きちんと大切にしてあげなさい。それは、もちろん友達の場合でも同じよ。裏切ったりしないようにね。」と述べた。


途端、「嘘告白」という言葉が頭をよぎる。嘘告白は嘘告白した相手の期待を裏切るだけでなく、お母さんの期待も裏切ることになるだろう。そんなこと、分かっているはずなのに。今更、どうすればいいんだ。翔太と圭は当然俺が嘘告白を披露してくれるものだと思っているだろう。俺はなんて愚かなんだろう。


家族と友達、どっちを取ればいいのか今になって迷い始めた。どちらに失望される方が俺は辛いと感じるのだろうか。


「ああ、言われなくても!もういいって。そろそろ金の準備とかしないと…。」

「はいはい。相変わらずね。とりあえず、自信を持ちなさい。あんた、かなり見違えったんだから。あとはこう、髪の毛を…」

お母さんはそう言いながら俺の前髪に触れてくる。


「もういいっての。時間ないんだから。」

俺はお母さんの手を振り払い、自室へ財布を取りに行く。

「はい。これに入れていきなさい。」


お母さんに、紺色のポシェットのようなものを渡された。金魚の刺繡が施されており、夏祭り仕様だ。でも正直これは女子が持つものだろうと思い、「いいって。手に持ってくよ。」と言って用意されている下駄を履こうとすると、お母さんは俺の手からスマホと財布を取り上げ、ポシェットの中に入れてしまった。


そして、そのポシェットを俺の首にかけてしまった。

「く、くそ…。」小さい声で悪態をついた。

「くそ、なんて。いいじゃない。よりよくなったわよ。」

「あ、ありがとよ…行ってきます…。」俺は照れ隠しをしながら玄関のドアに手をかけた。


「頑張ってこい。」湊にそう言われ、俺は赤面して頷き、家を出た。


家から夏祭り会場まで歩きで10分はかかる。歩く途中、夏祭り会場に近づくにつれ、浴衣を着た子どもや俺と同年代くらいのやつらがワイワイ歩いていたり、夫婦二人で楽しみそうにしている人や孫と手をつないで浴衣に身を包んでいるおばあさんなどもいた。


17:00を過ぎ、わずかに聞こえる蜩の鳴き声。八月になり、日もだいぶ短くなってきている。まだまだ暑さは続きそうだ。俺はドキドキしながら一人、夏祭り会場へ足を運んだ。


夏祭り会場が見えてくる。夏祭り会場は近くの中央公園で開催されている。中央公園は広いため、毎年中では大規模な屋台と囃子などがある。道端には提灯が吊るされているのが見える。


ついに来た、という感じがした。レインとはあと10分後くらいに会うことになっている。


夏祭り会場に入る。中には多くの人々がいて、人気のある屋台は大行列ができている。


微かに匂ってくるわたあめやイカ焼き、たこ焼き、フランクフルト、焼きそばなどの匂い。人々の熱気の中で俺は一人、ぽつりと立っていた。


集合場所に、足を運ぶ。集合場所は、夢の中で見た景色にほんの少しだけ似ているような気がしてぞっとした。


スマホの通知音が鳴り、翔太から「集合場所どこだ?」と連絡が来ていた。


俺は今いる場所を入力してからいったん消した。夢の中の俺は今、入力したものをそのまま翔太に送っていた。そして、その後追跡され、嘘告白をし…。


あんなことが現実に起きて欲しくない。


そう思った現実の俺は嘘の集合場所を打ち込み、それを送信してしまった。


「人が多いから、見つかりにくいかも。」ふざけた弁明を書き、送信する。

これであの二人はしばらく俺たち二人を見つけないはずだ。


嘘告白。俺は本当にしなければいけないのか。いや、なんとかアイツらに見られないところでやってやるんだ。少なくとも反応だけは見られたくない。


見せてやるものか。いつの間にか俺の心にはアイツらへの反発心が芽生え始めてきていた。


レインが来るまでにどんな表情で接していこうかと試行錯誤しながら待った。



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