第2話(重複投稿)
ブー、ブー、ブー。スマホの目覚ましがなり、俺はゆっくりと目を開けた。今は7:00。総合の授業は午後にある。
地獄が始まるまであと半日もないのだと実感した。まだ心の準備も出来ていないのに。
ワイシャツの袖に腕を通しながら考えていると1階からお母さんが「まだ寝てるのー?旭!早く起きなさいよ!」と急かす声が聞こえてくる。
俺は適当に「はーい」と返事をしてから下へ行き、洗面所で顔を洗ってから机の上に準備された白米と味噌汁、おかずを食べる。テレビをつけて朝のニュースをみる。
「ー今日は午後から雨が降り始める模様ですー」お天気お姉さんがそう言っていた。「雨、か。」
いつの間にかいたのか、兄の湊がリビングのドアの近くに立ちながらテレビを見ている。
「やべ、もう7:30じゃん……」そう言うと湊は玄関へ向かった。「あ、湊!これこれ!」お母さんが慌てて玄関へ走っていく。「今日も勉強頑張ってくるのよね?このお菓子持って行って!」近所のスーパーで買ったお菓子をいくつか袋に詰め込んだやつを湊に渡しながら湊を見送った。
ご飯を食べ終えた俺はトイレにこもってスマホをいじっていると突然ドアを叩かれて「早く学校行って朝学習でもしなさい!」とお母さんに口うるさく言われた。
渋々俺はトイレから出て学校へ向かう。いつも歩く土手は一段と道のりが長く感じる。「ああ、行きたくない……」お腹の中に何かずっしりとしたものを感じる。
稲城と二人きりで話す様子なんて想像もできない。あんなやつと話すくらいなら学校へ行かない方がマシだと思ったが、こんなことで出席数を減らす訳には行かない。
8:10過ぎに学校へ着き、教室に入る。圭はまだ来ていないが、翔太はとっくに来ていた。
「おはよう。今日は頑張れよ。旭、期待してるぜ。」翔太はワクワクしながら俺に言い、クラスの他の男子が「なんのことだ?」と不思議そうに尋ねてくる。俺は「なんでもない」と答えたが、翔太は「総合の時間に面白いものが見れるぞ」と耳打ちをしている。
「余計なこと言うなよ!見世物じゃないんだぞ!」俺は少し大きめの声で言ってしまった。
教室にいた数人のクラスメイトが驚いて俺の顔を見る。「まあまあ、そう怖がる必要はないよ。しっかりサポートしてやるかるさ。」翔太は問題集を閉じながら言った。「そろそろ来るかな……圭のやつ。」
実際に圭は8:24と、予鈴ギリギリの時間にやってきた。「あれ?稲城さんまだかよ?」大きな声で圭が言う。
クラスの女子はくすくす笑いながら「めずらしく来ないよね」「不登校にでもなったのかな」と陰険に口々に言っている。
実際登校時間内の8:30にも稲城は登校して来なかった。
俺は内心ホッとしていたが圭と翔太はつまらなそうに1時間目の授業の準備をしている。「ちぇっ!それを楽しみに来てたのに!」圭は教科書をボンと机に叩きつけながら言う。「来なくてよかったよ。まだ心の準備が出来てなかったからな。」俺は安堵しながら言った。
翔太は「まあまあ、チャンスはまた来るよ。」と俺の肩に手を起きながら言う。「もしかしたら寝坊とかも有り得るよな?」俺は「そんなことねーだろ!休みだ、休み!だってさ、あいつなんか病気になりやすそうって言うか……」と言いかけた時、教室の扉が開いた。
そこにはジメッとした感じで稲城が立っていた。クラスの視線が稲城に集まる。
稲城は担任に「稲城!お前が遅刻するなんて何があったんだ?」と声をかける。稲城は「すみません。」としか言わずに自分の席に着く。
その声も相変わらず小さい。今日は気温が35度超えなのにも関わらず長袖のワイシャツにタイツとかなりの厚着だ。
俺たち3人は稲城に鋭い視線向けているが、あいつは動じない。これがまた、翔太の怒りをいつも買うのだ。「くそ、あいつなんだよ。こっち見ろっての。」翔太はわざと聞こえるような声で言いながら席に戻っていく。
俺は再び絶望した。今日、あいつに話しかけなければいけない。本当に地獄だ。総合の時間の前に、怪我をしたり風邪をひいたりしたっていい。とにかく逃げたい。
そんな願いも叶わず、総合の時間はやってきた。
担任が教卓にやって来て、端末を開いてプロジェクターに今日行うことを載せている。
「今日は、環境問題について話し合ってもらおう。それぞれこれから5分間、プリントに載っている環境問題の候補の中からひとつを選び、自分の考えを書き、2人組を作り、次の時間にその2人組ペアの中から何人かを選び発表してもらう。」
担任の指示を聞き、翔太が遠くから「な?言っただろ?」とでもいいたげな目でこちらを見てきている。
5分後、みんなが席を立ち、ペアを作り始めている。圭、翔太は二人でペアになり、「ほらほら、早く!」と急かしている。「早く稲城さんに声をかけなよ。」と圭は背中を押してくる。
俺は放心状態で歩いた。何も考えずに稲城の席へと近づいていく。稲城は席の前に立ったまま微動だにせずこの時間が終わるのを待っているかのようだった。
俺は稲城の席の前に立ち、声をかけようとした。稲城は俺の気配に気が付き、ゆっくりと顔を上げた。メガネの奥の目とあった。俺は一瞬背筋が凍った。
「い、稲城……。余っちゃったから、ペアにならないか?」俺は声を震わせながら言った。途端にクラスの奴らの視線が俺に突き刺さる。
「おいおいまじかよ?」「武蔵、本気なのかな?」「ぷっ、ネタに決まってら」口々に聞こえてくる声に我慢できなくなり、
俺は「い、稲城……」と名前を呼ぶ。稲城は俺の顔を見ないで「他にいないなら……」とか細く答えた。
スカートの裾を掴みながら指先が震えている。稲城は意外と背が高く、俺よりほんの4、5cm低い程度で目の高さが近い。
圭と翔太が小さく拍手していた。
俺の方から始める。「い、稲城はなんの環境問題にした……?」稲城は「私は植物。」と短く答え、プリントを突きつけてきた。俺はそれを汚れ物を扱うかのような受け取り方をした。
稲城の文字は結構丁寧で綺麗に書かれている。「私、花が好きだから。花を育てられる環境を保ちたい。ただ、それだけ……」「そ、そうか。たしか二人のうちどっちかの環境問題を選んで発表するんだよな?お前のでいいよ。」俺はなるべく話したくないので適当に言った。
「そう……」稲城は未だに俺の顔を見ようとしないで端末を開いた。「じゃあ、スライド作ろうか。」「お、おっけー……」
キーンコーンカーンコーン。総合の時間が終わり、俺は魂が抜けたような気持ちで圭と翔太の元に向かった。2人は「しっかり見てたぞ。二人の様子。」と嬉しそうに言っている。
すると翔太が「今度一緒に帰れよ。」と提案してきた。俺は「は?嘘だろ?」と慌てて言った。
圭は「確かに、そこまでしないと一緒に夏祭りに行ける関係になんてなれねーよな。な?旭くん?」と圧をかけてきた。
俺は「くそっ……。今度お菓子も奢れよ……」と渋々承諾した。翔太は「おっけー!決まりだな!」と俺の背中をバンバン叩き、「どうせなら同じ高校を目指すのもありだな!ガハハ!」と言いながら教室から出ていく。圭も後に続いていく。
俺は教室に1人取り残されて佇んでいた。稲城のやつ、俺の顔を全く見ようともせずに会話も全然続けようとしなかった。
本当にあいつはコミュ障陰キャなんだなと、俺は実感した。表情も分からないし怖い。何を考えているのだろうか。今度、あいつと同じ小学校だったやつに何かを聞いてみようと考えながら席に戻った。
放課後、圭と翔太と帰っていると遠くの方を1人とぼとぼ歩く稲城が見えた。
圭は「あいつ、なんで本当に反応しないんだろうな。言ってんの、聞こえてんだろ?」と稲城を睨みつけながら言う。
翔太は「俺は、あいつが泣くまでやり続ける。」と意地悪そうな笑みを浮かべながら言う。
「俺、中一の頃は5人の女子を泣かせたから!」と自信満々に……。圭は「は?しょぼっ!俺なんて7人だかんな!」と張り合っている。俺は……。まだ、一人もいない。
だが、今回で1人泣かせる可能性が見えてきた。「俺は……1人目になるかもな。」そうぽつりと呟き、二人と別れて土手を歩く。
途端に頭の中に小四の頃、お母さんから聞かされた言葉が蘇る。「女の子を傷つけるようなことをしては絶対にダメ!本当に……。」
俺は一瞬ドキッとした。「お父さんと、同じになっちゃうわよ……。2人も……」
この言葉は俺のお父さんの浮気が発覚した日に言われた。
「ああ……あんなこともあったな……」俺は家に向かいながら罪悪感に襲われていた。
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